2019年11月19日

村上ファンドによる日本郵船売却と今後日本企業が考えるべきこと

このタイミングで売却するとは思っていませんでしたが、昨日アップしたとおり、村上ファンドが保有する日本郵船株の一部を売却した結果、保有割合が4.86%になりました。5%を割りましたので、これから売却しても変更報告書は提出されません。おそらくですが、このまま売却してくのではないでしょうか?

村上ファンドによる日本郵船株の大量保有報告書、変更報告書の提出状況は共同保有者別の株数の変化、取得資金の変化についてまとめました。

直近で計算すると、村上ファンドの平均取得価格は1,856円になっていますが、実際には違うと思います。村上ファンドグループ内で株式を移動させていますので、その際に簿価が切り下がっています。②の平均取得単価2,475円が実際の取得簿価ではないか、と。

さて、村上ファンドはなぜ日本郵船株を取得し、売却したのでしょうか?私の勝手な妄想ですが、村上ファンドは例えば電子部品商社をたくさん買っており、業界再編の必要性について訴えています。どうやるのか、どの会社とどの会社がくっつけばシナジーが産まれるのかはよくわかりません。

海運についても同じようなことをお考えになっていたのかもしれません。村上ファンド出身者が作ったエフィッシモが川崎汽船の株式を38.99%保有しています。海運3番手の川崎汽船と日本郵船をどうにかできないか?そんな発想から日本郵船株式を取得したのではないか、と。

しかし現実問題として、業界再編にはたくさんのハードルがあります。現に村上ファンドがたくさん株を買っている電子部品商社も、まださほど再編は進んでいないように見えます。UKCとバイテックは統合しましたが(黒田電気も再編、なのかな??)。村上ファンドの保有銘柄を見ると、電子部品商社についてはけっこう含み損を抱えているように見えます。例えば、エクセルとか三信電気とか(詳細は明日のコラムでまとめています)。

電子部品商社にしろ、海運にしろ、狙っていた再編がそう簡単には進みそうにない。にもかかわらず、株価は下がり、含み損を抱えている。どうしたもんか、狙いどころを変えたほうがいいんじゃないか、と考えた可能性はないでしょうか?

私は村上ファンドが大量保有報告書を提出した島忠にヒントがあるのではないかと思っています。島忠は無借金経営で有名な会社で、昔からシルチェスターといったアクティビストファンドのターゲットになっています。そして村上ファンドがターゲットにしました。つまり、村上ファンドは原点回帰したということではないか、と思うのです。昔のようにキャッシュリッチ企業をターゲットにし、経営改善要求をして大規模な株主還元を引き出す。そして株価が上がったところで売り抜ける。これからは新明和工業やマクセルHDのように、大規模自己株TOBや特別配当を出せる会社をターゲットにしてくるのではないでしょうか?

業界再編は時間がかかります。それは村上ファンドもよくわかっていることでしょう。にしても、投資ファンドの時間軸以上に時間がかかっている。そんなには待てない。だから、手っ取り早くといったら語弊がありますが、投資ファンドの時間軸で大儲けできるターゲットに切り替えてくるのではないかと思います。それも、30%、40%といった大規模に買うのではなく、10%程度の投資で大儲けできる会社。時価総額的には1,000億~3,000億円といった感じでしょうか?島忠の時価総額も1,300億円くらいですから。

そして、安定株主比率が低く、外国人株主比率の高い会社です。自分たちの持分が10%程度であっても、自分たちの意見に同調し、ちゃんと議決権行使をしてくれる株主が多い会社です。このクラスの会社は買収防衛策を廃止したり、導入していなかったりする会社が多いですからね。

「うちの会社は規模が小さいし、安定株主比率が低いから大丈夫?」 いや、ダメでしょ?安定株主比率の高いTBSや帝国繊維に投資しているアセットバリューインベスターズのターゲットになりまっせ。

本日11月19日に、オアシスが島忠の大量保有報告書を、バリューアセットインベスターズがパソナグループの大量保有報告書を提出しました。完全に日本の株式市場はアクティビスト・ファンドのターゲットになりました。これ、確実です。どの会社もターゲットになり得ます。

正確に言えば、ちゃんと企業防衛のことを考えていない会社、平時から準備をしていない会社がターゲットになるということです。買収防衛策を導入していない会社は、ちゃんと議論を始めるべきです。必要に応じてちゃんと導入すべきです。だって日本企業が導入している買収防衛策は買収の実現を阻害することを目的としている訳ではなく、時間と情報を全ステークホルダーのために確保するための策なのですから。必要のない会社など日本にありません。敵対的買収の経験がない日本の会社は全社導入してもいいと思います。

買収防衛策を廃止した会社もちゃんと見直すべきです。買収ターゲットになりそうになった日邦産業や乾汽船はちゃんと再導入しました。再導入することは悪いことではないし、恥ずかしいことでもありません。日本企業を取り巻く状況が完全に変わったのですから。再導入せずにターゲットになってからオタオタするほうが恥ずかしいです。

今日は日本企業が企業防衛について見直す日になったと私は思います。

 

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