2021年10月12日

SBIvs新生銀行から学ぶべきこと

ちょっと最近ニュースのアップをさぼっていました。すみません。ちょっと長いです。

以下の日経記事をご覧ください。

新生銀行、SBIのTOBに反対へ 銀行初の敵対的買収に

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB08A8J0Y1A001C2000000/

新生銀行はSBIホールディングスが実施中のTOB(株式公開買い付け)に反対の意向を表明する方針を固めた。TOBが成立するとSBIが親会社となり、上場子会社となる新生銀の一部株主の権利が阻害されるとの懸念を深めている。10月中旬にも開く取締役会を経て、正式に意見表明する。銀行業界で初めての敵対的買収に発展する。

注目すべきは「銀行業界で初の敵対的買収」という点です。日本で初めて起きた敵対的TOBをご存知ですか?ケーブルアンドワイアレスによるIDC(未公開企業)に対する敵対的TOBがおそらく初だと思われます。1999年5月のケースです。誰も覚えていないと思います。

日本で初の敵対的TOBが起きたのが1999年で、本格的になったきっかけが2000年の村上ファンドによる昭栄に対する敵対的TOBです。そして2003年にはスティール・パートナーズがユシロ化学とソトーに対して同時に敵対的TOBを実施しました。2006年にはドン・キホーテがオリジン東秀に、王子製紙が北越製紙に敵対的TOBを仕掛けました。

2007年にはスティール・パートナーズがブルドックソースに対して敵対的TOBを仕掛け、買収防衛策の発動で対抗しました。リーマンショックの影響で2008年からは多少落ち着いていましたが、2017年に佐々木ベジさんがソレキアに対して敵対的TOBを仕掛け、成功させました。

そして昨今、もっともインパクトのあったケースが起きました。2019年の伊藤忠商事によるデサントに対する敵対的TOBです。この敵対的TOBは伊藤忠商事の持ち株比率をおよそ30%から40%に引き上げるというものですから、条件的には10%程度の株式しか取得しないものでした。しかし、日本を代表する総合商社である伊藤忠商事が敵対的TOBを経営戦略の1つとして選択したことに大きなインパクトがありました。

その後は敵対的TOBラッシュです。旧村上ファンドvs廣済堂、HISvsユニゾ、コクヨvsぺんてる、HOYAvsニューフレアテクノロジー(TOBは実施せず)、旧村上ファンドvs東芝機械、前田建設工業vs前田道路、コロワイドvs大戸屋、ニトリvs島忠、ストラテジックキャピタルbs京阪神ビルディング、フリージア・マクロスvs日邦産業、日本製鉄vs東京製綱、旧村上ファンドvs日本アジアグループ、エフィッシモvsサンケン電気・・・。

そしてSBIが新生銀行に敵対的TOBを仕掛けました。銀行業界初の敵対的TOBです。おもしろいことに、銀行って買収防衛策を導入している企業がないんですよね。なんででしょう?(もちろん、生損保もないと思います。証券会社は中堅どころが2社くらい?導入しています)

規制で守られていると「誤解」していたからではないでしょうか?もちろん銀行の方々だって本気で守られているとは思っていなかったでしょう。でも「敵対的TOBを仕掛けられるリスクがゼロではないが、金融庁の規制があるし、まあ、大丈夫だろ?時価総額だって大きいし」と思っているのでは?

これ、何も銀行業界に限ったことではありません。日本企業全社に共通することですよ。これだけ日本企業に対して敵対的TOBが実施される中、数多くの会社が買収防衛策を廃止しています。これだけアクティビストの活動が活発化しているのに、平時からちゃんと対策を打つ企業が少ないように私には見えます。日本企業はこれだけ敵対的TOBが増え、アクティビストの活動が活発化しているのに、どこかで「うちは大丈夫なんじゃないの」って思っているのではないでしょうか?

敵対的TOBを仕掛けられた会社もまさにそう思っていたことでしょう。ちなみに、敵対的TOBを仕掛けられると、究極的には守ることは困難です。有事型で守った東芝機械(芝浦機械)などのケースもありますが、本気で買収しようと思えばできるはずです。日本企業は安定株主比率が減っていますから、大半の企業が敵対的TOBを仕掛けられたら成功してしまう状態です。

今の日本企業の防衛体制は私からは「運まかせにしている」ように見えます。多くの会社が敵対的TOBを仕掛けられたときのリスクは認識しているものの、「でも買収防衛策も賛成してもらえないし、何もできることがないじゃないか」とあきらめているのではないでしょうか?

そんなことはありません。企業防衛は知恵と工夫の結晶です。平時型の買収防衛策に賛成してもらえないのなら、賛成してもらうための知恵と工夫を凝らせばよいです。平時型の買収防衛策を改良すればよいのです。株主総会にかけなければよいのです。株主総会にかけなくても機能する買収防衛策を考えればよいのです。

その敵対的TOBがすべてのステークホルダーを幸せにする条件なのであれば、なにも反対する必要などないでしょう。でも、株主だけが得をして、従業員がなきを見る敵対的TOBだったら?以下のようなことになりかねません。

No.552 買収防衛策を導入しないのは無責任だ!!!(無料公開)

会社のために尽くしてくれた役員や従業員が泣きを見るような敵対的TOBなら、経営者は毅然と反対すべきでしょうし、そのような敵対的TOBを仕掛けられないよう、平時からちゃんと企業防衛体制を検討しておく必要があります。買収防衛策の検討だけではなく、当然、株価も重視しなくてはなりません。買収防衛策だけでもないし、株価だけでもない。企業防衛とはそんなに単純な話ではありません。

そろそろきちんと企業防衛体制を構築しなおしましょう。明日、貴社に敵対的TOBが実施される可能性があります。上場している以上、等しく全社のその可能性があります。

「いざとなったら買収されるしかないじゃないか」というご意見もあろうかと思いますが、それを経営者が言っちゃあおしまいです。従業員の身になって考えることが大切ですよ。従業員が安心して働ける会社にすることが経営者のつとめです。

 

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