2017年08月09日

No.147 米投資ファンド、東芝株を大量保有&買収防衛策のテクニカルな話

■米投資ファンド、東芝株を大量保有

 キング・ストリート・キャピタル・マネージメントという米国の投資ファンドが東芝株の5.81%を取得し、大量保有報告書を提出したそうです。2017年8月8日(火)の日経17面に記事が掲載されています。記事の中には「同社株を巡っては今春以降、旧村上ファンド出身者が設立したシンガポールのファンドや米著名投資家デービッド・アインホーン氏が率いるファンドなどが「割安感がある」として相次いで大量保有に動いている」とあります。デービッド・アインホーンが何%保有しているかは不明です。エフィッシモは9.84%保有しています。

 エフィッシモが東芝株を取得した正確な時期はわかりません。大量保有報告書・変更報告書を提出したのは2017年3月23日と4月7日です。想像ですが、2月中旬に大幅に下げてから取得したイメージでしょうか?だとすると、現時点ではけっこう儲かっているように思います。エフィッシモ、やりますねえ。さすがです。

 今の東芝株に手を出すなんて勇気があるな、という評価がある一方で、「所詮、損しても人の金だもんな。損しても出資者に損失補てんする訳でもないからな」という評価もあるでしょう。所詮、人の金ですから勝負できるのかもしれません。自分のお金を多額に東芝株に投資しようなどと考える人はいないでしょう。

 東芝株は昨年12月の株価に比べて半分以下になった時期もありました。東芝についてはひとごとです。皆さんとは関係ないでしょう。しかし、大幅な株価下落という点は無関係とは言えません。どの企業にも株価が大幅に下落する場面はあります。うちにはエフィッシモや村上ファンドは寄ってこないだろう、と何となく考えてしまう方もいらっしゃるとは思いますが、株価が下がれば寄ってくる可能性はどこの企業にもあります。

 皆さん、そろそろ東芝のことも頭らか消えつつあるのではないでしょうか。新聞に東芝のことが書かれていても、読み飛ばしたりしていないでしょうか。私は若干読み飛ばしています。関心が薄れつつあります。薄れつつあるところに、新聞記事を見つけたのでコラムにしてみました。

 東芝のような粉飾決算をするような会社はほとんどいないでしょう。しかし、東芝のような株価の下げについてはどの会社にも共通して発生するリスクです。株価が下落し、会社の本質的価値との間にかい離が生じれば、アクティビスト・ファンドは容赦なく襲ってきます。ターゲットになるのに、時価総額は関係ありません。安定株主比率だって関係ないでしょう。エフィッシモなんて聞いたことのないアクティビスト・ファンドだったかもしれませんが、世界にはもっと強烈なアクティビスト・ファンドがいるのでしょう。

■買収防衛策のテクニカルな話

 今日のコラムは買収防衛策のテクニカルな話です。実務者じゃない方が読んでもおもしろくないと思います。でも読んでいただけると嬉しく思います。

 これは、大和証券投資信託委託が公表した6月の株主総会議案に対する賛否の状況です。http://www.daiwa-am.co.jp/system/files/giketu/giketu_20170801_73762.pdf

個別企業の議案に対する賛否も公表しています。上表を見て気になるのが、買収防衛策に対する賛否です。反対比率は90.3%です。100%ではないのです。10社には賛成しています。では、どこの企業の買収防衛策に賛成したのでしょうか?調べてみたところ、以下の企業です。

3861王子ホールディングス

4202ダイセル

5237ノザワ

5411ジェイエフイーホールディングス

5631日本製鋼所

6395タダノ

6471日本精工

6999KOA

7438コンドーテック

9706日本空港ビルデング

なぜこの企業は賛成してもらえたのでしょうか?大和証券投資信託委託の買収防衛策議案に対するスタンスは以下のとおりです。

(17)買収防衛策の導入・継続

①当該企業の経営陣による恣意的な発動の余地がある等、企業価値・株主共同の利益の確保または向上につながると判断できない買収防衛策については、反対する。

(※)企業価値・株主共同の利益の確保または向上につながると判断できないと考える基準は、以下のいずれかの条件に合致する場合。

・株主総会に諮らず取締役会決議によって発動されるケースで、下記以外の要件による発動の可能性がある。

  1. 買収者が大規模買付ルールを順守しない場合
  2. いわゆる東京高裁4類型
  3. いわゆる強圧的2段階買収
  4. 買収者に反社会的勢力の関係者が含まれている場合等、公序良俗の観点から明らかに不適切である場合

