2020年01月22日

東芝機械の対応方針を解説

いろんなニュースやコメントを見ていると、どうも買収防衛策の導入と発動がごちゃごちゃになっているような気がしますので、ちょっと整理しますね。

今回の東芝機械が有事に導入した買収防衛策類似の対応方針(以下、対応方針)は、まあ買収防衛策の導入と考えていただけばよいと思います。一般的な買収防衛策は20%以上の株式を取得したいと考えている買収者に対して、株主をはじめとしたステークホルダーのために買収提案の詳細な内容などに関する情報と検討するための時間の提供するよう求めています。一般的な買収防衛策でも、ルールを守らずに突然TOBを仕掛けてきたら取締役会決議で発動します。ルールを守った場合は発動せず、買収防衛策を発動するかどうかは株主意思確認総会にはかって決めます(そうじゃない場合もありますが、最近は株主意思確認総会にはかる会社が多いです)。

なお、買収防衛策導入時に株主総会にはかる会社が多いですが、絶対にはからなくてはならない訳ではありません。そもそも買収防衛策は株主総会の議案ではありません。株主総会議案にするために、定款で買収防衛策導入に関する条文を設定したうえではかっている会社もあります。ただ、定款変更するためには特別決議が必要で、買収防衛策には機関投資家の多くが反対することから、定款変更しにくい会社はあえて普通決議で買収防衛策を総会にはかっています(宣言的決議、勧告的決議と言います)。なお、定款変更して導入する会社も、定款変更は特別決議が必要ですが、買収防衛策導入議案自体は普通決議です。

また、株主総会にかけずに取締役会決議で導入している会社もありますエーザイとかGMOです。かつての日本製鉄(昨年廃止)もそうです。日本製鉄の場合は、有事になって買収防衛策を発動するかどうかは必ず株主意思確認集会を開催するから、平時の導入時に株主総会にはかる必要はないという理屈でした。パナソニックも買収防衛策を導入しましたが、間接承認タイプでした。間接承認とは、買収防衛策自体は取締役会決議で導入するものの、導入に賛成した取締役が総会で承認されていることをもって、間接的に買収防衛策も承認されいているとするものです。

では東芝の対応方針は何が違うかと言うと、まず導入時に株主総会の承認を得ていません。まあ、この点は株主総会にかけずに買収防衛策を導入している会社もありますし、平時における取締役会決議での導入は否定されていませんので、何ら非難されるものではないでしょう。今回のポイントは、果たして一度廃止した買収防衛策を、いざ買収者が現れTOBを提案されている有事の段階で導入してよいのかどうか、という点かと思われます。

私としては「導入してもいいんじゃないの?だって東芝機械さんは廃止時のプレスでちゃんと、廃止はするけど買収者が現れたら株主のために情報と時間を確保するよう努力します」と言っているのですからいいと思いますよ。株主のために情報と時間を確保するんでしょ?誰が困るんですか?買収者だって別に困らないでしょ?

しかも今回の対応方針では、むやみやたらと時間を引き延ばすことはできません。通常、平時に導入されている買収防衛策では、情報のやり取りに制限期間を設けていないタイプがあります。こういう買収防衛策では、極端な話、いくらでも時間をかけて情報提供を要請することも可能です。ただし、企業価値研究会の報告書では「むやみやたらと時間をかけちゃだめよ!出せない情報を出せ出せと強要するのもだめよ!」って言われているので、現実的には難しいかもしれません。今回の東芝機械の対応方針では、取締役会が結論を出すのも含めて、60営業日と区切っています。それほど時間をかけられるものではありません。昨日、村上ファンドが公開買付届出書を提出したことを考えると、仮に村上ファンドが東芝機械の対応方針のルールに従っていたとしたら、東芝機械の結論が出るのは最長で4月17日(金)頃です。

そして対抗措置を発動するかどうかも、この60営業日以内で決定されるのですが、対抗措置発動を決める株主意思確認総会は60営業日の期間が終了した後になります。現実的には6月の定時株主総会を利用する予定だったのではないでしょうか?では対抗措置とはなんでしょうか?

いろんなところでも指摘されていますが、新株予約権の無償割当です。この新株予約権は一定の基準日時点の全株主に付与されるのですが、村上ファンドは行使できないという仕組みです。ですから、対抗措置を発動した場合、村上ファンド以外の株主が行使することで、村上ファンド以外の株主の持ち株が増えることで、村上ファンドの持ち株が希釈化されます。ルールでは「新株予約権の目的となる株式の数」は「取締役会が別途定める数」となっていますが、おそらく1株でしょうね。東芝機械の発行可能株式総数は72,000,000株で、発行済株式総数は29,977,106株ですから、新株予約権1個につき1株でしょうね。2株にすると発行可能株式総数を超えちゃいますし、発行差止請求をされたら「非常に強力な対抗策」と言われるかもしれないので。

では対抗措置を発動すると、どういう流れになるか?まず現状ですが、東芝機械は村上ファンドがルールに従わずにTOBを強行したことから、ルール違反として取締役会決議で対抗措置を発動しようとしています。買収防衛策のルール違反として対抗措置を発動したケースはないと思います。ブルドックソースが発動した時は、株主総会特別決議を取り、スティール・パートナーズの希釈化分を現金で補ったことが評価され、スティール・パートナーズの発行差止請求は認められず、ブルドックソースが勝利しました。しかし今回、東芝機械が取締役会決議で対抗措置を発動するとなると、かなりハードルが高いように思います。有事において株主総会特別決議を取っていないだけではなく、対応方針の導入そのものも株主総会の決議を取っていないからです。平時において買収防衛策を株主総会決議を取って導入している会社は、ルールを破ったら取締役会決議で発動しますよということも含めて総会決議を取っているのです。東芝機械は導入時にも総会決議をとっておらず、有事になって導入し、かつ、ルール違反として取締役会決議で発動しようとしています。これが今回の東芝機械の行動が「ちょっと厳しいのではないか?」と言われている所以です。

 

このコラムのカテゴリ

関連する
他のコラムも読む

カテゴリからニュースを探す

月別アーカイブ