2020年01月27日

物言う株主 日本狙う

1月26日(日)の日経1面に物言う株主、日本狙う 稼ぐ力引き上げ 経営短期化には懸念という記事がありました。記事に「ローゼンワルド氏は米運用会社ダルトン・インベストメンツの創業者で、金融危機前から日本企業に積極的に提案活動をしてきた「老舗アクティビスト」の一人だ。企業に資本効率の向上を求めるアベノミクスの信奉者でもある。」とあります。ダルトンという投資家はかつてスティール・パートナーズや村上ファンドが日本株に積極的にアクティビズムを行っていた時期に同じように日本企業に対して敵対的な行動を起こしていた投資家ですね。ダルトンの最近の投資家は以下の通りです。すみません、更新をさぼっていたので2019年8月15日時点のデータです。

かつて日本企業が狙われていた時期と現在とで大きく違う点は何でしょうか?記事に書いてあります。

日本市場は物言う株主が稼ぎやすい環境に変わった。持ち合いがとけて海外株主が増えた。国内の機関投資家も運用者としての責任を問われ、経営者にノーを突きつけるようになった。経営者は総会で再任されないリスクを恐れ、株主に耳を傾ける。子会社の売却などグループ再編も活発になり投資機会が増えた。

そうですね。持ち合い解消が進み、安定株主比率が低下しており、アクティビスト・ファンドの要求が通りやすい状態になっています。そして記事では以下のとおり指摘しています。

一方、本場の米国では、企業が株主を重視して株価を高く保ち、活躍の場が減った。財務が強固で株主還元の余地が大きく、株価も割安な日本に関心が向いている。米トライアン・パートナーズは「欧米型に近い企業統治が受け入れられ始めた」(最高投資責任者エド・ガーデン氏)と日本市場への参入を狙う。

効率化、合理化が進んだ米国企業に対してアクティビスト・ファンドが物言える余地がなくなっています。それに対して日本企業にはまだまだ物を言える余地がたくさんあります。だから日本企業はこれから絶対に狙われます。

一方で1月25日(土)の日経7面「米の株主重視は過剰」富士フイルムHDの古森会長 短期志向の経営に苦言で富士フイルムの小森会長が「米国の株主第一主義は行き過ぎている。法的には会社は株主のものだが、会社の存在意義は社会に価値を提供することだ。配当などで今すぐに株主に還元するだけでなく、未来に向けた投資や研究開発が必要だ。米国の経営者から従業員など他のステークホルダーの重要性を指摘する声が出ているが、今ごろそんなことを言っているのか」と指摘しています。私もおっしゃるとおりだと思います。

しかし、どれだけ日本企業の経営者が米国の株主第一主義が行き過ぎだと警鐘を鳴らしても、アクティビスト・ファンドには関係がありません。これからドンドン日本株を買い増し、経営者にプレッシャーをかけてくることでしょう。止められません。なぜなら安定株主がドンドンいなくなっているからです。

では、どうやって行き過ぎる可能性のある株主第一主義に対抗していけばよいでしょうか?それば買収防衛策の導入しかないと私は考えています。本音としては持ち合いによる安定株主対策が一番効果的ですし、買収防衛策+持ち合いによって会社の防衛力を高めたいところですが、なかなか難しいでしょう。であれば、少なくとも買収防衛策くらいは導入しておくべきだと思います。記事でも以下の通り指摘してくれています。

物言う株主は市場にとって「もろ刃の剣」だ。企業が現金を抱え込まずに投資や還元に使えば、経済全体にプラスになる。業界再編など産業全体の活性化に結びつくケースも多い。企業は株主が納得する経営を目指すとともに、乱用的な買収者からは企業を守る仕組みも必要になる。

世の中、善人ばかりではありません。全ステークホルダーのために経営者に対して提言しているアクティビスト・ファンドなどいないでしょう。自分たちのために株価を上げろ!と主張してくるのです。他のステークホルダーがどうなろうと彼らには関係ないでしょう。彼らが関心を持っているのは会社ではなく株価です。株価上昇につながることだけやってくれればよいというのが彼らの本音でしょう。そういった人たちから、たぶんいるであろう善人株主や従業員、取引先、地域社会といったステークホルダーの利益を守るために、情報と時間を確保するという目的の事前警告型買収防衛策はこれからますます必要な時代になります。

「機関投資家が反対し、安定株主比率が低下する中、どうやって買収防衛策を導入・継続すればよいのか?」

ちょっとした工夫をすれば導入できると思いますよ。本当にちょっとした工夫なんです。

そして買収防衛策を導入、継続するための議論を常にしておくべきでしょう。買収防衛策がなぜ必要なのか、株主に対してどう説明すれば納得してもらえるのか、本当に買収防衛策を導入しておくだけで会社を守ることができるのか、買収防衛策は結局情報と時間を確保するためのルールに過ぎないのだから抜本的な企業価値向上策を検討しないとダメではないか、自社の努力だけではたかが知れておりやはりM&Aも検討しなくてはならないのではないか、効果的な投資対象・M&A対象がないのであれば株主還元を強化すべきではないか、などなどです。決して買収防衛策導入・継続の議論は後ろ向き、内向きなものではありません。最終的には企業価値向上の議論につながるのです。

 

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