2021年02月04日

日本製鉄に敵対的TOBを仕掛けられた東京製綱の反対意見の内容

詳しくはコラムでまとめますが、気になったところを少しだけ。読みやすさの観点から( )などは削除している場合がありますので、詳しくは以下をご覧ください。

http://www.tokyorope.co.jp/info/assets/pdf/20210204_release.pdf

2021年1月27日開催の当社取締役会において、特に重要な点に絞って本公開買付けが当社の株主共同の利益はもとより、当社のすべてのステークホルダーの皆様の共同の利益、及び、創業会長である渋沢栄一翁が掲げた当社の経営理念である「共存共栄」を実現しうるのかといった観点から、更なる評価・検討を行うために明らか にされるべき事項を、本公開買付者に対する質問として記載した意見表明報告書を提出することを決議いたし、同日中に、本意見表明報告書を関東財務局長に提出し、その写しを公開買付者に送付しました。

渋沢栄一翁ときましたか!まあ新一万円札ですし、次のNHK大河ドラマですしねえ・・・。あと「特に需要な点に絞って」って書いてますけど、すごく違和感があります。別に特に重要な点に絞って質問をする必要はないのでは?株主やその他のステークホルダーの利益を確保・向上させるという観点から必要な質問をすればよかっただけでは?

当社は、公開買付者が当社と利益が相反する鉄鋼線材サプライヤーとして利潤を追求する立場にあり、本公開買付けにより公開買付者の当社への影響力が高まることで、却って、株主共同の利益はもとより、当社のすべてのステークホルダーの共同の利益の毀損につながりかねないと判断しております。 この点を明らかにすべく、当社は2021年1 月27日に公開買付者に対して質問を行いました。しかし、本対質問回答報告書において、公開買付者は、当社への材料供給に関する質問(6)に対して「これまでと同様 の公正な取引関係を継続していく」と述べる一方、当社の経営の独 立性維持に関する質問(9)に対しては、「経営の独立性の意味合い」や「公開買付者からの役員派遣の予定」 に関する明確な回答をしておりません。そのため、本公開買付け後 の当社の独立性の維持については、その確証が全く得られておらず、本公開買付け成立後に、公開買付者の当社に対する影響力が強まることを懸念しております。つまり、本公開買付けの成立により、当社の購買における自由度が制限され競争力・収益力が減退する恐れがある点、及び当社の多様な事業ポートフォリオを阻害する可能性も否定できない点が懸念されます。 これらが株主を含む当社のすべてのステークホルダーの共同の利益に対して将来的に影響を与え続けることで、当社の創業会長である渋沢栄一翁が掲げた「共存共栄」という経営理念を実現できない恐れがあると判断し、本公開買付けに反対します。

これ、日本製鉄は今回のTOBで10%しか取得せず、TOB後の保有割合は約19%にしかなりません。そして2020年6月の株主総会においては日本製鉄は一部役員の選任議案に反対していますが、賛成率は84%程度あります。仮に日本製鉄が19%の株式を保有したとしても、役員選任議案を否決できる水準ではないと思われます。ですから、東京製綱がいくら「日本製鉄のTOBが成立したら独立性が確保できない!」と主張しても、ちょっとムリがあると思うのです。

そして東京製綱は「渋沢栄一翁が掲げた「共存共栄」という経営理念を実現できない恐れがある」と主張していますが、これもヘンですね。渋沢栄一翁がおっしゃっているのは「共存共栄」です。共存共栄とは「互いに助け合ってともに生存し、ともに繁栄すること。」ですね。しかし現状、少なくとも日本製鉄は「東京製綱さん、経営体制とガバナンス体制を改めてください。そうじゃないと私どもは貴社を支持できませんよ!」と言っています。共存共栄の共には日本製鉄も含まれてしかるべきでは?その日本製鉄は今の状態は共存共栄ではないと考えたから、今回TOBを実施したのでは?東京製綱の主張する共存共栄は身勝手な共存共栄のように見えます。

