2020年03月10日

対抗措置発動が認められたら村上さんたちがTOBを撤回する理由

今日の日経15面で以下の通り報道されています。村上さんたちも昨日HPで公表していますね。人間ドックに行っていたためHPにアップするのが遅くなってしまいました・・・。

旧村上系、東芝機械のTOB「防衛策通れば撤回」

旧村上ファンド系のオフィスサポート(東京・渋谷)は9日、東芝機械に対して実施しているTOB(株式公開買い付け)について撤回する可能性を公表した。27日の東芝機械の臨時株主総会で、会社側が提案する買収防衛策の導入が可決されればTOBを取りやめる方針という。これで買収防衛策を巡る争いが法廷に持ち込まれる可能性は事実上なくなった。オフィス社は投資家の村上世彰氏が関与する投資会社。子会社を通じ、東芝機械の発行済み株数を最大で4割強取得するTOBを実施中だ。これに対し、東芝機械は他の株主に新株予約権を割り当てる買収防衛策を打ち出し、導入や発動の是非を臨時総会で問う状況となっている。オフィス社がこの日に株主に宛てた書簡では、臨時総会での買収防衛策の可否に関して、過半数の賛成でも「結果を重く受け止める」として、TOBを撤回すると表明した。これまで、過半数で可決されても賛成比率が3分の2未満だった場合は、裁判で有効性を争う姿勢を示していた。

村上さんたちは、東芝機械による対抗措置発動が臨時株主総会で可決された場合、過半数の賛成であっても「結果を重く受け止める」としてTOBを撤回するそうです。

なぜ差止請求をしないのでしょうか?特別決議による発動ではなく普通決議による発動ですから、差止請求をしたら村上さんたちの主張が認められる可能性があります。また、会社は村上さんたちに金員交付をせず(10年持ち続けたらしますが)、村上さんたちは経済的損害が発生する可能性があり、村上さんたちが発行差止請求をしたら勝つ可能性は大いにあるようにも見えます。にもかかわらずなぜこの時点で差止請求をしないようなことを言ってしまうのでしょうか?

まず1つには、対抗措置発動議案に対する株主の賛成票を減じ、反対票を増やす効果を狙っているものと思われます。普通決議で対抗措置発動が認められても村上さんたちが差止請求をして差し止まるだろうと考える株主もいるかもしれません。そのような株主に対して「あなたがたがちゃんと議決権行使をして対抗措置発動を止めないと、我々はTOBをやめますからね。だからちゃんと反対の議決権行使をしなさいよ!」という株主に対するメッセージでしょう。もしかしたら株主名簿の閲覧謄写請求をして、もう株主名簿をチェックしたのかもしれません。結果、票読みしたら割と東芝機械に賛成票を投じる株主がいた、だから一所懸命株主に反対の議決権行使を促していると捉えることができます。けっこう厳しい戦いになっているのかもしれませんね。

もう1つは、裁判対応がイヤという理由です。発行差止請求の裁判対応をするには弁護士費用がかかります。これ以上、東芝機械対応でコストをかけるがイヤだと判断した結果、裁判はやらない方向にしたのかもしれません。

そして、もう1つ。仮に発行差止請求をしたとして、普通決議による対抗措置発動であっても裁判所は認める可能性があります。仮にその理由として東芝機械が言っているように、村上さんたちのTOBが強圧的であることや大量に株式を買い集めて経営陣に圧力を加え短期で売り抜けることが目的であることなどを裁判所が認めた場合、村上さんたちがあたかも濫用的買収者かのように認定されてしまうおそれがあります。そのような認定をされてしまえば、今後の村上さんたちの投資活動に悪影響が生じる可能性があります。投資された会社が、裁判所の認定を理由に村上さんたちをターゲットにした買収防衛策を続々と導入するかもしれません。村上さんたちは発行差止請求をしても勝てると考えているかもしれませんが、コストやリスクを総合的に考えて、裁判を起こすメリットがあまりないと考えたのかもしれません。

私としては、普通決議による対抗措置発動議案に対する裁判所の見解が提示されなくてよかったと考えます。「普通決議による発動はダメ!」なんて明示されたら目も当てられませんから。でも本当に村上さんたちは普通決議で可決されたとして発行差止請求をしないんでしょうかねえ・・・。

 

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