2020年03月12日

前田道路が昨日公表したプレスを分析しましょう

分析になるかどうか自信はありませんが・・・。というのも、分析するほどの内容が特にありませんねえ。ではプレスを抜粋しながらコメントします。長いですのでお時間があるときにどうぞ。

前田建設工業株式会社に対する協業検討に関する覚書締結の提案及び「公開買付けに関する意見表明(反対)のお知らせ」の一部訂正について

当社は、本提携(NIPPOとの資本業務提携)が実現できれば、当社として幅広いシナジー効果が期待でき、当社の企業価値の向上に資するものと考えていることから、本提携の実現に向けて尽力する所存であります。一方、当社は、本公開買付けに係る届出書の記載内容に鑑みると、当社が前田建設の連結子会社になった場合には、前田建設と当社との間で利益相反的な取引や行為が行われ、当社少数株主の皆様の利益が毀損されることに加えて、本提携が停滞してしまうことも強く懸念しております。

前田建設の意向が前田道路の経営を左右する可能性があるから、場合によっては少数株主の利益が毀損されたり、NIPPOとの提携が停滞してしまう可能性があるということでしょうか?であれば、NIPPOもJXTGが56.8%保有する上場子会社ですから、そういうリスクがあるのではないでしょうか?また、NIPPOとの資本業務提携が前田道路、ひいては前田建設グループにとってメリットのある内容であれば前田建設がジャマするようなことはしないと思います。

そこで、当社は、当社少数株主の皆様の利益を保護するため、及び本提携を実現させるた めに当社と前田建設との間の資本関係を本公開買付け開始前の状態に維持しつつ、本公開 買付けにより大きく損なわれた両社間の信頼関係の修復を進め、本提携と抵触しない範囲で両社間において企業価値向上の観点から協力関係が再構築できないかを模索するべく、前田建設に対して協議の申入れを行い、2020年3月4日及び9日の2回にわたって、当社代表取締役社長今枝ら担当役員が前田建設の前田操治代表取締役社長らと協議を行いました。

決して前田建設による敵対的TOBだけが両社間の信頼関係を損なわせた訳ではないと思われます。今となっては非常に感情的だった前田道路の反対の意見表明も両社間の信頼関係を大きく損なわせたのではないでしょうか?例えば以下の記載内容です。

・前田建設及び公開買付者が当社の経営支配権を取得することは、当社が、資本市場からの評価がより乏しい企業によって経営されることを意味します。

・未だ時流に遅れた体制を維持する前田建設の主導によって当社のコーポレート・ガバナ ンス体制が強化されるなどという公開買付者の主張は、到底首肯し難いところです。

その他は以下のコラムやニュースをご覧ください。

前田道路の反論内容~これはホワイトナイトの香りがします~

No.756 前田建設工業vs前田道路~ホワイトナイトが登場すると考える理由~

しかし前田道路の側から前田建設に対して協議の申し入れをしたのですねえ。なんとまあ・・・。あれだけ強烈な反対の意見表明をしておきながら「仲良くするために協議しましょうよ」ってことですか?うーん・・・。で、前田道路は、

そして、この2回目の協議では、前田建設及び公開買 付者が当社とのシナジー創出の柱の一つとしている公共インフラの包括管理や PPP・コンセッション分野において、協業の可能性に関し協議を開始することを主たる内容とする協業検討に関する覚書の締結を提案いたしました。

ほう。どんな覚書を提案したのでしょうか?

1両社の協業の可能性について、協業の実現可能性及び経済合理性を考慮し、両社の企業価値向上に資するか否かという観点から検討を開始。実務者レベルのワーキングチーム を組成して定期的に協議。役員レベルの協議は年2回を目処。両社は、本検討の結果を踏まえて、本協業の実施について各自決定。

2協業の可能性検討の対象領域は、公共インフラの包括管理や PPP・コンセッション分野とする。

あれだけ前田建設との協業には意味がないと言っておきながら、ワーキングチームを組成しましょう、役員レベルの協議も行いましょう、って・・・。前田道路は本当に真剣に協議するつもりがあるんでしょうか?前田建設にしてみれば「時間かせぎだろ?」としか思えないのではないでしょうか?

3協業の可能性検討のための前提条件(検討が相互の信頼関係に基づき必要な時間をかけて行われるべきものであることから、その環境整備の趣旨)

前田建設工業による現在進行中の公開買付けの撤回

前田建設工業による前田道路株式の買増し禁止

前田建設工業による本年4月の前田道路臨時総会での特別配当議案への賛成

前田建設工業指名の社外取締役1名選任を本年6月の前田道路定時株主総会に会社提案議案として上程

・・・都合がよすぎませんか?前田建設に対して、TOBを撤回しろ!株を買い増すな!特別配当議案に賛成しろ!前田建設が指名する社外取締役を選任してやる!って提案したということでしょ?これをのむことによって前田建設に生じるメリットってなんですか?上記1及び2を協議することだけですよね?こんなのTOBを実行して前田道路の株式を51%握れば可能になります。TOBを撤回するメリットが一つもありません。

4有効期間は 3 年。双方合意による延長可。

5両社の合意する内容で覚書締結の事実の公表。

前田建設は「3年間時間をかせぎたいのね・・・」と思ったでしょうね・・・。

そして、

本件協議において、当社は、前田建設及び公開買付者が当社とのシナジー創出の柱の一つ としている公共インフラの包括管理や PPP・コンセッション分野における前田建設の提案について、独立当事者としての立場から、本提携と抵触しない範囲で、十分な体制と時間をかけて当社と前田建設の間のシナジーの創出につき検討していくことを想定しておりました。これに対して前田建設は、本件協議において、色々選択肢を検討している等の抽象的な意見を繰り返すに留まり、両社の信頼関係を修復するための他の具体的な提案はありませんでした。本件協議後においても、前田建設側からの具体的な提案はありませんでしたので、当社は、2020年3月10日及び3月11日に、担当者及びアドバイザーを通じて前田建設側に意向の確認するためのアプローチを継続して行っておりましたが、3月11 日の午後になって、本覚書の締結には応じられないという意向が示されました。