一方で、当社にとって公開買付者は重要な取引先でもあり、また長年の協業パートナーでもありました。 当社は今後も、当社の掲げる「共存共栄」という経営理念の実現、すなわち、株主・公開買付者を含むお取引先様・地域社会・従業員といった当社のすべてのステークホルダーの皆様の将来的な共同の利益の向上を共に実現していくことを前提とした具体的なご提案をいただけるのであれば、これを前向きに受け止めて 公開買付者との協議に応じていきたいと考えています。しかし、その協議の前提として公開買付者による当社株式の買増しが必要であるとは当社は考えておりません。

なるほど。一応、共存共栄の相手先として日本製鉄も含めて考えてはいるようですね。ただ「株式の買い増しが必要であるとは考えていない」と主張していますが、これはちょっと身勝手では?これまでさんざん日本製鉄は経営体制の見直し、ガバナンス体制の見直しを提案してきたけど、聞き入れなかったわけでしょう?だから日本製鉄は最終手段に出たのでは?

当社は、1963年に公開買付者の前身たる八幡製鐵と橋梁用ケーブルにて協業を開始し、以後、公開買付者とは約60年もの長い年月をかけて様々な分野で協力し信頼関係を構築してきました。その間、当社は、協業に関する協議はもちろんのこと、公開買付者に対する定期的な決算報告や合弁会社に関する協議、線材の価格交渉などを通じて、公開買付者とのコミュニケーションを積極的に図ってまいりました。 このような関係にある両社間にあって、当社に経営上の問題やガバナンス上の問題があるとご認識なのであれば、そうした懸念を当社の経営陣に対して直接お伝えいただくなど、株主として建設的な対話を通じて改善を促すのが、コーポレートガバナンス上、本来あるべき姿と信じます。しかし、公開買付者は、かような建設的な協議・対話を一切行うことなく、2020年10月より、当社経営陣からの面談の依頼や架電に応えていただけなくなり、突然、本公開買付けを一方的に開始されました。当社は、この点につ いて、公開買付者に対し質問をいたしましたが、本対質問回答報告書においても合理的な説明がなく、 まったく不可解であります。 公開買付者は、そのコーポレートガバナンス報告書において、政策保有株式に関して、「政策保有に関する方針」として、「これまでの事業活動の中で培われた国内外の幅広い取引先・提携先との信頼関係や協業関係の維持・発展は極めて重要と考えて」いると述べておられますが、事前協議もないままに、本公開買付けを突然かつ一方的に開始されたことは極めて遺憾であります。

経営上、ガバナンス上の問題があるから日本製鉄は過去東京製綱の役員選任議案の一部に反対していたのでは?反対したことも意思表明の一つでしょうし、おそらく何の話し合いもせずに日本製鉄が突然反対するなど考えにくいですね。あと不思議なのは「2020年10月おり、当社経営陣からの面談の依頼や架電に応えていただけなくなり」という部分です。これって逆に言えば、2020年9月までは面談なり電話なりで対応していたということでは?そして日本製鉄が東京製綱の対応に嫌気がさしたのか不信感を持ったのか、不満がピークに達し「このままだとダメ!TOBを検討する」となったから対応してもらえなくなったのでは?

また、本公開買付届出書全体をみれば、公開買付者が、本公開買付け終了後に「新たに社内人材を対象者の取締役として選任する」などして当社の経営体制に強い影響力を及ぼそうとしているのは明らかであります。にもかかわらず、本公開買付けでは、買付予定数の上限が1,625,500 株(所有割合にして10.0%)と極めて低く設定されており、公開買付者は、本公開買付け終了後においても当社を持分法適用会社にすらしないとのことです。このような矛盾をはらむ本公開買付けをなぜ今行わなければならないのか、その理由もまったく理解できません。

その理由はたぶん以下だと思います。

No.997 日本製鉄の公開買付届出書を分析すると見えてくること

日本製鉄の作戦を読む!

