2022年11月16日

No.1428 理想的な株主構成とは?

最初に答えを言いますが「そんなものはないし、考えるだけムダ」です。そもそも株主構成をコントロールすることは可能でしょうか?可能は可能です。例えば、持ち合いは株主構成をコントロールする1つの手段です。もう1つは売出しです(公募増資でも可)。例えば金融機関が持ち合い解消をしたいと申し出てきたときに、市場で勝手に売却されるのではなく「国内個人投資家向けに売出ししてほしい」とお願いすれば、個人株主に株式を保有してもらえます。ただしこの場合、株主構成をコントロールできるのは「瞬間的に」です。売出しで個人投資家に株を持ってもらえたとしても、ディスカウント価格で株を買った個人投資家は瞬間で売却する可能性があります。

ですから、なるべく中長期にわたって株主構成をコントロールしたいと考える場合、効果的な施策は持ち合いしかありません。

外国人投資家と個人投資家をコントロールするのは不可能です。株価が上がれば買ったり売ったりする投資家層を会社がコントロールすることはできません。ですから、株主構成をコントロールして理想的な形に持って行こうなどと考えることはナンセンスなのです。そもそも理想的な株主構成ってなんなのでしょうかね?

では、持ち合い株主ゼロ、安定株主ゼロという前提で考えてみましょうか?株主提案対策としての理想的な株主構成とは???個人株主比率100%が理想的です。なぜなら個人株主は議決権行使をしない株主が多く、かつ、議決権行使をしても白票で投票してくれる株主が多いからです。だから株主提案を否決させるためには個人株主比率が高い方がよいです。

では敵対的TOB対策としての理想的な株主構成とは?個人株主が多い方がよいでしょうか?これは違いますね。たしかに一説には個人株主はファン株主だ!ファンだから敵対的TOBには応じない!という話もありますが、これ都市伝説でしょう。基本的にどの会社の株価と株主構成の推移を見ても、株価が下がると個人株主比率が増え、株価が上がると個人株主比率が減ります。個人株主は「株価が下がったら買い、上がったら売る」という株主なのです。ということは、市場株価にプレミアムがついたTOBであれば、敵対的と言えども高い株価なのですから、個人株主は応じると考えたほうがよいでしょう。

となると、敵対的TOB対策としての理想的な株主構成とは?機関投資家比率100%が理想的ですよ。機関投資家はその会社の中長期的な価値を分析した上で投資するでしょう?仮に市場株価にプレミアムがついていたとしても、その価格がBPSを下回っていたり、中長期的な目標株価を大きく下回っていたりするような場合は、「プレミアムはついているけど価格が安い」と合理的に判断するはずです。例えば、ちょっと話は違いますが、旧村上ファンドが東芝機械に対して敵対的TOBを実施した際、米国の機関投資家であるブラックロックは買収防衛策発動議案に賛成しました。ISSも賛成推奨をしました。旧村上ファンドのTOBは全株買収ではなく、部分的買収であるからです。目先の株価にちょこっとプレミアムがつけられたくらいでは、応じないと考えてもよいだろう1つの材料です。

このように、仮に理想的な株主構成があるとしても、置かれている状況によって理想的な株主構成というのは違うのです。証券会社とかIR業者は「IRをやってアピールして海外の投資家に持ってもらいましょう」とか「個人投資家説明会をやりましょう」とか言うでしょうけど、ムダですよ。海外の投資家にいくらアピールしようが、彼らは独自に買うかどうかの分析、検討をします。いくら貴社がアピールしたところで、材料にはならんでしょう。IRの結果「お!こんな隠れたいい会社があったのか!」なんてことにはこの情報化社会ではあり得ません。そして個人投資家向け説明会をやっても意味ないです。何人出席して何人が買うでしょうかね?100人出席して、10人が100株ずつ買ってくれたら、個人株主が1,000株分増えたということになりますね。まったく意味がありません。費用対効果があわない。

理想的な株主構成、最適株主構成というのが議論されるようになったきっかけは、持ち合い解消による安定株主比率の低下です。

・持ち合い解消により安定株主比率が低下する

・今のご時世で新たに持ち合いをして安定株主を増やすのはどうにもカッコ悪そうだ

・であれば安定株主に代わる「なるべく物言わぬ株主」はいないのか

・そういった物言わぬ株主は誰で、全体としてどういう株主構成がいいのか

こういう思考回路で「理想的な株主構成とは?」「(最適資本構成をもじった)最適株主構成とは?」という議論が始まったんですよ。はっきり言いますが、そんなの答えはありません。いや、ストレートに回答するとしたら「本音では安定株主を増やしたいんでしょ?だったら持ち合い先と理屈を考えましょう」ということです。

一方で「うちの安定株主比率はどれくらいがいいんだろうか?」というのは考える価値があると思いますよ。全体的な株主構成の傾向を見つつ、適切な安定株主比率を考え、それに向けて必要な施策(不要な持ち合い株の売却、必要に応じて追加の持ち合いなどなど)を打っていくということは大切です。

 

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