そりゃそうでしょうね・・・。このような前田建設にとって具体的メリットのない提案に応じる訳がありません。前田道路とアドバイザーは、特別配当実施を公表しこのような形で前田建設と交渉すれば前田建設が折れると考えていたのでしょうか?いや、ムリでしょ?どう考えても下から下からの交渉ですよね?「特別配当を実施するぞ!」「前田建設さん、どうかTOBを撤回してください。仲良くしますから」っていう交渉でしょう?交渉になる訳がありません。そもそも前田道路は敵対的TOBを仕掛けられており、前田建設はすでに前田道路株を約24%所有しています。前田道路はホワイトナイト探しもうまくいかず、追い詰められていました。ただでさえ24%もの株式を握られ、けっこう高いTOB価格を提示され、かつ助けてくれるホワイトナイトもいないという状況です。前田建設は何もしなくても、ただ3,950円のTOBを続行すれば勝てる状況なのです。にもかかわらず前田道路は「特別配当をします。仲良くしますから、どうかTOBを撤回してください」と交渉ではなくお願いをしに行ったのです。これは交渉ではなく「お願い」です。交渉とは、「利害関係が生じている中で、合意点を得るために行われる対話、議論、取引である。その目標は双方が受け入れることができる諸条件を導き出し、それに合意すること」です。https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%A4%E6%B8%89

前田道路は、前田建設が交渉のテーブルについたものの、前田建設が譲歩するための材料を持ち合わせていませんでした。特別配当の実施は前田建設にとって取引材料にはなりませんし、あえて使いますが「脅迫材料」にもなりません。特別配当を実施されても何も怖くないですから。だってTOBを延長して特別配当議案を否決するか、可決されたとしてもその後の株価を基にしたTOB価格で再度TOBを実施すればよいだけです(例えば3,950円―特別配当650円=3,300円)。どうしてこれが交渉材料や脅迫材料になると考えたのでしょうか?不思議です。

前田道路は「前田建設は、本件協議において、色々選択肢を検討している等の抽象的な意見を繰り返すに留まり、両社の信頼関係を修復するための他の具体的な提案はありませんでした。本件協議後においても、前田建設側からの具体的な提案はありませんでした」と書いていますが、前田道路は具体的な提案をすでにしています。それが敵対的TOBという提案です。これ以上に具体的な提案などないでしょう。前田道路は前田建設に対して「仲良くしましょうよ。だからTOB撤回してくださいよ」としか提案(お願い)していないように見えます。プレスの内容を見る限り、前田道路の提案も特段具体的なものではないように見えます。前田道路は前田建設に対して「こんなに信頼関係を損なってしまったのはオマエがうちに敵対的TOBを仕掛けたからだ!だからオマエがTOBを撤回しろ!そうしたら仲良くしてやる!」と言っているようにしか見えません。

あまいですね。敵対的TOBとはいったい何なのかがわかっていらっしゃらないように思います。敵対的TOBとは?「食うか食われるかの戦争」ですよ。会社が乗っ取られるかどうかの瀬戸際なんです。そんな厳しい戦いに対して、このような特別配当といった対抗策になっていない奇策で戦おうとした前田道路の覚悟が甘いのです。

だからパックマンだって言ったんですけどね。パックマンで株主の利益を毀損してでもよいから戦えという意味ではなく、パックマンをうまく活用する必要があったのです。

No.775 前田道路はパックマンを「主軸」にして対応すればよかったと思います

特別配当という奇策を考えたのは、一部報道によると、「そうして覚悟を決めた今回の特別配当の実施。知恵を授けたのは三井住友信託銀行と長島・大野・常松法律事務所とされる。」だそうです。

TOB対抗で特別配当実施へ、前田道路に知恵つけたのは誰?

どうして敵対的TOBの局面で三井住友信託銀行が登場するのかはよくわかりません。これまで有事の状況で信託銀行が対抗策の戦略策定にかかわるなど聞いたことがないですね。票読みとかはやってると思いますけど。

私がとても驚いたのが、長嶋大野常松がこの奇策についての知恵を授けたという点です。この奇策は奇策であって対抗策になりません。特別配当議案を否決させてTOBを続行するか、可決されても撤回して再度TOB価格を設定してTOBをやりなおせばよいだけだからです。このような対抗策にならない奇策をあの優秀な長嶋大野常松の弁護士が授けるとは到底思えません。何かほかに隠し玉があるのでしょうか?長嶋大野がアドバイスしているということなので、一応私はまだ前田道路が何かしらの抵抗をするんじゃないかと期待はしています。さすがにこれは対抗策にも交渉材料にもなりませんから。

私はパックマンを活用する方法のほうが非常に現実的だと思いますし、前田建設もパックマンで交渉されたらブルブルと震えたと思いますよ。ただし、あくまで株主に迷惑をかけなようにしなくてはなりません。今の時代、何が何でも守り切る、株主なんて知ったことかといった防衛戦略は通用しません。

普段から敵対的TOB対策を考えていなかったらからこのような事態なってしまったのではないでしょうか?買収防衛策、株価上昇、株主提案対応といった会社の危機管理対策についてはやはり常日頃から考えておかなくてはなりません。

 

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