2020年03月13日

前田建設がTOBを終了させた理由を考えてみる

前田建設はなぜ前田道路に対する敵対的TOBを延長もしくは撤回して再度価格を設定しなおしてTOBという選択をしなかったのでしょうか?前田道路は1株650円、総額約536億円の特別配当を実施すると公表しました。対抗策と言われていますが、実際には対抗策になりません。申し上げた通り、前田建設がTOBを延長し、特別配当議案を否決するか、仮に可決されたとしても、一旦TOBを撤回し、TOB価格を設定しなおしてTOBを仕掛けなおせばいいだけの話ですから。

当然、前田建設はそういう行動をとると思っていましたが、前田建設は昨日TOBを終了しました。約536億円のキャッシュが流出してしまうのに、なぜあえて終了させたのでしょうか?

前田建設は前田道路の株式を24.68%、20,459,900株所有しています。所有している経緯ですが、会社更生法を申請した前田道路は、1964年1月に更生計画案が認可された際、前田建設の支援を仰ぎ、前田建設の専務取締役を前田道路の副社長として迎えました。前田建設は、1969年9月に前田道路の増資の引受けにより合計2,293,100株を取得して以降、公募株式及び株主への株式無償割当ての引受け並びに市場における段階的な買い増しを行い、2001年3月までに合計20,460,000株(所有割合 24.68%)を取得し、持分法適用関連会社としています。

前田建設が保有する前田道路の実質的な簿価はかなり低いでしょうし、これまでの配当などを考えると回収していると考えられます。ちょっと乱暴な計算かもしれませんが、今前田建設が保有している前田道路株はゼロ円だとしましょう。今回前田建設工業は前田道路株の21,811,300株、議決権ベースで26.32%をTOBで買い付けます。1株当たり3,950円ですから、21,811,300株×3,950円=約862億円で支配権を取ることになります。つまり、前田道路は862億円で前田道路の過半数を取得することになりますから、前田道路の議決権の半分に相当する42,271,300株を862億円で取得するのと、まあ同じことだと考えると、1株当たり2,039円で取得することになります。

では862億円に今回の特別配当を乗っけて考えてみましょう。正確には特別配当536億円ー前田建設が受け取る特別配当約133億円(20,459,900株×650円)=403億円です。前田建設が今回の敵対的TOBにかかる総コストをTOBで支払う額約862億円と特別配当で自社以外の株主に支払う額約403億円=1,265億円だ、と考えたとしたら?

前田道路の議決権の過半数は42,271,300株ですから、それをトータル1,265億円で買うと考えれば、1株当たり約2,993円で買って支配するということになります。では前田道路の株価は?

前田建設が敵対的TOBを始める前の前田道路の株価ですが2,633円なので、約14%のプレミアムで過半数を買えるということになります。

前田建設が保有する前田道路株の実質簿価はほぼないとし、前田建設がゼロから前田道路株を過半数買うのに必要な額としてTOBで支払う額と特別配当で流出する額の両方なんだとすることで、「14%のプレミアムで過半数を取れると考えれば安いと考えればよい」としたのかもしれません。

なぜそういうことにしたのかと言うと、もう時間を与えたくなかったのではないでしょうか?TOBを延長したり、撤回して再開することも考えられるけど、前田道路にこれ以上時間を与えると何をしてくるかわからない。特別配当が認められて、TOB価格を設定しなおしてTOBをかけたとしても、ホワイトナイトが出てくるかもしれない。他にも前田建設が想定していない奇策を繰り出してくるかもしれない。と疑心暗鬼になっていたのではないでしょうか?

 

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