2019年11月12日

敵対的TOBの流れは?私の経験に基づいて書きます

※以下、コラムNo.349で掲載した内容を少し変えて掲載しなおします。

最近ではエイチ・アイ・エスがユニゾHDに敵対的TOBを仕掛けました。今年に入って伊藤忠vsデサントのケースに続いて2件目です。ほとんどのお客様が敵対的TOBを実施されたことがないと思いますので、ここらで一つ、敵対的TOBの流れをおさらいしておきましょう。法律に書いてあることの流れだとおもしろくないので、私の経験を踏まえて書きます。

 まず、「敵対的TOBって、本当にある日突然実施されるの?」 はい、本当に突然起きます。ただ、事前通告する場合もあります。例えば、あるケースでは、事前に、経営幹部が対象会社を訪問しています。アポを取る際に「敵対的TOBのご相談でーす」とは言いません。例えば「表敬訪問」といった形でアポを取って、面談時に提案書を突き付けます。このケースにおいて対象会社は「正式な提案は受けていない」と主張しました。そして、様々な防衛施策を実施しました。しかし、だいたいの会社は事前通告なしに、突然実施されました。私も、突然上司から「敵対的TOBが公表されたから、明日の朝6:30までには出社してくれ」と突然電話がかかってきたことがあります。

 そして、敵対的TOBが公表されたらまず何をしなくてはいけないか?「当座の意見表明」をします。この意見表明は、金商法に基づく意見表明ではないので、EDINETには登録しません。

本日、●●株式会社が当社に対して公開買付けを実施することを公表しました。この公開買付けは当社取締役会の賛同を得て実施されたものではありません。当社は今後、公開買付届出書の内容や意見表明報告書にて行う質問によって、様々な情報を入手、分析し、公開買付けに対する意見をまとめます。株主の皆様におかれましては、当社から開示される情報に十分ご留意いただき、慎重に行動していただきますようお願い申し上げます。

といった内容です。ようは「このTOBは当社の賛同を得て実施した訳ではなく、敵対的TOBですよ!株主の皆さん、すぐに応募しちゃだめですよ!ちゃんと当社取締役会の意見を確認してくださいよ!」という趣旨です。

そして次に出すのが「留保の意見表明」です。「留保の意見表明」というのは法律上の表現ではありません。正式には「意見表明報告書」を提出します。TOB開始から10営業日以内に提出します。意見の内容としては、賛成・反対・留保、の3つです。この段階では質問権を行使しておらず、入手している情報は公開買付届出書に書いてある内容しかありませんから、それをもっていきなり「反対!」と言ってしまうと、株主から「ちゃんと検討したのか?」と言われるリスクがあります。ですので、この段階では反対!と言いたいけど「意見を留保します。金商法で認められている質問権を行使し情報を収集します」となります。

留保の意見表明・質問権の行使に当たっては、質問内容を考えるのが肝になってきますが、会社、弁護士、フィナンシャル・アドバイザー(FA)で検討します。会社は、まず、買収者が主張するシナジーの内容などを検討します。買収者が「●●といったシナジー効果を発揮できる」と主張していれば、本当にそんな効果が期待できるのかを、事業の専門家の立場から検証し、それを確認するために必要な質問を検討してもらいます。弁護士は法的な観点からの質問、FAはTOB価格の妥当性に関する質問などを検討します。が、弁護士、FAは質問内容全般を検討し、検討した質問を持ち寄って、最終的な質問を詰めます。必要であれば週刊誌に書かれていることなども質問しますし、調査会社なども雇って買収者のネガティブな材料を探し出し、それも質問します。質問権は1回しかありませんから、非常に重要です。「突然TOBを実施したのはなぜだ!」というような質問はあまりしません。聞いたところで「だって上場しているのだから、突然TOBを仕掛けられるのは当たり前ですよね?」と返されたら終わりだからです。なお、買収者が質問に対して「機密保持がないと回答できない」と回答してくることも想定した上で、「必要に応じて機密保持契約を締結する用意がある」と質問に入れます。機密保持契約書を送り付けることもします。

また、質問作成と同時並行で、弁護士・FA以外のアドバイザーを雇うことも検討します。例えば、判明調査会社やメディア・アドバイザーです。平時から付き合いがなければ、この時点で複数社と面談して決めます。その他、対象会社に有利な情報発信をしてもらえないかどうか、有識者へのアポイントも取ります。場合によっては、ホワイトナイトの検討も必要になってきます。これは時間がかかりますから、必要だと考えた場合は、早急に動きます。

 そして、留保の意見表明・質問権の行使の後は、即、意見表明報告書を買収者に送り付けます。郵送だと時間がかかるので、当日に手渡しできるよう準備しておきます。対質問回答報告書が提出されるのは5営業日後ですので、その間、TOBには反対するという前提の場合、反対の意見表明を作成し始めます。記者会見が必要な場合には会場をおさえたりします。

 対質問回答報告書が提出されたタイミングと残されたTOB期間を勘案しながら、反対の意見表明をいつ公表するかを決めます。あまり遅いと、株主がTOBに応募してしまうかもしれないので(もちろん応募を取りやめることは可能ですが)、なるべく早く公表し、主な株主を訪問して応募しないよう説得します。

 だいたいこんな流れです。私が関与したケースで買収者に買われてしまったことはありません。だから、買われてしまった会社がどうなったのかはわかりません。あまり知りたくはないですが。

 なお、買収防衛策があるのとないのとでは、対応が全然違います。最短で30営業日できまってしまうのに対して、買収防衛策があれば、極端な話、1~2年の時間をかけたケースもありますので。かなり批判はされますが、経営者が腹をくくれば時間をかけることも可能です。一方、買収者が腹をくくれば買収防衛策を破ることも可能です。難しいところです。

 

このコラムのカテゴリ

関連する
他のコラムも読む

カテゴリからニュースを探す

月別アーカイブ