2019年03月28日

No.552 買収防衛策を導入しないのは無責任だ!!!(無料公開)

さて、この方々は誰でしょうか?

田中 嘉一 1957311日生  62歳 19794月入社 勤続年数40

三井 久  19541012日生  64歳 19774月入社 勤続年数42

羽田 仁  1955521日生    63歳 19794月入社 勤続年数40

辻本 謙一   19551230日生  63歳 19794月入社 勤続年数40

全員、今回デサントの役員をクビになったデサントプロパーの方々です(石本社長以外)。皆さん、1977年から1979年にデサントに入社された方々です。40年以上、デサントのために尽くした方々です。皆さん、役員に就任されるまでさぞ大変だったろうと思います。上場会社の役員になられてからもさぞ大変だったろうと思います。この方々のお子さんはもう大きいのでしょうか?ローンは払い終わっているのでしょうか?この方々は、出社する最後の日に花束を渡されて拍手で見送られるのでしょうか?ぜひそうあってほしいものです。

これが敵対的TOBを仕掛けられた会社の末路です。誰か幸せになったのでしょうか?花束を渡され拍手で見送られたとしても、ご本人はさぞ無念だったのではないでしょうか?私は、敵対的TOBをまったく否定しません。むしろ肯定しています。その敵対的TOBに大義があれば、よろこんでお手伝いしますし、私の秘策で絶対に成功するようアドバイスします。一方で、私の顧客に敵対的TOBが仕掛けられたら全力で戦います。中途半端な戦をするつもりはありません。

今回の伊藤忠vsデサントですが、これまでご説明したとおり、デサントが買収防衛策を導入できるタイミングはいくらでもありました。株式の3割を伊藤忠に保有されているものの、デサントの社長が早く腹を括りさえすれば、買収防衛策を導入し、その武器を持って伊藤忠とガチンコで戦うことができました。最終的にTOBを仕掛けられることになったとしても、このように役員の皆さんがさみしい思いで会社を去るような形にはなりませんでした。※今回のコラムは無料公開するので、どうやって買収防衛策を導入するのかはふせます。

デサントの石本社長はここまで考えたのでしょうか?伊藤忠に敵対的TOBを仕掛けられたら、40年以上デサントに尽くしてくれた役員が追い出されてしまうということを考えたのでしょうか?そんなことにならないよう、全力を尽くして対抗策を考えたのでしょうか?

私が買収防衛策を導入しないのは無責任だと考える理由がこれです。これまで会社のために尽くしてくれた役員が最後には追い出されます。場合によっては買収後、会社のために尽くしてくれている従業員がリストラされます。ファンドの買収なんてそうでしょ?だってファンドは足し算と引き算のM&Aしかできないでしょ?利益を出すためにやることは、人員削減を含めたリストラでしょ?そのようなことにならないよう、経営者は責任をもって買収防衛策を導入すべきなのです。株主の利益を守るためでもありますし、従業員の幸せを守るためでもあります。買収提案の詳細な情報や検討するための時間、買収後にリストラをしないことなどの確約をとるための交渉・・・・。通常、友好的なM&Aが成立するのにどれくらいの時間がかかりますか?敵対的TOBが終了するまでの最短の期間は30営業日です。1か月半ということです。友好的なM&Aであっても1か月半で終了しますか?しないでしょ?1年、2年かかるでしょ?ましてや敵対的TOBなんて30営業日で終わらせてよいはずがないんですよ。確認すべきこと、交渉すべきことが山ほどあるのですから。

以下の会社は、伊藤忠がデサントに敵対的TOBを仕掛けているにも関わらず、買収防衛策を廃止しました。

安定株主比率ですが、ミズノ35.95%、セントラル硝子19.19%、レンゴー34.77%です。ミズノとレンゴーは買収防衛策を株主総会にかければ、私の経験上、確実に継続できた会社です。でもそうしませんでした。なぜでしょうか?ミズノはデサントの同業です。同業のデサントに敵対的TOBが仕掛けられたのに、買収防衛策を廃止しました。伊藤忠とデサントの固有の問題であってうちは関係ないと考えたのでしょうか?レンゴーは四季報によると製紙業界3位だそうです。その昔、王子製紙が北越製紙に対して敵対的TOBを仕掛けました。伊藤忠によるデサントへの敵対的TOBが公表された後、マスコミは「王子製紙vs北越製紙以来の大企業同士の本格的な敵対的TOB」と騒ぎました。過去を忘れたのでしょうか?ちなみに、業界3位って微妙ですよ。同じく海運業界3位の川崎汽船がどうなっているのか知らないのでしょうか?エフィッシモに38%も買われているのに。

