2022年01月13日

「株価の向上こそ、最大の買収防衛策」は間違っている!!!

以下の記事で村上さんがこうおっしゃっています。

TOB参戦の村上ファンド「株価向上、最大の防衛策」

「株価の向上こそ、最大の買収防衛策」

違いますね。最大最強の買収防衛策は株価の向上ではありません。最大最強の買収防衛策とは?

持ち合いです!

買収防衛策という意味合いでいうと、最大最強の買収防衛策は持ち合いなのです。株価向上ではありません。株価をいくら上げようが買収者はやってきます。株価をいくら上げようが「この株価では満足しない!」「もっと上げろ!」とアクティビストたちは主張します。現に東芝はどうなっていますか?以下、東芝がアクティビストに行った第三者割当増資価格と株価です。

2017年12月に実施した第三者割当増資の価格は262.8円です。併合を考慮すると2,628円です。以降の株価ですが、第三者割当増資価格を下回った時期もあるものの、2021年11月5日に5,245円を付けています。倍になりました。しかしこれでもアクティビストは「まだ足らん!」「PEファンド連れてきて非公開化しろ!」と叫びます。株価向上だけでは買収防衛策にならんのですよ。そもそも投資家それぞれが目標株価を算出しているでしょうし、買ったタイミングも違います。

No.1224 (無料公開)3Dの東芝に対する株主提案。だったらあんたがやれば?

しかし私は何も持ち合いだけやっておけば十分と言っているわけではありませんし、過度な持ち合いをすべきではないと考えています。持ち合いで安定株主比率を66.7%まで高めよと言っている訳ではありません。株価を上げる必要もないと言っている訳ではありません。

上場会社は危機管理対策の1つとして、適度な持ち合いをしておくべきであると言っています。適度な持ち合いとは?ラクラク特別決議を通せるだけの安定株主を確保するのではなく、アクティビストが攻撃してきたとしても、普通決議議案くらいはラクラク通せるくらいの安定株主は確保しておいたほうがよいと考えています。

普通決議すら通せないような株主構成では、経営者は過度な緊張感を強いられる経営をしなくてはならなくなります。それは企業経営において健全とは言えません。適度な緊張感は必要であるものの、普通決議すらあやうい株主構成では中長期的に腰を据えた経営をすることが困難になり、経営者が本業に集中できません。だからある程度の持ち合いで企業防衛体制を確立しておくことは重要であると考えています。

また、適度な持ち合いだけをやっておけばOKと考えている訳ではありません。買収防衛策と呼ばれてしまっている平時の事前警告型ルールも必要であると考えています。なお、私は有事型買収防衛策には否定的です。なぜなら、有事型買収防衛策が世の中で横行すると、まさに経営の緊張感がなくなるからです。詳しくは以下のコラムでまとめています。

No.1212 (無料公開)みなさん買収防衛策のことを本当に理解していますか?

No.1214 (無料公開)なぜ国内機関投資家は有事型買収防衛策に賛成して平時型に反対するのでしょうか?

No.1215 (無料公開)本当に買収防衛策は株価に悪影響を与えるのか?

No.1216 (無料公開)じゃあ議決権行使助言会社と機関投資家はこういう場合にどう議決権行使をするのでしょうか?

No.1217(無料公開)平時型買収防衛策を導入していると経営の緊張感がなくなるのか?

No.1218(無料公開)今年最後のコラムです

もちろん有事型買収防衛策を私は全否定している訳ではありません。まともな経営方針も持たず、単に高値での売り抜けのために戦略的に仕掛けてくるアクティビストによる敵対的TOBや買い占めに対しては有事型で対抗すべきと考えています。ただ、平時から事前警告型ルールをちゃんと入れておけばよいのに、というのが本音ですが。

企業防衛というのは、ただこれだけをやっておけばOKという話ではないのです。株価だけ上げておけばよいというのは乱暴ですし、持ち合いだけやっておけばよいというのも乱暴です。持ち合いだけやっている会社は、おそらく株式市場から見放されます。そして株価は万年割安に放置されます。そしていつか持ち合い先が株を持てなくなり放出されると、アクティビストたちのターゲットになります。株価を一所懸命あげても、東芝のような状態になることもあり得ます。また、株価は未来永劫上がり続ける訳ではありません。今の経営者はタイミングもよくて株価を上げられるかもしれませんが、みなさんの後輩経営者の時代には景気がどうなっているかわかりません。いくらがんばっても株価につながらない不運な時代というのはあります。

もちろん、平時型買収防衛策を導入しておけばすべてOKというものでもありません。平時型買収防衛策の主目的は買収提案を検討するための情報と時間を確保することにあり、対抗措置を発動することが主目的ではないのです。平時型買収防衛策だけで会社を守ることができると考えるのは大間違いです。

私は、持ち合いも適度にやるべき、株価もちゃんと上げるべき、そして平時型買収防衛策もちゃんと導入しておくべきと考えています。あらゆる策をバランスよくやっておく必要があります。そもそも株式市場の登場人物は全員が善人という訳ではないのです。中には株価さえ上がればよく、会社の中長期的な企業価値など知ったことか!従業員の利益なんざ知るか!オレだけがもうかればいいんだ!と考えている投資家だっていますよ。そういう人たちに対抗するにはきれいごとだけではやってられないのです。だからある程度の持ち合いも必要なのです。

そして株価もちゃんと上げておかなくてはならないのです。持ち合いだけで守り切れるほど、甘い世の中ではありません。安定株主比率の高い関西スーパーはどうなりましたか?

繰り返しますが、これだけやっておけば会社を守ることができるといった都合のよい便利な策など企業防衛の世界にはありません。泥臭いこともやらなくてはならないし、王道もやらなくてはならないのです。そういう世の中になったのです。

 

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