2017年02月14日

No.57 東芝は買収防衛策を廃止してよかったのでしょうか?など2コラム

■東芝は買収防衛策を廃止してよかったのでしょうか?

 買収防衛策にはタイプがあります。世間一般で共通した分け方ではありませんが、私が野村證券に在職していた時は、「買付ルール設定型」「外部委員会判断型」「株主意思確認型」という3つのタイプに区分していました。これは、主に、防衛策発動の判断主体が誰であるかによって区分していました。買付ルール設定型は取締役会、外部委員会判断型は外部委員会、株主意思確認型は株主総会、が防衛策発動の判断主体です。この3つのタイプの代表的な会社は、買付ルール設定型:パナソニック、外部委員会判断型:東芝、株主意思確認型:新日鐵住金、でした。うち、パナソニックと東芝は廃止しました。

 今回は東芝にスポットを当てます。東芝は皆さんご存じのとおり、現在、大変な状況です。東芝の会計不祥事が発覚しはじめたのは2015年4月のことです。本日、2017年2月14日正午に予定していた決算発表は延期になりました。関東財務局に決算報告の期日延長を申し入れたと報道されています。最長で1か月の延長だそうです。特設注意市場銘柄への指定継続、債務超過になるおそれ、など現在、いろんなリスクを抱えています。

 東芝はなぜ買収防衛策を廃止したのでしょうか?東芝は2006年6月に買収防衛策を導入し、2009年及び2012年に更新しましたが、2015年5月に廃止を公表しました。廃止理由は以下のとおりです。

 東芝は「経営環境の変化」「金融商品取引法整備の浸透状況」「株主の皆様の意見」を考慮して廃止したとしています。たぶん、「経営環境の変化」と「株主の皆様の意見」が大きいのでしょうね。「買収防衛策なんて導入している場合か?むしろこの状況で買収してくれる会社がいるならありがたいと思え!」といった意見かもしれません・・・

 東芝が買収防衛策を継続するには相当な忍耐が必要だったのかもしれませんが、素直に株価だけ見ると買収リスクは非常に高まっていますよね。安く買い叩いて、解体することだって可能です。もちろん、現在の東芝を買うにはリスクがあるとは思います。原発事業のリスクが図れません。また、東芝は、外国資本の会社やファンドが買おうと思っても、外為法があるのですんなり買えないかもしれませんね。

 東芝の株価下落は、東芝の開示資料や報道から見る限り、東芝の責任なのでしょう。しかし、世の中にはめったにないかもしれませんが、自社の要因ではないことで株価が下落することがあります。本質的な企業価値と株価のかい離が生じることがあります。その隙を見逃さないのが買収者です。事業会社だったり、ファンドだったり、です。そのかい離を埋める時間と情報を確保する施策が、日本企業の導入している事前警告型の買収防衛策です。買収防衛策は有事の備えです。「めったにないことだから」と考えて買収防衛策を廃止してしまったり、導入に二の足を踏んでしまったりしてはいけません。買収されるという有事はめったにないことですが、めったにないことを想定して準備しておくことがコーポレート機能を担う部署の重要な仕事ではないかと考えます。

■ソフトブレーンとソレキアは手遅れ~手遅れになる前に~

 ソフトブレーンは昨年スカラに敵対的買収を仕掛けられ、子会社化されました。現在、スカラはソフトブレーンに役員選任及び増配の株主提案をしています。スカラはソフトブレーン発行済株式総数の43.29%、議決権ベースで45.57%を保有していますので、一般的に考えると株主提案は可決されるでしょう。

 ソレキアは現在、佐々木ベジ氏が敵対的TOBを実施しています。TOB期間は2017年2月3日から3月24日までです。TOBを実施中ですので、成功するかどうかまだわからないというご意見があろうかと思いますが、私は必ず成功すると考えています。理由はやや生々しくなるので、ここでは控えます。

 ソフトブレーン、スカラともに、買収を仕掛けられる前に何らかの防衛手段を講じるチャンスはありました。

ソフトブレーンの場合は非常に難しかったと思いますが、市場での大量の株式取得が大量保有報告書で判明する数か月前に、出来高が急増したタイミングがありました。下のグラフで2015年5月から6月あたりにかけてのタイミングです。この際に危険を察知し、買収防衛策を導入しておけば子会社化されることはなかったと思います。ただし、これはかなり難しいです。出来高が増えただけでは買収されるとは思いませんから。

 一方、ソレキアは確実に防衛するチャンスがありました。佐々木ベジ氏が会長をつとめるフリージア・マクロスにより大量保有報告書が提出されたのは2016年11月10日ですが、上位大株主として2015年9月中間期末の四半期報告書に登場していますから、遅くとも2015年10月頃には株主であることをソレキアは把握していたはずです。

株式を買い増されるリスクがあると考え、買収防衛策を導入しておくべきでした。株主構成を見ても、創業者がまだ株式を保有していますから、株主総会に買収防衛策をかけても可決できたはずです。

 では、なぜ買収防衛策を導入しなかったのでしょうか?あくまで想像ですが、「もうちょっと様子を見てから買収防衛策を導入するかどうか検討しようか?」と考えていた可能性があります。気持ちはわからんでもありません。まだ4%程度しか持たれていませんから、「これからどんどん買い増すような動きを見せたら買収防衛策導入を検討しよう」と考えていたのかもしれません。

 しかし、よく考えてみると、4%の株式を事業会社が取得したということは、何らかの狙いがあるはずなんです。何の狙いもなく、しかも対象会社の経営陣に事前に打診せず、事業会社が株式を取得することなどありません。ファンドであれば株式を取得し、利益が出れば売却するのでしょう。最終的には売却します。川崎汽船のようにエフィッシモが38%の株式を取得しましたが、どのような売却手法を取るかはわからないものの、いずれは売却します。事業会社の場合は、そういう訳にはいきません。いずれ売却するだろう、ではなく、いつか追加取得して子会社化することを狙っているかもしれない、という考えのもとで防衛体制を構築すべきです。

 一方、このご時世では、ファンドの性質にもよりけりですが、「株式を取得したのはファンドだからいずれ売るんだろ?」と安易に考えることは危険です。川崎汽船のように経営に重要な影響をおよぼす水準の株式を取得されることもあります。最終的に売ることは売るけれども、特定の誰かにまとめて売るかもしれない、ということです。それが、対象会社の意に沿わない競合会社、かもしれません。

 

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