2022年11月23日

買収防衛策に対する機関投資家の評価

「第1回 公正な買収の在り方に関する研究会」についてです。以下は資料です。

https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/kosei_baishu/001.html

特にこちらのP12~「参考2 関係者等へのヒアリング結果」で気になる箇所を抜粋しコメントをつけます。

https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/kosei_baishu/pdf/001_05_00.pdf

P13 買収提案があった際に、現経営陣による経営と買収提案者による経営のどちらが企業価値向上に資するかという議論に おいて、独立社外取締役が機能していると評価できるケースは多くない。独立委員会の構成も現経営陣の意向が反映さ れている部分があり、真に株主の価値を考えた検討がなされているか確信が持てないのが実情。(機関投資家)

⇒これはおっしゃるとおりと言わざるを得ませんね。そもそも敵対的買収を仕掛けられた会社は「株主のためにどう検討するか」というより「どうやって守るか」を中心に考えるでしょう。その敵対的買収が部分的買収で、買収後の経営方針も明確になっていないようなものであればそれでよいと思うのですが、例えば事業会社によるまっとうな提案の場合は真摯に検討しなくてはならんでしょうね。ただ、何も株主利益の観点からのみ検討しなくてはならない、と申しているわけではありません。会社を構成するのは株主だけではなく、ほかにもたくさんのステークホルダーがいます。そういう人たちの視点に立った検討も必要です。

ただし、少なくともTOB価格に対する言及は不可欠と考えます。つまり株主にTOBに応募してほしくないのなら「TOB価格は安い。我々は中長期的に株価をTOB価格以上にしてみせる」という覚悟を示さないとダメでしょう。

P15 有事導入型買収防衛策の場合はその都度買収者について株主が判断すれば良いが、事前警告型買収防衛策は、指針や報告書が出た当時は一定の役割があったものの、コーポレートガバナンス・コードやスチュワードシップ・コード等の近年の時代の流れと合わなくなってきている。TOB規制の充実化が一定程度図られた点も要因かと思う。見直しの余地はあるとの指摘はあるが、当時の改正で情報提供や検討時間の確保が一定程度行われたことも影響しているのではないか。(機関投資家)

TOBのルール改正によって、TOB期間が20営業日~60営業日になり、質問権が認められるなど、平時型買収防衛策で求めている時間と情報の確保がある程度法律で認められたことは事実ですが、ほとんど機能していないのではないでしょうか?質問権は1回のみですし、買収者が理由を付せば回答しなくてもOKなのです。実際、対質問回答報告書を見ても、対象会社が納得できる回答って少ないのではないでしょうか?1回しか質問権がないのですから買収者は「適当に回答すりゃOK」と考えてまともに回答しないでしょう。

買収防衛策が近年の時代の流れと合わなくなってきているというのはおかしいです。そもそも日本の上場会社が導入しているのは買収防衛策などではなく、時間と情報を求めるための事前警告型ルールですから、敵対的買収が増えている時代においてこそ必要なルールです。時代と合わなくなっているというのは、事前警告型ルールを買収防衛策と言って貶めたのが原因です。

P15 実際は経営の保身にしか見えないケースが多い。企業から見れば正当な理由があって導入したつもりでも、買収防衛策があることへの安心感が醸成されているように見受けられ、好ましくないと考えるようになった。もっとも、ガバナンスを改善して企業価値を上げてほしいという一連の流れの中での話だとも思う。 (機関投資家)

保身にしか見えないケースというのは具体的にどのケースなのでしょうか?平時型買収防衛策は時間と情報の確保が目的であり、保身ではありません。有事型の発動ケースのことをおっしゃっているのでしょうか?

また、そもそも平時型買収防衛策を導入する正当な理由とは?導入している会社は「有事になったら時間と情報の確保がすべてのステークホルダーにとって重要」と考えて導入しています。政党ではない理由ってなんでしょうか?少なくとも形式的には保身目的の平時型買収防衛策などないはずです。機関投資家が平時型買収防衛策は保身だ、悪だ!というかたよった目で見ているからそう見えるのではないでしょうか?そもそも平時型買収防衛策を導入していた会社に対して行われた敵対的TOBケースにおいて、平時型買収防衛策を濫用的に利用した会社はありますか?

