2020年01月30日

個人投資家にとっての敵対的TOB~掲示板の誤解を解く~

個人投資家にとって敵対的TOBは儲けるチャンスである一方で、大損するリスクもあると先ほどニュースでまとめました。敵対的TOBが起きると、私はよく株式掲示板を見ます。どういう意見を個人投資家が持っているのかを見るのは重要ですので。ただ、掲示板のコメントはけっこう間違っていることもあります。代表的なコメントをまるめて書き出し、それに対する私の意見を書きます。

・第三者割当増資で対抗するのではないか?

昔から敵対的買収に対しては第三者割当増資で対抗するという方法がありますが、基本的には難しいとお考え下さい。経営権の争奪戦が起きている状況で増資をして友好的な第三者に株式を引き受けてもらい安定株主比率を高めようとしても、買収者が発行差止請求をします。おそらく敵対的TOBといった経営権の争奪戦が起きている状況で第三者割当増資をしても、不公正発行として差し止められる可能性が高いと思われます。また、アドバイザーである弁護士やFAが第三者割当増資をするようアドバイスしません。

・敵対的TOBには自己株式の公開買付けで対抗だ!

ムリです。敵対的TOB時においては株価が高騰しています。その高騰した価格で自己株取得を行う合理的な理由がありません。また、自己株取得は配当可能利益の範囲内でしか行えませんから、全株買収の敵対的TOBである場合、自己株取得には限界がありますから対抗策にはなり得ません。部分的な買収である場合、ハイプレミアムで自己株取得を行うことは理論的には可能だし対抗策になり得る場合もありますが、ハイプレミアムで自己株取得を行う理屈はないように思います。

・TOBを仕掛けたら株価が上がったからTOBをやめるんじゃないか?

基本的にTOBを仕掛けたら、そう簡単に撤回はできないとご理解ください。撤回事由は法律に定められていますし、公開買付届出書にも記載されています。

・TOBを公表して出来高も増えているから、買収者がTOBをしている最中に買収者自身が市場で買っちゃえばいいじゃないか!

できません。TOBを実施している最中に、対象会社の株式をTOB以外で買うのは法律違反です。「別途買付けの禁止」と言われています。

・買収防衛策の賛否を問うための株主意思確認総会なら60営業日もいらんだろ?

東芝機械の件ですね。正確に言えば60営業日もいらんとは思いますが、買収防衛策のルールで定められた対抗措置発動を行うには、いろいろな準備が必要です。60営業日でも手一杯だと思います。単に株主総会を事務的に開催するなら60営業なくてもできると思いますが、証券会社とかほふりとか信託銀行とか、いろんな会社、機関との調整が必要です。東証との調整なども必要でしょうね。対抗措置発動の準備は並大抵ではないです。株券電子化後の発動は初めてじゃないでしょうか?

・買収防衛策を発動されたら、希薄化して困るのは個人投資家じゃないの?

違います。東芝機械の件で言えば、困るのは村上ファンドだけです。対抗措置(新株予約権の無償割当)を発動するための基準日を設定し、基準日時点の村上ファンドも含めた全株主に新株予約権が割り当てられますが、村上ファンドは行使できないという仕組みです。一般株主は行使できますので(実務的には東芝機械が新株予約権を取得し、一般株主に新株を交付)、一般株主が希釈化の影響を受けることはありません。

・買収されるのがイヤだったらMBOでもすりゃいいじゃないか?

MBOで対抗できるかどうかは、買収者の属性次第です。例えばユニゾHDの場合、買収者がみんな投資ファンドといったフィナンシャル・バイヤーであり、最終的にはユニゾHDのスタンドアローンの価値に対していくらのTOB価格を提示できるかで決まると思われます。しかし買収者が事業会社といったストラテジックバイヤーの場合、ストラテジックバイヤーはTOB価格を対象会社のシナジーを加味した価格まで理論的には設定できます。しかしMBOとなると、買収者は従業員や経営陣+投資ファンドになりますから、対象会社との新しいシナジーの発生は考えにくく、TOB価格に新たに生まれるシナジーを加味することがしにくくなります。ストラテジックバイヤーが買収者の時はMBOによる対抗策、投資ファンドをホワイトナイトとした対抗策は打ちにくくなります。

・株式分割で敵対的TOBを阻止だ!

TOB期間中に株式分割をした場合、TOB撤回事由に該当します。しかし、株式分割が行われた場合、TOB価格を引き下げることができます。

・対象会社のIR部に問い合わせたが「開示すべき事項が発生したら速やかに開示します」って回答だった。対応が遅い!

お願いですのでやめてあげてください。個人投資家の皆さんが対象会社に電話したところで、対象会社のIRの方は何も回答できません。敵対的TOBを仕掛けられると、想像を絶する忙しさになります。たぶんIRの方はほとんど寝ていません。ですから負担をかけるのはやめていただきたいです。かわいそうです。なお、敵対的TOBの一般的な流れですが、

敵対的TOB実施

→当日、対象会社が「これは当社経営陣の賛同を得たTOBではありません。当社取締役会の意見をお待ちください」といったプレスを当日対象会社が公表することが多いです。

→敵対的TOB実施から10営業日以内に対象会社が意見表明をしなければならない。ただし、意見の内容は賛成・反対・留保のいずれかでよく、最初に提出される意見表明報告書において買収者に対して質問する権利もあります。ですので、一般的には「留保の意見表明+質問権行使」という形になることが多いですね。

→意見表明報告書が提出され対象会社が質問権を行使した場合、買収者は5営業日以内に対質問回答報告書を提出します。

→対質問回答報告書を受領した対象会社が敵対的TOBに対して賛成・反対の意見を公表することになりますが、これはいつになるかわかりません。

・ホワイトナイトの登場に期待!

これも状況によりけりですね。ホワイトナイトが現れそうな業界なのか、会社なのかをよく見極める必要があります。基本的に対象会社は経営の独立性を死守したいと考えて行動します。最近はホワイトナイトが出てくることもありますけどね。例えば対象会社の安定株主比率が高い場合はホワイトナイトが登場しないこともあり得ます。

・買収防衛策は経営陣の保身だ!

保有株を高値で買い取ってもらいたい個人投資家の方にとっては買収防衛策は悪であり経営者の保身とお考えになるかもしれませんが、日本企業が導入している買収防衛策は事前警告型買収防衛策と呼ばれており、基本的には買収提案に対して株主をはじめとしたステークホルダーがちゃんと内容を精査できるよう詳細な情報を検討期間を確保するためのルールです。保身には使えません。

法律専門家ではありませんので、詳しくは全般的に弁護士にご確認ください。

 

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