2019年07月04日

買収防衛策を導入している企業の統治の緊張は緩んでいません

今日の日経17面買収防衛策、反対票増える 住友不、賛成55%

買収防衛策は2000年代半ばのライブドアによるニッポン放送株の大量取得を機に、敵対的買収を恐れた企業によって相次いで導入された経緯がある。

しかし「経営者の保身につながる」として国内外の投資家からの反発を招き、導入企業数はピーク時に比べると約4割減った。

14年に金融庁が策定したスチュワードシップ・コード(機関投資家の行動指針)は投資家に経営陣や業績動向を厳しく監視することを求める。こうした流れも株主の動きを後押ししている。

とあります。買収防衛策は経営者の保身である、買収防衛策を導入すると経営の緊張感がなくなる、買収防衛策は株主利益を害する、とよく言われています。それは当然です。買収防衛策は経営者の保身です。買収防衛策なんかを導入したら経営の緊張感がなくなるでしょうし、株主にとって害以外のなにものでもありません。

しかし、日本の上場会社が導入しているのは本当に買収防衛策なのでしょうか?ちゃんと日本の会社が導入している買収防衛策と呼ばれてしまっている事前警告型ルールのプレスリリースを読んだ上でそう言っているのでしょうか?事前警告型ルールはいかなる買収提案の実現をも阻害するようなルールではありません。単に、20%以上の株式を取得する場合は、詳細な情報と時間を提供してほしいとお願いしているルールに過ぎません。このルールで経営者が保身を図ることは不可能です。

「過去、買収防衛策導入企業に買収提案がなされたが、いずれも実現しなかったではないか?」 それは対象会社がの経営陣が事前警告型ルールを使ったジャマをしたから実現しなかったのでしょうか?単に情報と時間を提供することに途中で嫌気がさした買収者が勝手にあきらめたからではないでしょうか?

「過剰な情報提供を要請してから買収者があきらめたのではないか?」 おっしゃることはわからんでもないのですが、自社が身売りするとなった場合、いろいろな情報提供を要請するのは当たり前ではないでしょうか?株主、役員、従業員、取引先、地域社会などのステークホルダーの利益、人生がかかっているのです。

「過度に時間をかけすぎたからだろ?」 そもそも友好的なM&Aですら実現に至るまでに長い時間がかかります。たかが数か月で決まるM&Aのほうが少ないでしょ?敵対的TOBを成功させるための気合と根性のない買収者だったから、これまで事前警告型ルール導入企業に対する買収提案が実現しなかったのです。

私は数百社と買収防衛策について10年以上議論してきました。しかし、買収防衛策を経営者の保身として利用しようとした会社に出会ったことがありません。買収防衛策導入企業は企業価値向上策、株主価値向上策について真剣に議論しています。どうやったら買収防衛策が買収防衛策ではないと理解してもらえるか、継続導入するためにはどういう還元策を実行すればよいか、これを機会に社外取締役をもっと増やしたほうがよいのではないか、などなどです。

皆さん、買収防衛策を導入している企業のことを大きく誤解しています。何のための買収防衛策なのか?他のステークホルダーの利益を大きく搾取してでも自らの利益の達成のみを目的とするよからぬ買収者から会社を守るための術が買収防衛策なのです。

 

このコラムのカテゴリ

関連する
他のコラムも読む

カテゴリからニュースを探す

月別アーカイブ