2020年03月24日

日本企業はまだ守るのか~本当に日本企業は貯め込みすぎなのでしょうか?~

今日の日経6面に日本企業、まだ守るのかという記事があります。記事は非常に興味深い内容ですが、いくつか気になる点があります。

もちろん、株式市場は冷徹に成果を問う。08年にはキリンホールディングスも、健康志向や国内人口減の逆風が吹くビール事業への依存を和らげようと、医薬品大手の協和発酵を傘下に収めた。

株主である英資産運用会社フランチャイズ・パートナーズは今、この多角化路線にかみついている。株価の低迷を理由に「ビールへの回帰」を要求、27日の株主総会で、取締役を送り込もうとしている。キリンはより明確な結果を出し、戦略の正当性を市場に納得してもらう必要がある。

キリンHDは株式市場だけの評価を求めて多角化戦略を選択しているのでしょうか?違うと思うのです。仮に株式市場が評価しなくても、キリンHDは多角化戦略を選択したのではないでしょうか?何度かHPでもこの点を取り上げていますが、当然、フランチャイズ・パートナーズはキリンHDに多角化をしてほしくないでしょう、ファンケルや協和発酵キリンを売ってほしいし、売却資金を株主還元に充ててほしいと思っているでしょう。それはなぜかというと、彼らは医薬品株を別に持っているからではないでしょうか?医薬品株は別の会社を持っているから、キリンHDにはビールに集中してほしいということではないでしょうか?

自分たちはポートフォリオを多角化しておきながら、上場会社には多角化をするな!と言うのはどうかと思います。上場会社は当然上場会社として株価を意識しなくてはなりませんが、株価だけを意識して経営をするわけにはいきません。短期的には株価に反映されなくても、中長期的に反映される経営をするでしょう。

だが、多くの日本企業には、「守りを固めろ」という欧米企業への警告は必要ない。DEレシオを見てもインタレスト・カバレッジ・レシオを見ても、日本企業は米欧がうらやむほど安全だ。

日本企業が守りを優先してきた背景には、1990年代からのバブル崩壊後、債務の返済に苦しむ過程で染みついた安全志向がある。手元には、いつでも債務を返済できるよう空前の規模の現金を抱えてきた。

(中略)

「100年に1度」といわれたリーマン危機の08年にも、果敢に決断した企業があった。

富士フイルムホールディングスが1300億円を投じて東証1部上場の医薬品メーカー、富山化学工業を買収したのはこの年だ。市場の縮小が続くフィルム事業への依存を脱し、「総合ヘルスケアカンパニー」に変わる布石だった。

富士フイルムは買収後も、富山化学の研究開発を支え続けた。その結果が新型コロナの治療で期待を集めるインフルエンザ治療薬「アビガン」の開発だった。

なぜ富士フイルムは100年に1度と言われたリーマン危機の際に、果敢に決断できたのでしょうか?それは富士フイルムが財務体質の良い会社だったから、ではないでしょうか?100年に1度の危機に備え、十分な財務を日ごろから確保しておいたおかげで、100年に1度の危機の際でも果敢に1,300億円を投じて富山化学工業を買収することができたのではないでしょうか?100年に1度の危機であれば、通常、予定していた経営統合や買収を延期する会社もいると思われます。しかし富士フイルムが果敢にチャレンジできたのは、その100年に1度の危機に備えておいた財務のおかげだったのではないでしょうか?

当然ですが、だからといって内部留保をため込みすぎて「株価が低迷してしまう」のはよくありません。私は、内部留保をため込んでもいいと思います。ただし、株価をちゃんと高くできれば、です。そもそもため込みすぎかどうかというのは究極的には誰もわかりません。コロナショックだってこれほどの危機になるとは誰も想定していませんでした。会社は10年生きればよい、というわけにはいきません。100年に1度の危機にも耐えられる状態を維持しなくてはならないと考えるのが優秀な経営者ではないでしょうか?

事前警告型買収防衛策だって同じです。会社の一生に一度あるかどうかわからないけど、あったら会社がひっくり返ってしまうような敵対的買収という危機に備えるものです。買収防衛策を検討するということは、会社の危機管理について検討するということです。

 

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