2019年12月05日

村上さんの文春オンラインの記事

週刊文春オンラインに「生涯投資家」村上世彰が東大で語った金銭教育──親子でお金の話をすれば日本経済は復活するという記事があります。記事に以下の記載があります。

私はニッポン放送株をめぐるインサイダー取引の裁判で、お金儲けの権化と言われました。判決には、「安く買って、高く売る。おぞましい」とまで書かれました(笑)。これにはびっくりしました。次の日のウォールストリート・ジャーナルでは「そんな判決が出る日本がおぞましい」と報道されました。私の行為をペナルティだ、とするのは、裁判の結果なら仕方ない。しかし、そういう思想自体が蔓延すると、この国は間違いなく亡びます。

これ、よく村上さんがおっしゃっているんですけど、裁判所の判決文にはそうとは書かれていないんですよね。よく読むと裁判所が言っているのは「安く買って、高く売る。おぞましい」ではなく、以下のとおりです。

https://www.westlawjapan.com/case_law/pdf/WLJP_10-01-2008_04_22.pdf

第3 その他の悪質な情状について

被告人は,前記のとおり,早くは,9月15日会議の段階から,ニッポン放送株の公開買付けを表明したフジテレビを「メイン」,ライブドアを「サブ」として両天秤に掛けつつあったが,遅くともフジテレビのTOB表明後は,より大きな利益を得られるライブドアによる大量買集めの実施を「メイン」としてこれに加担することとし,本件で取得したものも含めて保有するニッポン放送株の約半分を,フジテレビが実施した公開買付けの買付価格よりも高値でライブドアに引き取らせて,まず巨額の利益を確定させ,さらにライブドアが大量買集めを公表して市場価格が急騰するや,保有するニッポン放送株の残りの大部分を市場で売却し,再び巨額の利益を得ている。しかし,フジテレビの側からみれば,もともとフジテレビのTOBは被告人が実施を働き掛けたものであって,これに応じないこと自体が裏切りであるのに,こともあろうに敵対的買集めをするライブドアに株式を売却されてしまったのである。他方,ライブドアの側からみても,経営権を奪取するまでファンド保有分は持ち続けるから「おれを信じろ」などと言われて安心させられた上,たき付けられて大量買集めに走るや,土壇場でファンド保有分の半分を高値で引き取らされ,挙げ句にもう半分は市場で売り抜けられてしまったのである。それなのに,被告人は,本件に係る株取得がインサイダー取引に当たることなど一顧だにせず,「ファンドなのだから,安ければ買うし,高ければ売るのは当たり前」と言うが,このような徹底した利益至上主義には慄然とせざるを得ない。

読んでいただければわかるとおりです。裁判所は単に安く買って高く売ることに対して「おぞましい」と言っている訳ではありません。正確には「慄然とせざるを得ない」と言っているのですが。

フジテレビに対してニッポン放送株にTOBを実施するよう働きかけ、「オレを信じろ」と言ってけしかけたライブドアが登場するや一部株式をフジテレビの敵であるライブドアに売り渡し、そして、「オレを信じろ」とライブドアを安心させておきながら市場で高くなったところで売り抜けた、という行為やインサイダー取引に当たることなど一顧だにせず、徹底的に利益至上主義に固執する姿勢や態度に対して慄然としているのではないでしょうか?この判決文を読めばそう思いますがね。

判決文を一部切り取られたり、村上さんのこういった発言であったりによって、誤解している人が多いように思います。頭のいい裁判官が単に安く買って高く売る行為に対して慄然となんかする訳がありませんから。

 

 

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