2019年04月29日

「敵対的買収 再び高水準」という記事について思うこと

本日4月29日の日経3面に「敵対的買収 再び高水準」という記事がありました。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO44338230Y9A420C1EA2000/

コールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)がRJRナビスコに敵対的買収を仕掛け、その後事業を解体・売却したのは1989年だそうです。「野蛮な来訪者」ですね。世界で最大のM&A案件であるボーダフォンによるマンネンスマンへの買収は敵対的買収です。1999年に起きたそうです。「敵対的M&A」防衛マニュアル―平時の予防策 緊急時の対抗策でまとめています。KKRによる敵対的買収はちょうど30年前、そしてボーダフォンによる敵対的買収はちょうど20年前に起きました。

この30年、20年で日本企業に起きた最大の出来事は何でしょうか?私は「持ち合い解消」であると思っています。特にこの10年の持ち合い解消のペースは非常に速いと思っています。金融機関による持ち合い解消だけでなく、事業会社による持ち合い解消も進んでいます。

そして10~15年前、村上ファンドやスティール・パートナーズなどによる日本企業に対する敵対的TOBが起きました。王子製紙による北越製紙に対する敵対的TOBも起きました。「日本企業に対する敵対的買収が本格化するか?」と言われましたが、リーマンショック等の影響もありアクティビスト・ファンドの動きが沈静化し、本格化することはありませんでした。

しかし2017年になって、誰も気づかなったけれども、佐々木ベジさんがソレキアに対して敵対的TOBを実施しました。大企業の富士通がホワイトナイトとして登場するも、TOB合戦で競り負け、見事佐々木ベジさんが敵対的TOBを成功させました。

2019年になって、伊藤忠商事がデサントに対して敵対的TOBを実施しました。「久しぶりの大企業による敵対的TOB」と報じられました。伊藤忠商事の敵対的TOBは出資比率を30%から40%に引き上げるだけのものであり、成功の難易度は高くありません。本件で重要なのは「日本を代表する総合商社である伊藤忠商事がM&A戦略の一環として敵対的TOBを選択した。」ということです。

日本の社会はこれまで「敵対的TOB=乗っ取り」と取られてきたため、企業が敵対的TOBを選択しにくい世の中であったと思われますが、伊藤忠商事の行動によりタブーはなくなったと思っておいたほうがよいでしょう。

そして村上ファンドは完全復活しました。規模はかつてほどではないものの、村上ファンドは日々その規模を拡大させています。「当社が村上ファンドのターゲットになることはないだろう。村上ファンドの規模はかつてほどではない」と考えるかもしれませんが、村上ファンドはどんどん投資・回収し、どんどん成長しています。2~3年後には貴社もターゲットになるでしょう。

日経の記事の中で気になる箇所がいくつかあります。まず、

地域別ではアジアの存在感が増している。18年の敵対的買収案件中、最多は欧米(16件)だが、アジアは8件と前年(2件)から急増した。企業統治環境が欧米並みに整備されつつあり、マネーを呼び込んでいる。活発になっているのが敵対的買収として表面化する前段階ともいえるアクティビスト(物言う株主)の動きだ。

米調査会社アクティビストインサイトによると、19年1~3月では295社の株主提案があった。18年年間では世界で前年比9%増の935社の株主提案があった。そのうちアジアは2割増で、日本が過去5年で34件増えたほか、香港、韓国でも増加が顕著だ。

これまさに日本のことでしょ?敵対的買収として表面化する前段階ともいえるアクティビストの動き、ってまさに今の日本の状態ですね。

世界の有力ファンドがアジア企業に照準を定めている。東芝株を5%強保有する米キング・ストリート・キャピタル・マネジメントは同社にファンド創業者らの社外取締役就任を提案した。米エリオット・マネジメントは昨年11月、韓国の現代自動車に対し自社株買いを要請した。

東芝はまだアクティビストが社外取締役就任を提案した段階ですが、オリンパスはアクティビストを社外取締役として受け入れました。そしてエフィッシモに38.99%の株式を取得されていた川崎汽船もエフィッシモから社外取締役を受け入れることを発表しました。あの名門川崎汽船が、です。

そして、最も気になる箇所が以下です。

財閥系企業が多いアジアでは、米国と比べて株主の意見が経営者に反映しづらい傾向があった。敵対的買収の増加は経営者が株主を強く意識する契機となりそうだ。

これこのように変えてみたらどうでしょうか?「安定株主比率の高い企業が多い日本では、米国と比べて株主の意見が経営者に反映しづらい傾向があった」

さて、今の日本企業はどうなんでしょうか?安定株主比率は高いですか?敵対的TOBが成立しないほどの安定株主を確保している会社が日本にどれだけありますか?少なくとも時価総額数千億以上ある会社の安定株主比率なんて、たかがしれています。20%もない会社が多いです。

今こそ買収防衛策と呼ばれているけど実は買収提案を阻害するための施策ではなく、誰もが経験したことのない敵対的買収対応としての時間と情報を確保するための事前警告型ルールの導入・再導入を真剣に検討する時期であると私は考えます。

 

このコラムのカテゴリ

関連する
他のコラムも読む

カテゴリからニュースを探す

月別アーカイブ