2020年02月04日

村上ファンドが考える東芝機械の株主価値向上案

http://officesupport.bz/wp-content/uploads/2020/01/6e7a941bcf43c35ee3399ba56e0dba24.pdf

オフィスサポートのHPに掲載されていました。おもしろそうなので読んでみたのですが、ちょっと気になる箇所を抜粋しながらコメントさせていただきたいと存じます。

弊社は、株主価値の向上こそが最大の買収防衛策であると考えており、特定の者の株式の購入を妨げる買収防衛策は経営者の保身以外の何者でもないと考えております。

株主価値の向上も買収防衛策の一つではあります。が、株主価値を向上させても、株価上昇に直結するとは限りませんし、そもそも株価は経営者がつけているものではありません。よく「株価向上が最大の買収防衛策だ」とおっしゃる方がいるのは知っていますが、それは教科書に書いてあることであり、現実的にはそうではないと思います。

なお、東芝機械が導入した対応方針は正確には買収防衛策ではないですし、日本の会社が導入している事前警告型買収防衛策も買収提案の実現を阻害するためのルールではありません。あくまで20%以上の株式を取得しようとする者に対して、買収提案を検討するための情報と時間を提供してくださいと言っているに過ぎません。

弊社の東芝機械に対する公開買付けは、その上限を43.83%に設定している通り、経営権を取ることではなく、現経営陣と共にコーポレート・ガバナンスを追求し、株主価値の最大化を実現することです。

これ、よく買収者サイドがおっしゃるのですが、現実的には43.83%もの株式を取得したら経営権を取ったのと同じではないでしょうか?「議決権行使率だって上がるだろ!」とおっしゃるかもしれませんが、でもねえ・・・。

また、2019年5月に発表された中期経営計画においては、2021年度までに売上高1,350億円、営業利益率7%を目標とされておりますが、2019年度通期予想は売上高1,118億円と昨年度と同水準であり、今年2月にまた新たに中期経営計画を発表される予定とのことです。

これ、東芝機械もマスコミのインタビューで答えていたと思うのですが、今年2月に中計を新たに発表するって村上ファンドにも言ってたんですよね?なのにTOBを実行してきたんですよね?2月の発表まで待ってあげてもよかったのではないかなと思います。

東芝機械は、現時点において、現預金及び投資有価証券が500億円程度、営業債権から営業債務を控除した金額が100 億円程度、有利子負債が100億円程度の財務状況であり、ほぼ無借金会社であります。東芝機械はこのような資金を設備投資やM&Aに積極的に活用しておらず、利益を向上できておりません。そうであれば、留保する必要のある資金水準を明確に説明した上で、使わない資金は配当や自己株式取得の株主還元を行うことにより、ROEを向上させ、株主価値向上を実現すべきです。

おっしゃるとおりですね。でも、東芝機械って最近まで東芝のグループ会社だったんですよね?東芝グループから外れて、これから真の意味で独立した経営を実践していく訳ですから、もう少し長い目、温かい目で見てあげてもいいのではないでしょうか?

でも村上ファンドの指摘する点はおっしゃるとおりです。対抗措置発動よりも株主還元強化で対抗したほうがよいと思われます。村上ファンドがTOBを予告し、強行したのは、ある意味、交渉戦略ですよね?だとしたらそれに乗っかって対応したほうがよかったのではないかと。ユシロ、ソトーと同じことをやればよいだけでは?プラスアルファの対抗策もありますけどね。

これまで弊社は、東芝機械の経営陣と対話の場を持つことを試み、度重なる面談の申し入れを行ってきました。しかし、代表取締役会長である飯村幸生様とは1度もお会いすることはなく、また代表取締役社長の三上高弘様との面談は1回のみで、その後は弊社からの面談のお申し入れをお受けいただくことはありませんでした。

単に怖がられているだけじゃないでしょうかね?

弊社が、投資先企業に常にお願いをしているのは利益の向上です。しかし、利益を増やすためにIRR8%を超える投資先がないのであれば、不必要な内部留保は株主に還元し、株主価値の向上を行うべきです。

時間軸の違いもあるのではないでしょうか?目先そのような投資先はないにしても、2~3年内にはあるかもしれない、思いがけないタイミングでM&A案件が舞い込んでくるかもしれない、だから必要な資金+アルファは手元に持っておきたいと考える経営者の心情はよくわかります。ファンド運営と会社経営ってやっぱりちょっと違うと思うのです。投資家は「必要な資金はそのとき調達すればいいじゃないか!」とおっしゃるかもしれませんが、そのときの調達環境がどうなっているかもわかりませんしね。ある程度の余裕資金を手元に置いておきたい経営者の気持ち、私はよくわかります。でも、まあ、村上ファンドの主張もわかりますけどね。

今回の争いは、単に落としどころを探せばいいだけのように思うのですが。

中長期的なROE向上及び株主との対話は、それを評価する投資家が長期資金を供給することで、更なる投資が行われ、持続的な企業価値向上に繋がります。買収防衛策を導入せずとも、株主価値の向上により、解散価値を上回る株価水準を実現することで、他者からの買収のリスクは大幅に下がります。このような株主価値向上を怠り、買収防衛策を導入することは、経営陣の保身と言わざるを得ません。

???解散価値を上回る株価水準を実現することで買収リスクが下がりますか???日本の会社が導入している事前警告型買収防衛策は、なにもアクティビスト・ファンド対策として導入されている訳ではありません。フィナンシャル・バイヤーだけではなくストラテジック・バイヤーも念頭に置いています。解散価値を上回っていたとしても、ストラテジック・バイヤーにとっては割安かもしれませんよ。

繰り返しますが、日本の会社が導入している事前警告型買収防衛策は買収提案の実現を阻害するものではありません。買収提案の内容を精査するための情報と時間を確保することが目的です。買収防衛策を導入・継続している会社は、真剣に株主価値について考え、そしてそれを向上させるための施策を実行しています。株主のためだけではなく、すべてのステークホルダーのためのコーポレートガバナンスを議論しています。

私は何百、何千という会社の経営者にお会いしましたし、買収防衛策を導入している会社の経営者とも議論してきました。でも村上ファンドがご指摘なさっているような、事前警告型買収防衛策を経営者の保身として利用しようと考えている経営者はいませんでした。

また持ち合いについても同様です。持ち合いを経営者の保身のためにしている会社にはあったことがありません。経営者は「特定の自分たちだけの利益しか考えない株主から、その他の株主、従業員、取引先、地域社会の利益を守るために持ち合いをしている」という認識です。「オレが社長で居座り続けるために持ち合いを強化しろー!」って経営者はいませんでした。本音ですべてのステークホルダーの利益を守るために持ち合いをしているんだと思いますよ。

日本の経営者にそんな悪人はいませんよ。

 

 

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