「買収防衛策があることへの安心感が醸成されている」これって「平時型買収防衛策があるおかげで、経営者が濫用的な買収提案に悩まされず、中長期的な企業価値向上に注力できる」と言えるのではないでしょうか?

なお、仮に買収防衛策があることで経営の緊張感が薄れる、やるなら有事型にしろ、とおっしゃるのであれば、「いざとなったら有事型を発動すればよいと考えて経営の緊張感が薄れると思いますよ」と申し上げます。

P15 買収防衛策がよく導入された時期があったが、保身的な色が強かった。持合株式縮小の流れが出てき て、グローバル化という中で、日本企業も経営の規律を効かせなければならないという状態があった。 そこで、買収防衛策も保身に繋がる部分なので正していくべきという流れがあった。(機関投資家)

ですから、何を見て保身的な色が強かったと思ってらっしゃるのでしょうか?それ、単なる「買収防衛策」というワードに引っ張られただけの勝手な思い込みではないでしょうか?導入だけで保身ってのはおかしいですよ。

P16 事前警告型買収防衛策について反対している理由としては、望ましい経営ができていれば、濫用的な買収者に狙われ ることはないという発想があるからだ。他方で、有事導入型買収防衛策の場合には様々な事例があるため、事例ごとに細かく検討をしている。(機関投資家)

きれいごとだし、教科書的です。常に望ましい経営ができることなどあり得ません。本来の価値と株価に乖離が生じた際に狙ってくるのが濫用的な買収者でしょう?(濫用的だけに限りませんが) 常に乖離をなくせってのはあまりにきびしいですよ。

P16 大原則は企業価値向上に資するかであり、企業価値向上をすることが最大の防衛策だと考えている。コストをかけて高 い株価がついていれば、敵対的買収というのはあまりないはず、というスタンスでいる。

これもきれいごとだし、教科書的です。よく村上さんなんかが「株価向上が最大の買収防衛策だ」とおっしゃいますけど、違うでしょ?最大・最強の買収防衛策は持ち合いです(笑) そして株価をがんばって上げても、さらに上がる余地があると考えると、貪欲に求めてくる投資家がいます。そういった投資家の欲の犠牲になって、したくもない非公開化に突っ走っているのが東芝では???東芝ってなんで非公開化するのさ?アクティビストにつるし上げられたからでしょ?まあ、それに屈する経営者にも問題がありますけどね。

P16 上場している以上は、買収防衛策を導入すべきではないと考えている。本来は自由であるべき市場へ上場しておきながら、防衛策を導入している企業は何らかの欠点を抱えているように思われても仕方がない。(機関投資家)

だから日本の会社が導入している平時型買収防衛策は買収防衛策などではない。時間と情報をすべてのステークホルダーのために確保することが目的のルールだ。

P16 市場買上がりという局面について、そもそも強圧的という言葉が安売りされすぎている。市場で株式を大量に買われると いうのは、経営陣が、株価が割安になっているのを放置しているということを意味する。そういう現状になっている時点で経 営に問題があると考えている。(機関投資家)

この意見をおっしゃった機関投資家の方!非常におもしろい!そうですね、強圧的という言葉、最近大安売りですよね(笑) 私もそう思いますよ。

P17

長年投資家とコミュニケーションをしていると、相当意見をもらう。企業もそれを取り込み、その変化を投資家の方も見てく れているということでいい循環構造がある。もっとも、機関投資家のあるべき能力という観点からは、海外機関投資家と比較して国内機関投資家とでは差があるのが実情だと思うので、その差を埋めていくことが重要。(上場企業)

買収防衛策に反対する国内機関投資家が増えているが、杓子定規的な議決権行使をされているという印象があり、 議論が平行線に終わる。他方、海外機関投資家の対応は、柔軟な印象を受ける。(上場企業)

これ、日本の機関投資家はちょっと反省したほうがよいのでは???上場会社に「国内機関投資家のレベルは低い」と見なされているんですよ。少なくとも平時型買収防衛策に反対する理屈がロジカルではないから「矛盾しまくりだよね?大丈夫?」と見なされています。

 

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