2021年02月22日

買収防衛策導入企業、ピークから半減

日経に以下の記事が掲載されています。

買収防衛策導入企業、ピークから半減 統治改革進む

まず私が理解できないのは、このタイトルです。どうして買収防衛策導入企業が減少したことで統治改革が進んだことになるのでしょうか?

買収防衛策を導入する企業が一段と少なくなっている。2020年12月末時点の導入企業数はピーク時の08年末から51%減り281社となった。金融庁と東京証券取引所が15年に適用した企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード)が浸透し、上場企業の多くは投資家との対話を重視する姿勢に転換。新株予約権の発行などで買収を妨げる資本政策を廃止する動きが広がっている。

買収防衛策を廃止する企業が増えたのはコーポレートガバナンス・コードの浸透が理由ではありませんよ。大きな影響は買収防衛策に反対する国内機関投資家が増えたことです。それによって賛成率が低くなるリスクがある、最悪否決されるリスクがあると考えてしまった経営者が増えたことです。

「上場企業の多くは投資家との対話を重視する姿勢に転換」とありますけど、上場企業の多くが対話しているのは、まともな機関投資家でしょ?わけのわからない敵対的TOBを仕掛けてくる買収者とまともに対話したいと考える上場企業の経営者など存在しませんよ。

そして「新株予約権の発行などで買収を妨げる資本政策」とありますけど、これがまさに買収防衛策に対する誤解ですね。買収防衛策は発動ありきで設計されているわけではなく、買収防衛策の目的は「株主をはじめとしたステークホルダーのために買収提案の詳細な情報と検討するための時間を確保すること」です。日本の買収防衛策は買収を妨げる仕組みにはなっていません。

企業統治指針は上場企業に企業価値の向上を求めるための行動指針で、株主との対話や適切な情報開示を促す基本原則を明記している。買収防衛策についても導入の理由などを説明するよう求めている。同指針は今春に改定され、株主との対話などがより重視される方向だ。

買収防衛策も買収者と対象会社との対話や適切な情報開示を促すためのルールです。フリージア・マクロスによる日邦産業に対する対質問回答報告書をご覧になったでしょうか?とてもじゃないですが、日邦産業や日邦産業のステークホルダー(株主だけではありません)が納得する回答ではないと思いますよ。金商法の質問権がまったく機能していないということです。対象会社が意見表明などで株主に対して情報発信をする必要がある一方、買収者も質問されたことに対して真摯に回答し、情報開示をすべきだと思いますよ。

防衛策は経営者の保身につながり、資本効率の低下を招くとして投資家からの批判が強い。20年6月の共同印刷の株主総会では、株主から提案されていた防衛策廃止案について3割超の賛成が集まった。王子HDや明電舎の株主総会でも、買収防衛策の継続・更新に対しての賛成比率が50%台にとどまった。

防衛策は経営者の保身につながりません。買収防衛策が経営者の保身につながった事例はいくつあるのでしょうか?そもそも買収防衛策導入企業に対する買収提案はいくつありましたか?数えるほどしかありません。その事例において明らかに経営者の保身で買収防衛策が利用されたケースはあったのでしょうか?どういう根拠に基づいて買収防衛策が経営者の保身につながるとおっしゃっているのか理解不能です。今はやりの言葉で申し上げると「エビデンスがない」です。

それと、買収防衛策継続議案に対する賛成率が50%台にとどまったと指摘していますが、50%あれば十分でしょ?そもそも賛否両論ある議案なのですから、それなりに反対票が増えるのは当たり前です。反対する機関投資家が存在する一方で、賛成する機関投資家も存在ます。以下、ご参考まで。東芝機械の買収防衛策発動議案にブラックロックは賛成したそうですよ。

https://toyokeizai.net/articles/-/339022

こういった記事が今後も増えるでしょう。そして買収防衛策に対する風当たりも強くなるでしょう。買収防衛策を継続する会社はこれまで以上に丁寧に買収防衛策を継続する理由を説明する必要があります。ただ簡単なことです。「私たちは買収防衛策をいかなる買収提案の実現をも阻害するルールであるとは認識していないし、経営者の保身で利用することはできない仕組みにしている」ときちんと説明しましょう。そしてこれを機に取締役会の過半数を社外取締役にすることも検討しましょう。そうやって機関投資家の懸念を払しょくし、買収防衛策は買収防衛策などではないことをきちんと理解してもらいましょう。まともな機関投資家は話せばわかる人たちです。

なお最後に私の予言。

今後、買収防衛策を再導入する企業が増えるであろう!

根拠はありません。買収防衛策の再導入に関する相談が増えている訳でもありませので。単なるカンです。

 

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