・下記のいずれの要件も満たしていない。

  1. 第三者機関(独立委員会等)による判断がなされる仕組みとなっており、かつ当該第三者機関の委員のうち過半数が独立性を満たしている
  2. 取締役会の構成員の過半数が独立性を満たした社外取締役である

・買収者の評価期間が90日(+延長30日)を超える。

・買収防衛策の有効期限が3年を超える。

②当該企業のガバナンス体制が不十分であると判断される企業(独立性のある社外取締役が複数いない企業)については、反対する。

③実際に買収が見込まれる場合における導入については、個別に検討する。

 一つ一つ解説します。

①当該企業の経営陣による恣意的な発動の余地がある等、企業価値・株主共同の利益の確保または向上につながると判断できない買収防衛策については、反対する。

(※)企業価値・株主共同の利益の確保または向上につながると判断できないと考える基準は、以下のいずれかの条件に合致する場合。

・株主総会に諮らず取締役会決議によって発動されるケースで、下記以外の要件による発動の可能性がある。

  1. 買収者が大規模買付ルールを順守しない場合
  2. いわゆる東京高裁4類型
  3. いわゆる強圧的2段階買収
  4. 買収者に反社会的勢力の関係者が含まれている場合等、公序良俗の観点から明らかに不適切である場合

これは「防衛策の発動を取締役会決議のみで行う場合において、防衛策発動の対象範囲が広い場合は反対しますよ」という意味です。だいたいの会社が防衛策発動の判断において、取締役会決議のみではなく、独立委員会にアドバイスをもらったり、株主総会に諮ったりするタイプにしているので、この基準を理由に反対されるケースはほとんどないと思われます。

・下記のいずれの要件も満たしていない。

  1. 第三者機関(独立委員会等)による判断がなされる仕組みとなっており、かつ当該第三者機関の委員のうち過半数が独立性を満たしている
  2. 取締役会の構成員の過半数が独立性を満たした社外取締役である

 独立委員会はほとんどの企業が設置していますし、委員の独立性を確保している企業が多いので、1を理由に反対されるケースはほとんどありません。2については、取締役会の構成員の過半数が独立性を満たした社外取締役である企業はほとんどないでしょう。ただし、1か2のいずれかを満たしていれば反対されませんから、実質的にこれらにより反対されるケースはないでしょう。

・買収者の評価期間が90日(+延長30日)を超える。

買収提案の評価期間を区切っているケースがほとんどです。ただし、情報提供期間を含めた評価期間を90日(+30日)に設定しろという基準であれば、反対される企業もあります。ちょっと基準が読み難いですね。

・買収防衛策の有効期限が3年を超える。

基本的に3年を超えているケースは少ないです。

②当該企業のガバナンス体制が不十分であると判断される企業(独立性のある社外取締役が複数いない企業)については、反対する。

難しいですねえ。独立性のある社外取締役を1人おいている企業はけっこうあると思うのですが、複数となると微妙です。

③実際に買収が見込まれる場合における導入については、個別に検討する。

 これば王子製紙による北越製紙に対するTOBの際に、北越製紙が王子製紙から水面下でTOBを打診された後に買収防衛策を後出しジャンケンで導入したことを意識した項目ですね。北越製紙の後出しジャンケンで東証も怒りました。以降、買収防衛策のプレスには「現在、買収提案などは受けておりません」という文章を入れるよう東証から指導されます。

 この機関投資家の買収防衛策に対する基準はそれほど厳しいものではありません。反対比率が90%と高い理由もよくわかりませんが、たぶん、社外取締役が複数必要という項目で引っかかる企業が多いのかもしれませんね。買収防衛策に対する機関投資家の基準は厳しくなっていると聞きますので、これから機関投資家の基準をチェックしていきたいと思います。

 

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