日本製鉄による東京製綱への敵対的TOB~今後の流れは?~

本当に日本製鉄がこういう行動に出るのかはわかりませんが、ただ東京製綱は気づいていないのでしょうか?普通は気づくと思うのですが。

公開買付者は、①取締役会長の代表取締役としての在任期間が約20年に及ぶこと、②社外取締役が取締役9名中2名にとどまり、当該社外取締役も1 名は在任期間が約10年に及んでいること等をもって、 取締役会として十分な独立性を備えておらず、そのことがガバナンス体制の機能不全を起こし、引いては 当社の企業価値が毀損され続けているとの考えを示しております。 当社としては、上記①及び②でいう、取締役会長及び社外取締役の在任期間の長さについて、当社取締役の任期が1年であり、毎年の定時株主総会にて、選任権者である株主の皆様に経営の状況、在任期間や経営方針、社外役員の独立性に関する当社基準等を示したうえで正式に選任されている以上、在任期間の長さは株主のご信認の厚さの現れでこそあれ、期間の長さが不適切であるとの公開買付者の主張に首肯することはできません。

うーん、どうかなあ・・・。東京製綱の外国人株主比率は13.48%です。国内機関投資家もいるでしょうけど、時価総額がさほど大きくはありませんからねえ。個人株主比率は35.74%と高いです。まあ一般的には役員選任議案に積極的に反対する株主は少ないですから、毎年の株主総会で選任されているから問題ないんだ!という理屈はちょっと強引に思えます。オーナー系企業でもないのに在任期間が20年ってやっぱり長いでしょ?誰かが問題提起をしないかぎり、一般の株主は反対までしないですからねえ。日本製鉄の今回の問題提起を機に一般の株主がどういう議決権行使をするかで結果がわかるのでは?

公開買付者が、当社の2017年6 月27日開催の定時株主総会以降、継続して当社の取締役の選任議案に反対票を投じてきたとの記載が随所にあります。これらの記載は、公開買付者が経営上の問題を指摘し、経営改善を促すために当社の株主として議決権を行使したかのような印象を与えますが、実際には、当社の連結経常利益過去最高益(4,444 百万円)を計上した2014年度ですら、公開買付者は、一部の取締役候補者の選任に反対票を投じていることからも明らかなように、当社の業績如何にかかわらず、公開買付者自らの意に沿わない取締役の選任に反対してきたものではないかと推察されます。なお、これまでご説明を申し上げたとおり、当社では近年、厳しい事業環境にある中で、既存の不採算事業からの撤退等の構造改革を進めつつ、同時に当社の企業価値の維持向上に必須といえる新規事業の育成を進めなければならないという課題に直面しておりますが、漸くその端緒が見えつつあります。公開買付者は取締役の在任期間の長さを問題視しておりますが、特に新規事業の育成には経営方針の一貫性が重要であることも株主の皆様にはご理解いただけるものと考えております。

新規事業の育成には一貫性が重要だから在任期間も長くなる!ってことですかね?だとすると、なぜ田中会長だけが長いのか不思議ですね。むしろ社長やその他の役員の在任期間も長くなってしかるべきでは?また、日本製鉄は2014年度においても反対票を投じていると指摘していますが、まあまさにガバナンスを重視しているのでは?

こんな感じの反対表明です。ということで東京製綱は日本製鉄との全面戦争を選択しました。いくら反対しても、おそらく日本製鉄の今回のTOBは成功するでしょう。たった10%しか集めませんから。

しかし異なるシナリオもあると思いますよ。ホワイトナイトではありません。ホワイトナイトが登場したり、他の防錆手法が取られたりすることも否定はしませんが、日本製鉄相手にケンカを売る人がいるのでしょうか?また、今回の反対意見表明では弁護士事務所やFAがあきらかにされていませんが、どこがアドバイスしているのでしょうか?

さて日本製鉄には大義名分が立ちました。今後の行動を期待しています。

なお、私の読みは往々にして外れますので(笑)


 

 

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