2021年02月24日

買収防衛策を廃止した会社は再導入すべきときです

2019年1月に伊藤忠商事がデサントに対して敵対的TOBを実施したことをきっかけにしてか、HOYA、前田建設工業、ニトリ、日本製鉄といった日本を代表するような会社が敵対的TOBを選択する時代になりました。

そして、旧村上ファンドもまた日本アジアグループに対して敵対的TOBを仕掛けました。そして東芝以外の投資先には最近おとなしかったと思われるエフィッシモもサンケン電気に敵対的TOBを仕掛けました。時代は大きく変化しています。

現在、フリージア・マクロスが日邦産業に対して敵対的TOBを実施していますが、フリージア・マクロスは日邦産業が買収防衛策を再導入したことを問題視しています。日邦産業は2009年5月に買収防衛策を廃止した際、以下のとおり開示しました。

https://www.nip.co.jp/news/20090515_1.pdf

当社は、平成19年5月18日開催の当社取締役会において、当社の企業価値ひいては株主共同の利益を確保・向上させることを目的として、当社株式の大規模買付行為に関する対応方針(買収防衛策) の具体的な内容を決定し、平成19年6月28日開催の当社第56回定時株主総会における株主の皆様のご承認を得て導入いたしております。

一方、その後成立した金融商品取引法により、経営関与に向けた重大提案行為等を目的とした株式取得には特例報告制度の適用が認められず、5営業日以内の「大量保有報告書」の提出が義務付けられました。また、公開買付けが開始された場合には、発行会社による「買付期間の延長請求」及び「質問権の行使」が可能となりました。従って、買収防衛策導入の目的である、検討に必要な情報と時間の確保は、法によりある程度担保されることとなりました。

また、昨今、過度の買収防衛策が日本の資本市場の閉鎖性と認識され、かつ国際資金の日本株式市場からの撤退傾向が指摘される中、企業は資本に対して等しく開かれた存在であることを明確にすべきとの認識に至りました。

その結果、会社は株主のものであり、経営に関する重大な提案がなされた場合、その判断は最終的に株主にゆだねられるべきとの資本主義の原則に立ち返り、本定時株主総会以降、買収防衛策を継続しないことと致しました。

ここまで廃止理由で踏み込んだことを書いた会社は日邦産業くらいかと思いますが、まあ、書きすぎましたね。特に太字にしたところ。そもそも買収防衛策は買収防衛策ではないですし、導入企業数も一番多いときで600社程度です。上場会社の20%程度ですよ。買収防衛策が日本の株式市場の閉鎖性を表しているとは言えません。株主への利益配分が少なかったことが海外投資家が日本株を敬遠した理由ではないでしょうか?ま、ガバナンスもその理由の一つかもしれません。収益性の低さもあるかもしれませんね。買収防衛策などはたいした理由ではありません。

また、会社は株主のものであると言い切ってしまいましたが、そもそも会社はものではありません。仮にものであったとしても、株主だけのものではありません。会社のステークホルダーは株主以外にも従業員や役員、取引先、取引金融機関、地域社会、国といったようにさまざまです。そのようなさまざまなステークホルダーの貢献によって成立しているのが会社という存在です。

まあ、日邦産業は廃止理由を書きすぎましたし、フリージア・マクロスはこの点を大いに突いています。「オレたちはこういった理由で買収防衛策を廃止した日邦産業を評価して買っていたのに、突然買収防衛策を再導入するとはなにごとや!」といったことですね。まあ、そりゃそうですよね。これだけ大見えきって廃止したのに「再導入しまーすっ!」ってのは都合がよいです。

でも、日邦産業の再導入はまったくおかしなことではありませんし、むしろ株主からも評価されてしかるべきです。突然、フリージア・マクロスという会社が市場で株式をどんどん買い増している、その理由もよくわからない、どうやらうちを持ち分法適用会社にすることが目的なのかもしれないが、そうであるならちゃんと株式を取得する目的を明示してもらう必要があるし、部分的に株を買って実質的に当社を支配しようとしているのなら問題だ、ちゃんと情報を集めて株主に知らしべるべきだし、そのためには廃止した買収防衛策が必要だ、と考えたのでしょう。非常にまっとうな経営者です。そしてこのタイミングで廃止した買収防衛策を復活させるなんて、相当勇気のある経営者だと思いますよ。

ただ、やっぱり何か事が起きる前に再導入しておくべきでしたよね。フリージア・マクロスに19%買われても買収防衛策を可決できる株主構成なのですから、フリージア・マクロスがソレキアにTOBをかけたり、世の中で敵対的TOBが増えてきたりしたタイミングで「やっぱり必要なんじゃないか?」と考えて再導入しておくべきだったと思います。

買収防衛策を廃止した会社はたくさんあります。廃止した理由は「株主総会で否決されるかもしれないから」が多いのですが、そうではない会社もあります。株主構成を見る限り「いや、貴社は総会で否決される可能性などゼロですよ」という会社も廃止しています。そういった会社はもう一度、今の世の中の状況を見なおしていただきたい。買収防衛策を廃止した会社は非常に狙われやすくなってしまうのです。もしかしたら、日邦産業はフリージア・マクロスに株を買われる前に再導入していたら、継続していたら、狙われなかったかもしれません。

廃止した会社の皆さん、買収防衛策を復活させるべきです。買収防衛策は買収防衛策ではありませんし、経営者の保身でもありません。会社の危機管理の一環なのです。胸を張って再導入してください。

 

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