2020年01月25日

相次ぐTOB合戦から透ける日本の資本市場の未成熟さ

日経ビジネスに相次ぐTOB合戦から透ける日本の資本市場の未成熟さという記事があります。記事そのものは非常に興味深い内容です。

ただ、記事中にいくつか気になるところがあります。

「えっ、これで終わりなの?」。香港に拠点を置くヘッジファンド関係者が驚いたのは東芝の上場子会社で半導体製造装置を手掛けるニューフレアテクノロジーを巡るTOB(株式公開買い付け)の結末だ。

まずここです。これ、みんなそう思ったでしょうね。「へっ、終わりなの?」って。だって東芝がこれまで有形無形の投資をしてきた上場子会社であるニューフレアテクノロジーを11,900円でTOBをかけて完全子会社化し、これから東芝とのシナジーをさらに深めて価値を高めていこうとしている中、たかが1,000円高いだけの12,900円のHOYAのTOBに東芝が応じる訳ありません。当然みんなそう思っており、当然HOYAもそう考えてあえてTOBをしかけたのだろう、と。そしてTOB価格を引き上げて、東芝のアクティビスト株主が東芝経営陣に対して「HOYAの提案を真剣に考えるべきではないか?」と声を上げるのをHOYAは待っているのだろう、と。あまりにあっけない幕切れでした。

1つの会社を取り合うTOB合戦がまだまだ少ない日本。企業価値や株主価値をしっかり見極める機会を逃したという意味では、今回の「肩透かし」のTOB合戦は、日本の資本市場の未成熟さを示すものといえるかもしれない。

おっしゃるとおりですね。まだ敵対的TOBが日本に根付いていないのでしょう。

対する村上氏は東芝機械の対抗策を「コーポレートガバナンス(企業統治)に対する冒涜(ぼうとく)だ」と語気を強める。確かに、経営者の保身につながるとして買収防衛策を廃止する企業が増える中では、今後、物議をかもす可能性はある。「なんて空気を読まないのかとあきれるほかない」(機関投資家)との声も早速、上がる。

村上さんは買収防衛策を「コーポレートガバナンスに対する冒涜だ」とおっしゃるのですが、全然冒涜じゃないですよ。東芝機械は株主らのために情報と時間をくれとしか言っていないのです。そして「ルールをちゃんと守って情報と時間を提供してくれたら、買収防衛策を発動するかどうかは株主意思確認総会にかける」と言っているのですから。情報と時間をくれと言うのがどうしてコーポレートガバナンスに対する冒涜なのか、私にはわかりません。

機関投資家が「なぜ空気を読まないのかとあきれるほかない」と言っているようですが、これ言ったの誰ですか?読まなければいけない空気とはどんな空気なのでしょうか?たった3,456円というBPS程度の価格であっても「時価より高い値段で提示しているTOBをジャマするな!」という空気でしょうか?うっすい空気ですなあ・・・。もっとTOB価格を引き上げるために経営者が努力するために必要な情報と時間を確保するのがどうしていけないのでしょうか?情報と時間があれば株主も声を上げることができます。囚人のジレンマに悩む必要もありません。

このように機関投資家はTOB価格がBPS程度であっても、市場価格より高いTOBであれば応募したくてしょうがないのでしょう。そういう意味では未熟なのは機関投資家を中心とした日本の資本市場が未熟なのです。

日本の経営者の皆さん、やっぱり買収防衛策って必要なんですよ。貴社のステークホルダーは株主だけではありません。今日の日経7面「米の株主重視は過剰」富士フイルムHDの古森会長 短期志向の経営に苦言で富士フイルムの古森会長が「米国の株主第一主義は行き過ぎている。法的には会社は株主のものだが、会社の存在意義は社会に価値を提供することだ。」とおっしゃっています。後半はおっしゃるとおりだと思います。しかし、前半はそうなのでしょうか?本当に会社は法的に株主のものなのでしょうか?取締役の選解任権などを株主が有しているから株主のものなのでしょうか?

そもそも会社は「もの」なのでしょうか?私は会社は「もの」ではないと思うのです。いろいろな考え方をもった人の集合体が会社であり、いろいろな人が生み出す利益で構成されているのが会社だと思うのです。決して会社は株主だけの「もの」ではないのです。

ものではない会社を経営者は守る必要があります。いろんなステークホルダーの利益を経営者は守る必要があると思うのです。当然、株主の利益も守らなければなりませんし、一方で株主だけの利益を重視して日本の会社に人生を捧げている従業員の利益をないがしろにしてはいけません。いろんなステークホルダーの利益とは何か、それを守るためにはTOBに応じたほうがよいのかどうかをちゃんと情報と時間をかけて見極めなければならないのです。単にTOB価格が高いからという理由だけで経営者はTOBに賛同できないのです。

情報と時間の提供を要請し、すべてのステークホルダーの利益を守るための買収防衛策が必要な時代になったと言えるのではないでしょうか?何度でも言いますが、買収防衛策はたまたま東証がプレスリリースのタイトルに(買収防衛策)と書きなさいという指導をしているから買収防衛策と呼ばれていますが、決して買収提案の実現を阻害するための施策ではないのです。

余談ですが、かつて富士フイルムも買収防衛策を導入していました。

 

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