2020年03月12日

脱・株主第一主義の行方

今日の日経6面に脱・株主第一主義の行方(創論)という記事がありました。記事の最初の方にこう書いてあります。

一つは米経営者団体「ビジネス・ラウンドテーブル」だ。2019年8月に「企業の目的」を再定義し、(1997年以降の「株主第一主義」を改め)すべての利害関係者(ステークホルダー)を重視しなければならないと宣言した。私もバンク・オブ・アメリカの最高経営責任者(CEO)としてこの声明にサインした。

もう一つは世界中の経営者が集まる「ダボス会議」。今年1月、発足当初の理念を再確認した。それは主宰者のクラウス・シュワブ氏が最初から提唱していた「ステークホルダー主義」だ。

経営者はまず株主と顧客、従業員に利益をもたらす、そして地域社会にも貢献するということだ。企業は株主還元、または公益の「どちらか(Or)」を追求するのではなく、「両立(And)」を求められる時代だ。2つを達成できなければ、顧客や従業員から受け入れられなくなり、経営者は退任を余儀なくされる。

これを読んだ日本の経営者はどう思うでしょうか?たぶん「こんなことは当たり前のことだ。日本の経営者はずっとこういう考え方で経営をしてきた。株主だけの利益を重んじる風潮はいかがなものかと常に考えてきた。ようやく米国の経営者も気付いたか!」といった感じでしょうか?以下のような記事もあります。

「米の株主重視は過剰」富士フイルムHDの古森会長 短期志向の経営に苦言

うちのHPでも記事にしています。

相次ぐTOB合戦から透ける日本の資本市場の未成熟さ

脱株主第一主義は世界的に浸透しつつあります。しかしながら、だからと言ってアクティビズムの風が弱まることはないでしょう。少なくとも今の日本のおいては。米国でアクティビズムをしようにも、効率化・合理化が進みROEも高い米国企業には物言える余地がなくなってきました。ではアクティビストはどこをターゲットにするでしょうか?

彼らから見て効率化・合理化が進まず、ROEも低く改善余地のある日本企業をターゲットにすることは一目瞭然です。しかも「どうやら最近日本でも敵対的TOBが起きるようになり、成功している。LIXILに対する株主提案も可決された。安定株主神話とやらは崩れたらしい」と見ている可能性があります。

欧米で脱株主第一主義が進もうとも、日本企業がアクティビストの手から逃れる手段は今のところ限られていますし、いくら脱株主第一主義を日本企業が主張しようとも、容赦なくアクティビストは株を買ってきます。そして株主提案をしたり、敵対的TOBをしたりしてきます。

脱株主第一主義とは、行き過ぎた株主至上主義から脱しましょうということであって、今の日本企業はまだ行き過ぎた株主至上主義に直面していません。欧米は行き過ぎた株主至上主義を経験したから言っているのです。最近起きている敵対的TOBや株主提案など、ほんの序章に過ぎません。本格的な攻勢はこれから始まります。

このような時代を迎えるに当たって、今のうちに何をしておくべきなのか?10年以上前の最初のアクティビスト騒動のときには多くの会社が「敵対的TOB対応マニュアル」「株主提案対応マニュアル」を整備しました。果たしてそれで十分なのかどうか。そもそも整備したけど「あれ?ブラックブックっていう敵対的TOB対応マニュアルって誰が保管してるんだっけ?」という状態ではないでしょうか?

有事に備えた危機管理体制を今から考えておく必要があると思われます。

 

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