2020年06月10日

「買収防衛 株価に足かせ」についてもうちょっと突っ込んでみましょう

買収防衛策は株価の足かせになっているのでしょうか?でお伝えしましたが、本日の日経18面に以下の記事が掲載されています。

買収防衛、株価に足かせ 収益改善の意欲問われる

さきほどHPで指摘しましたが、この記事はかなりムリがありますし、ちょっとこじつけが過ぎます(笑) 買収防衛策を継続した福山通運と廃止したセイノーHDを比べるのであれば、当然、6月1日継続を公表した同業であるトナミHDの株価も比較すべきでしょう。

比較してしまうと、買収防衛策を継続したトナミHDの上昇率がもっとも高く出てしまうのですがね(笑) ただ、公正に比較をするという観点からは、ちゃんと入れるべきでしょう。

また、他にもこの記事には気になるところがたくさんあります。

目下の株高をけん引するのは、割安な水準に放置されていた銘柄を買い戻す動きだ。買収防衛策を導入している企業もこうした割安株に分類される銘柄が多いが、株価の戻りは相対的に小さい。日経平均は年初来安値を付けた3月19日と比べると39%上昇。一方、4月以降に買収防衛策の継続を決定した銘柄の株価(東証1部、時価総額加重平均)は22%高にとどまる。

一般的に言って、買収防衛策の継続、廃止はそれのみが公表されることはほとんどないと言っていよいです。つまり、買収防衛策の継続、廃止と同時に決算発表などを公表しているケースがほとんどなのです。ですから、買収防衛策の継続、廃止が株価にどれだけ影響を与えるのかを見極めるのは不可能です。まあ、ほとんどが決算の影響と言ってしまってもよいでしょうね。さきほど例示したセイノーHDなんて、まず間違いなく自社株買いの公表が株価に影響を与えたのでしょう。

世の中では「買収防衛策は株価にマイナスの影響を与える」といった考察が満ち溢れていますが、はっきり言ってそんな分析をするのはムリです。だって買収防衛策と決算が同時に公表されたら、どっちの影響で株価が動いているのかなんてわからないでしょ?

例えば5月に防衛策の3年間の延長を決定した福山通運の株価は3月19日比で5%の上昇で、日経平均のみならず同業のセイノーホールディングス(34%上昇)にも大きく劣後する。実はセイノーHDは福山通運とは反対に買収防衛策の廃止を決定した銘柄だ。

さきほどアップした買収防衛策は株価の足かせになっているのでしょうか?のとおりです。セイノーの株価は自社株買いの影響です。そして、セイノーと福山通運を比較するのであれば、6月1日に買収防衛策の継続を公表した同業のトナミHDも入れるべきでしょう。継続したトナミの株価上昇率が一番高いですけどね。

JPモルガン証券の姫野良太氏は「両社ともに企業間物流を主力にしており、新型コロナで業績が落ち込むのは共通している」と指摘。「ガバナンス改善への姿勢の差が株価のパフォーマンスを左右する一因となっている」と強調する。セイノーHDも含め、東証1部で買収防衛策の廃止を決定した銘柄の株価は34%高となっており、継続を決めた銘柄の値動きを上回る。

だ・か・ら、自社株買いの影響です。ガバナンスではありませんし、そもそも買収防衛策の廃止=ガバナンス改善ではありません。買収防衛策を廃止した東芝機械(現芝浦機械)は買収防衛策を廃止しましたけど、旧村上ファンドから敵対的TOBを実施されるや、有事導入型の買収防衛策で対抗しましたよ。平時の買収防衛策を廃止したからと言って、上場会社が企業防衛行動を取らないかと言えば、そんなことはありません。会社の脅威になるおそれがある買収者に対しては防衛行動を取りますし、防衛行動を取ること自体がガバナンス上、悪という訳ではありません。現に東芝機械の買収防衛策発動に賛成した機関投資家もいるのでは?

買収防衛策がガバナンス上、ちゃんと機能することもあります。というか、平時の事前警告型買収防衛策は、買収者に対して時間と情報を提供することを要請しているだけであって、どうしてこれがガバナンスにとって悪なのかが合理的に説明されていません。

株式相場全体は上昇しているものの、企業業績の底はまだみえない。投資家はコロナの影響が残る中で収益を回復する企業戦略に強い関心を持っている。にもかかわらず、買収防衛策を導入している会社は「投資家とのコミュニケーションを通じて業績を改善させていく効果が期待できない」(ニッセイアセットマネジメントの井口譲二氏)。

どうして単に時間と情報をステークホルダーのために提供してくれというルールを導入しているだけで、投資家とのコミュニケーションを通じて業績を改善させていく効果が期待できないのでしょうか?意味がわかりません。むしろ、買収防衛策をちゃんと読んでいない投資家が「買収防衛策なんてけしからん」と考えて、企業とのコミュニケーションを阻害しているのではないでしょうか?

ちゃんと買収防衛策導入企業の声を聞いていますか?どうして買収防衛策が必要なのかを議論していますか?それもせずに、すべて買収防衛策を導入している上場会社のせいにするのは無責任です。

別の運用会社のESG担当者は「本音ではアクティビスト(物言う株主)に株を少しでも持たれたくないという目的で防衛策を継続する企業が多い」と批判する。

本音では、すべての上場会社が「アクティビストに株を少しでも持たれたくない」と思っていますよ(笑) 買収防衛策導入企業だけではありません。日本だけではなく米国の会社だってそう思っているのではないですか?アクティビストに株を持たれたいと思っている上場会社なんて存在しません。

M&A(合併・買収)助言のレコフによると、5月末時点で買収防衛策を導入している企業は289社。廃止企業が増え、導入企業は減少傾向にある。こうした流れに背を向け、かたくなに防衛策を維持する企業への風当たりは徐々に強まりそうだ。

三井住友DSアセットマネジメントの蔵本祐嗣氏は「コロナという大きな構造変化に直面してもなお、上場企業がM&Aなどの事業再編に否定的な姿勢を示すことは、低い収益力を温存することになりかねない」と危惧する。ガバナンスを向上させ、コロナ禍を乗り越える事業転換を果たせるかどうかが、企業の今後の生き残りを左右する可能性がある。

これは「買収防衛策を導入している企業はM&Aに否定的」と言っているのですよね?ちなみに、北越製紙に敵対的TOBをしかけた王子ホールディングスは今年、買収防衛策を継続しました。前田道路に対して敵対的TOBをしかけ成功した前田建設工業も買収防衛策を継続しています。ミツミ電機と経営統合したミネベアは今年まで買収防衛策を継続していました。かつて買収防衛策を導入していた新日鐵は住金と経営統合しました。

みなさん、おわかりいただけたかと思います。

 

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