2020年05月29日

ミネベアミツミが買収防衛策を廃止

ミネベアミツミが買収防衛策を廃止しました。

https://www.release.tdnet.info/inbs/140120200529429640.pdf

ミネベアミツミは買収防衛策を更新してくれるもんだと思っておりましたし、特に貝沼社長が以下のとおり、かつて非常に頼もしいご意見をおっしゃっていたので、大変残念です。

No.134 買収防衛策に対する経営者の頼もしい意見、ですが私の見方はちょっとだけ違います

このコラムにあるセイコーエプソンも今年廃止を公表しました。とっても残念です。

ミネベアミツミは廃止のプレスのなかで、他社にはない珍しいことをおっしゃっています。

当社は、1980年代後半に、濫用的買収者(いわゆるグリーンメーラー)により当社株式を大量に取得され、株価の乱高下により株主の皆様に多大なるご迷惑をおかけするとともに、経営戦略を推進・展開するための貴重な時間と経営リソースを空費したという非常に苦い経験があります。これらの経験を踏まえ、当社は、本プランを2008年5月に導入して以降、改定・更新を重ね、直近では2017年6月29日開催の第71回定時株主総会にて、株主の皆様にご承認をいただいて本プランを更新し現在に至っております。

かつてミネベアミツミは敵対的買収をしかけられたことがあります。誰よりも敵対的買収のこわさを知っているミネベアミツミが買収防衛策を廃止するにいたるまでには、内部でよくご検討されたのでしょう。苦渋の決断だったのではないかと思います。

https://maonline.jp/articles/book67

しかし皆さんによく考えていただきたいのは、買収防衛策とは何なのか、ということです。買収防衛策は経営者の保身のために利用されるものではありませんし、そのようなことができる仕組みにはなっていません。日本の会社が導入しているのは、買収防衛策ではなく、買収提案がなされた場合において、すべてのステークホルダーにとってその買収提案が価値あるものなのかどうかをしっかりと検討するための情報と時間を確保するためのものなのです。

ミネベアミツミは敵対的買収を検討するための、武器の一つを捨てました。いわば外堀をうめられた大阪城の状態です。

株主は会社に対して買収防衛策を廃止せよと声高に主張します。それはなぜでしょうか?それは、買収防衛策があると自分たちが保有する株を高値で売却する機会を失ってしまうのではないかと危惧しているからです。そうではないということを皆さんは徹底的に主張する必要がありますし、そのような形で買収防衛策を利用しないことを株主に徹底的に説明する必要があります。時間をかけて、です。

買収防衛策の更新期限が近づいたから「そろそろ買収防衛策の検討を始めようか」ではないのです。買収防衛策とはなにか、買収防衛策がなぜ必要なのか、買収防衛策の本当の効果、必要性を株主にどう理解してもらえばよいか、を常に考えなくてはならないのです。それが、株主価値・企業価値を守り、向上させることにつながるからです。

買収防衛策を廃止してしまった会社は何を考えなくてはならないでしょうか?買収防衛策に代わる武器を検討しなくてはなりません。「いざとなったら東芝機械みたいに有事導入型で対抗すればいいんだろ?」ではありません。東芝機械のように対応するためには、いろいろな条件が重ならないと難しいのです。運よく旧村上ファンドだからあのように対応できたのです。

買収防衛策を廃止した会社は、買収防衛策のことをこれから考えなくてよくなります。これまでは3年ごとに「さて買収防衛策を継続するかどうか?」を検討していましたが、それがなくなるのです。敵対的買収のことを考える機会が失われていきます。そして、あるとき突然、大量保有報告書が提出されます。みなさんはそんな会社を知っています。

川崎汽船です。名門川崎汽船がエフィッシモに38%もの株式を買われ、取締役を受け入れることになるなんて誰も思っていなかったでしょう。ミネベアミツミは廃止のプレスで以下のことも言及しています。

一方、当社は、2017年のミツミ電機株式会社との経営統合をはじめ、2019年には自動車部品のTier1(ティアワン)メーカーである株式会社ユーシンとの経営統合、そして本年4月にはアナログ半導体専業メーカーであるエイブリック株式会社との経営統合等により、ここ数年で事業基盤をより一層強化し、企業価値の向上に積極的に取り組んでまいりました。

ミネベアミツミの株価は以下のとおりです。

そして川崎汽船の株価は以下のとおりです。

川崎汽船の株価は10年前は4,000円でしたが、今日は1,111円です。なお、リーマンショック前は10,000円を超えていた時期もありました。

ミネベアミツミは数年前、株価が500円を割っていた時期もあります。株価は経営者が付けるものではありません。投資家が付けるものです。究極的には株価は経営者がどうすることもできないものであり、株価だけで会社を守ることはできません。

ミネベアミツミは苦渋の決断だったことでしょうし、大変ご苦労されたことと思います。しかし、買収防衛策を捨ててしまった以上、これからの道のりにおいては厳しい局面があるかもしれません。

買収防衛策を廃止した会社は、これまで以上に買収防衛策、企業防衛のことを考える必要があるでしょう。

 

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