2020年02月12日

敵対的買収を過度に恐れるな?

今日の日経社説企業は敵対的買収を過度に恐れるなについてです。

いや、恐れるな!って言われてもそりゃ怖いですよ。ある日突然買収提案を仕掛けられたら、誰だって怖いです。買収されたらどうなるのか?従業員の処遇は?取引先は?恐れるなと言われてもそりゃムリです。

経営陣の同意を得ず企業にTOB(株式公開買い付け)を仕掛ける敵対的買収が、相次いでいる。株価が低迷する企業にとっては大きな脅威だろうが、買収防衛策や株式持ち合いによって「守り」を固める企業が増えれば、日本株市場の魅力を損ないかねない。

買収防衛策と持ち合いについて誤解があるように思います。まず日本企業が導入している事前警告型買収防衛策ですが、これは買収提案の実現を阻害するための施策ではありません。つまり日本企業が導入している事前警告型買収防衛策は買収防衛策ではないのです。日本企業が導入している事前警告型買収防衛策は、買収者に対して買収提案の詳細を検討するための情報と時間の提供を求めているだけのルールです。買収によって何らかの影響を受ける株主をはじめとしたステークホルダーが買収提案を検討するための情報と時間を提供してくれと言っているだけのルールに過ぎません。

そして持ち合いについてですが、日本企業は持ち合いによって過半数の安定株主を確保していません。日本の経営者が持ち合いをやっている理由は、他のステークホルダーの犠牲のもと自己の利益のみを追求する特定の株主対策です。保身ではありません。過度の持ち合いをやっている会社はもうほとんどありません。

「前回は、余剰資金や保有資産を狙って投資ファンドが仕掛ける例が多かった。」とありますが、今回もたぶんそうですよ。今回の敵対的買収ブームは全開の延長線上にあります。2003年~2007年あたりに盛り上がった敵対的買収ですが、2008年以降沈静化しました。リーマンショックのせいですね。リーマンショックがなければ、あのまま敵対的買収ブームは続いていたことでしょう。ですから今回も、というかこれからまた、アクティビスト・ファンドによる敵対的買収が増えると思います。

企業の戦略として敵対的買収を否定すべきではない。合意なしに買収できないとなれば業界再編やグループ再編がなかなか進まず、日本の産業競争力を損なう恐れがある。買収先と自らの競争力を高める再編と考えれば、敵対的であろうとTOBで株主に信を問うのは正しい戦略だ。

否定はすべきではありません。それはごもっともです。ただ、本当に株主だけに信を問う形でよいのかどうか疑問があります。TOBは株主に対する提案ではあるものの、敵対的買収の影響を最も受けるのは従業員です。買収によって従業員が不利益を被ることがないのかどうか、経営者は確認する必要があるでしょう。単にTOB価格が高いから、というだけで買収提案に応じる訳にはいきません。

企業は敵対的買収を恐れるあまり買収防衛策や株の持ち合いに走るべきではない。15年に始まった企業統治改革によって、買収防衛策を廃止したり持ち合いを解消したりする企業が増えてきた。これが海外投資家からの評価にもつながっている面もあり、この流れを逆戻りさせてはならない。

いえ、今こそ事前警告型買収防衛策を改めて見直すべきです。持ち合いもです。事前警告型買収防衛策や持ち合いを、あたかも日本の経営者が保身で行っているように言われがちですが、そんな経営者は日本にいません。日本の経営者は常に会社の最善の利益を考えています。一つ残念なのは、株主のことを置き去りにしてきたことです。日本の経営者は株主のことを「しょせん明日株価が上がれば出て行く人たちだろ?」と見なしていました。ま、正しいです。資金の出し手ではあるものの、お金が儲かればさっさと出て行く人たちであり、会社の中長期的な利益など考えていないでしょう。考えているのは株価のことだけです。しかしそう言った人たちであっても会社のステークホルダーの一員であることは確かであり、株主に対する利益配分をちゃんと考える必要があります。かつての日本の経営者は株主に対する利益配分を考えていませんでした。株主が提供する資金を「返さなくてもよいカネ」と見なしていましたから。証券会社に罪があるんですけどね。でも今の日本の経営者はそんな風に株主のことを思っていません。重視すべきステークホルダーの一員と考えています。

日本の経営者は事前警告型買収防衛策や持ち合いを保身のために利用しようなどと一切考えていません。私はそんな経営者に会ったことがありません。このように敵対的買収が増えた今こそ、ちゃんとステークホルダーのために情報と時間を確保できる事前警告型買収防衛策を導入すべきでしょう。持ち合いだって必要最低限でやっておくべきです。

経営陣が株主との対話を通じて経営改革を進めていれば、敵対的な買収者が現れても株主はなびかない。株主との信頼関係の結果が株価だ。株価を上げることこそ敵対的買収への最も有効な防衛策となるのを、忘れてはならない。

いや、株主はなびきます。そもそも会社の実態を常に株価に反映させることは不可能です。株価は経営者がつけているのではありませんから。信頼関係の結果が株価ではなく、市場参加者の予想の結果です。株価が安すぎることもあれば、高すぎることもあります。それは単に市場参加者の勝手な予想に基づくものだからです。株価はきれいごとでついている訳ではないですから。

株価上昇が最も有効な買収防衛策とおっしゃる方がよくいますが、そうではありません。いや、買収防衛策という意味ではそうかもしれませんね。ただし、日本の会社が導入しているのは事前警告型買収防衛策であり、これは買収防衛策ではありません。ステークホルダーのために情報と時間を確保するためのルールです。情報と時間を確保することにより、不当に割安な価格による買収を防ぐことができ、買収価格を引き上げることができます。これのどこが買収防衛策なのでしょうか?最近の敵対的TOBは、BPSと同等もしくは安い価格で株主から買い取ろうとする例も見られます。例えば佐々木ベジさんによるソレキアへの敵対的TOBですが、市場株価にプレミアムはついているもののBPSよりも安い価格で実行されました。富士通の参戦により価格の引き上げ合戦になったものの、それでもBPSを下回る価格でした。ソレキアのケースでも買収防衛策があれば、もっと価格を引き上げることができたかもしれません。

買収防衛策が必要ないとおっしゃるのは、株主から不当に安い価格で株式を買い取りたいと考える買収者だけでしょう。敵対的買収に関しては、ちゃんと恐れたほうがよいです。企業文化が破壊されるかもしれないし、従業員の処遇もどうなるかわかりません。会社の中長期的な価値を損ねる可能性もあります。だからちゃんと買収提案の中身を時間をかけて精査する必要があります。単に「高い株価だから~」という理由だけで経営者は敵対的TOBに応じる訳にはいかないのです。当然、安い価格で敵対的TOBが実行されないよう、常日頃から経営者は株価を意識する必要があるでしょう。ただし、常に高い株価を維持することなど現実的には不可能ですし、割安になった瞬間を見逃さないのが敵対的買収者です。

事前警告型買収防衛策は悪ではありません。持ち合いも悪ではありません。敵対的TOBを恐れ、常に企業価値向上策や企業防衛について考えるのが一流の経営者ではないかと思います。

 

 

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