そしてセントラル硝子。村上ファンドが現在株主です。新明和工業や廣済堂のケースを見ていないのでしょうか?あれほど話題になっているのに。

この3社は絶対に買収防衛策を廃止してはいけない会社ではないでしょうか?同業が現在敵対的TOBを仕掛けられている、かつて同業が敵対的TOBを仕掛けた、現在アクティビスト・ファンドが株主になっている・・・。私には廃止する思考回路が理解できません。

皆さん、敵対的TOBを仕掛けられたら、今の日本の会社はほぼ買収可能です。安定株主比率が高くても、絶対に20~30%程度の株式を取ることはできます。安定株主比率が低ければ40%程度の株式を取ることができます。ほとんどの会社は買収可能です。

一方、2006年に改正された公開買付制度はいかがでしたか?TOB期間は20日~60日が20営業日~60営業日に伸びました。敵対的であれば30営業日は確保できます。さあ、デサントは30営業日の期間を設定されましたが、時間は十分にあったのでしょうか?質問権も認められています。デサントは質問権を行使して十分な回答を得られたのでしょうか?デサントは質問権すら行使しませんでした。でも株主は質問権を行使しなかったことを誰も問題視していません。情報など株主は欲していないのです。ソレキアは質問権を行使しましたが、十分な回答など得られていません。理由を付ければ回答しなくてよいのですから、キモとなる質問になど十分な回答をする訳がありません。

デサントの労働組合は伊藤忠の敵対的TOBに反対を表明しました。株主が「従業員がかわいそうじゃないか!みんな!TOBに応募するのをやめようよ!」って言いましたか?言う訳ありません。株主は従業員のことなど考えません。デサントの石本社長は従業員を敵対的TOBの矢面に立たせました。さて、伊藤忠に歯向かった労働組合を伊藤忠は許すのでしょうか?労働組合の委員長は大丈夫でしょうか?今後のデサント内での出世に響きませんか?そこまで考えた上で石本社長は労働組合の反対意見表明を出すことを許可したのでしょうか?

皆さん、敵対的TOB・買収を仕掛けられたら、まず間違いなく成功します。そして、皆さんの会社が敵対的TOBを仕掛けられたら、役員の皆さん、管理職の皆さん、従業員の皆さんがどうなるか想像できたでしょうか?「敵対的TOBという目立つ行動をしたのだから、まさかいきなりリストラなんてできないだろ?マスコミや世の中が注目しているから、そうそうリストラなんてできるはずがない」 そうですか?いずれ世間は注目しなくなりますよ。思うように利益が出なかったら?迷うことなく従業員を切るでしょう。その買収者がかつて自社の社員をリストラしたことがあるのなら当然します。「伊藤忠 リストラ」でネット検索したらこんな記事を見つけちゃいましたけど・・・。

https://japanese.joins.com/article/j_article.php?aid=52590

皆さんは自分の後輩である部下にリストラを通告したいですか?皆さんは自分の先輩である社長や役員がクビになる姿を見たいですか?見たくないでしょう?リストラは株主利益最大化のためにやるもんではありません。やむにやまれず会社の存続のためにしょうがなくやるもんでしょう?

だから私は、会社を守るための、買収防衛策と誤解されている事前警告型ルールや私が考案した新しい事前警告型ルール(いつも読んでくださっている皆さんは名称をご存知ですが無料公開しているのでふせます)を皆さんに導入・継続してもらいたいと思っています。

役員を含めた従業員や取引先など会社の価値の源泉を守るための、会社の危機管理ツールの一環としての会社防衛策を導入することは経営者の責務であります。

「こんなに買収防衛策を廃止しているのに、いまさら買収防衛策なんて導入・継続しにくい」 買収防衛策を廃止した会社は正確な情報をもとに廃止した訳ではありません。買収防衛策の時代ではない!コーポレート・ガバナンス強化だ!買収防衛策なんて時代錯誤だ!違うでしょ?「株主が買収防衛策に反対して株主総会を通せない」と思ったから廃止したんでしょ?既存の買収防衛策の導入方法を工夫すれば対応できます。廃止した会社だって新しいタイプの買収防衛策であれば導入できます。

いまさら買収防衛策を導入しにくいなんて考えないほうがいいですよ。敵対的TOB/敵対的買収が本格的に始まるのは、いまからです。

 

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