2021年12月28日

No.1218(無料公開)今年最後のコラムです

最近無料公開コラムが多くてすみません。ちょっと買収防衛策に関する誤った報道などがあり、ちゃんと私の意見を述べたほうがよいと考え無料での情報発信を続けました。

そもそも私は、買収防衛策と呼ばれている事前警告型ルールは平時のうちからちゃんと導入しておくべきと考えています。なぜなら「事前警告型ルール」だからです。事前警告型ルールの意義は、20%以上の当社株式を取得する場合は、買収提案に関する詳細な情報を提供してください、そして経営陣や従業員、株主といったステークホルダーが検討するための時間を提供してください、という内容を事前に公表することにあります。事前に公表しているから、買収者に対して情報と時間の提供を要請することが可能になっていると考えています。

ですから、事前警告型ルール=平時型買収防衛策は買収防衛策の発動をすることが目的なのではなく、あくまで情報と時間を確保することが目的です。一方で、有事型買収防衛策の目的は買収防衛策を発動して買収提案の実現を阻止することにあります。まさに有事型買収防衛策は買収防衛策なのです。

私、ISSやグラスルイスが東芝機械の買収防衛策発動議案に賛成推奨をしたとき、ビックリしました。「なんで平時型買収防衛策に反対しておきながら、有事型の発動議案に賛成するの?」と。平時型の導入に反対なのに、どうして有事型には賛成するのか?これ、だれか論理的に説明してもらえませんかね?以前のコラムでまとめたとおり、じゃあ自分たちが反対推奨した平時型買収防衛策導入企業に買収提案がなされ、検討の結果、発動するとなったとき、買収提案の内容が株主にとって不利な場合、導入議案には反対しておきながら、発動議案には賛成するってことですか?理屈、おかしくありません?

私、やっぱり買収防衛策ってのは事前にちゃんと公表しておくべきだと考えます。だってやっぱりヘンでしょ?例えば平時型買収防衛策を廃止した会社が、突然有事になったら、廃止した平時型買収防衛策とほぼ同じ仕組みの有事型買収防衛策を導入し「ルールに応じろ!発動するぞ!」って、普通に考えてヘンじゃありません?同じ仕組みの買収防衛策を自ら廃止しておきながら、有事になるや否や時間と情報をよこせ、発動するぞってヘンですよ。

私は、平時型買収防衛策を導入するメリットはたくさんあると思っています。一番のメリットは経営者が買収防衛策について考えるようになることです。これは何も買収防衛策でどうやって守り切るかを考えるという意味ではなく、買収防衛策を学ぶことでその限界を知るということです。買収防衛策は万能な策ではなく、結局のところ情報と時間を確保することしかできず、発動するものではないということを理解するのです。そして結局は買収提案がまともな買収者によってなされた場合は買収防衛策で守り切ることはできず、会社を明け渡すしかないということに気付き、「これではいかん」というマインドになります。そういうマインドになった経営者は、買収防衛策では守り切ることができないのだから、普段から企業価値向上策・株主価値向上策を考え実践していかなくてはならない、となるのです。

でも有事型買収防衛策が横行し、まともな買収提案に対しても発動して乗り切ることができる事例がたくさん出てくると、経営者はいざとなれば有事型で追い払えばいいんだ、というマインドになります。そして、経営の緊張感がなくなってしまうのです。ですから、マスコミのみなさんには、有事型が横行すればいずれ経営の緊張感がなくなる、有事型よりも平時からきちんとその仕組みを公表している平時型を導入すべきだと報道してほしいと願っています。やはり買収防衛策は発動ありきで考えてはいけないのではないでしょうか?

そして機関投資家のみなさんには、ぜひ平時型買収防衛策には賛成していただきたいと思っています。持ち合いをやられるより、全然いいでしょ?持ち合いには反対するけど、平時型買収防衛策は情報と時間を確保するためのルールなのだから賛成するという方針にあらためていただきたいと思っています。平時型買収防衛策を乱用する会社が増えてきたら、そのときに「せっかく株主のために使ってくれると思ったから導入に賛成してあげたのに、保身のために使ってばかりいるじゃないか!信用できなくなったから反対だ!」でいいんじゃないでしょうか?

日本の敵対的買収時代は始まったばかりです。そして平時型買収防衛策の運用事例もほとんどありません。機関投資家のみなさんは一度ぜひ日本の経営者の株主に対する善意を信用してあげてはどうでしょうか?きちんと運用することを前提に賛成するよ、と。機関投資家のみなさんだって、突如として導入される有事型より、普段から仕組みを開示している平時型のほうがいいでしょう?

このまま有事型が横行すると、まともな買収者による敵対的TOBも減ってしまう可能性があります。だって「TOBを仕掛けても有事型で対抗されるだけ」と考えますから。まともな買収提案であったSBIの新生銀行に対するTOBですら、ISSとグラスルイスは賛成推奨したのです。発動ありきの有事型が横行すると、日本で敵対的TOBは発展しなくなるでしょう。

さて、今年は本当に参考になる事例が数多く起きました。まだまだ序の口だと思います。来年も敵対的TOBが増えるでしょう。そして有事型買収防衛策での対抗も増えるでしょう。そして私は、機関投資家のみなさんの考え方が大きく変わる年になると信じています。

今年1年大変お世話になりました。来年もよろしくお願いいたします。私、寅年なので来年は年男です。きっといい1年になると思っております。みなさま、よいお年を!

コラムは今年最後ですが、営業は通常どおり365日やっておりますので、何かありましたらご連絡ください。

 

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