2021年12月22日

No.1214 (無料公開)なぜ国内機関投資家は有事型買収防衛策に賛成して平時型に反対するのでしょうか?

理屈がとおらないでしょ?普通に考えたら。

以下の記事を見て、平時型の買収防衛策に対する誤解を解いたほうがよいと考え、無料公開コラムをいくつかアップすることにしました。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC264A50W1A121C2000000/

ニッチツの場合、松原祐生副社長は「他社の動向も見て大量買い付け行為が増えていることに対応した」と話し、「平時型」の防衛策と強調する。

確かにニッチツの防衛策は特定の買収者を排除する立て付けにはなっていないが、防衛策導入の1カ月ほど前から、特定の投資家による買い集め行為が行われていた。9月末に、東京都内の個人投資家がニッチツ株を5%超を取得したことが判明し、10月20日時点では保有比率は17%強にまで達した。

個人投資家は信用取引などを使い、1カ月程度で数億円のニッチツ株を買い上げている。一般的な防衛策は20%を超えた買い集めを発動条件にしており、脅威が迫った状況だ。ニッチツがこうした買い集めを意識しなかったとは考えにくく、防衛策は「有事型」を採用する方が当時の状況にあっていたといえる。

市場から見れば、2つの防衛策の違いは大きい。平時型は、普及が進んだあと、経営の緊張感をそぐとの理由で批判を受け、廃止が進んできた。有事型にも正当性を欠く事例では異論も出ているが、導入を総会で諮る場合に議決権行使助言会社による賛成推奨を得ることが少なくない。

市場から見れば2つの防衛策(有事型と平時型)の違いは大きいとありますが、そんなに大きくはないです。2つの防衛策(正確には防衛策は有事型のほうであり、平時型は防衛策ではないのですが)の違いは、その導入のタイミングと特定の相手をターゲットにしているかどうかです。たしかにニッチツの防衛策は特定の投資家が買い進んでいる状況で導入されたものであり、有事型に近いと言えます。フリージア・マクロスのターゲットになった日邦産業と同じようなタイミングで導入したんでしょうね。ちなみに日邦産業も平時型です。ただ、特定の投資家が登場した際に平時型買収防衛策を導入するのは、なにも最近始まったことではありません。平時型買収防衛策が導入され始めた初期のころからよくあった話です。

今回私が問題提起したいのは、有事型と平時型に対する機関投資家のスタンスです。例えばですが、東芝機械が旧村上ファンドに対して有事型で対抗したとき、ある国内の機関投資家は発動に対して反対票を投じました。しかしISSやグラスルイスなどの議決権行使助言会社は発動議案に賛成を推奨し、ブラックロックといった海外の機関投資家は発動に賛成しました。※ブラックロックがISSなどの推奨をもとに判断したのか、独自に判断したのかはわかりません。ただ、ブラックロックはきちんと買収防衛策を説明したら、平時型であっても賛成してくれる可能性のある非常に合理的な投資家です。

そしてシンガポールの投資家アスリードに敵対的TOBを仕掛けられた富士興産も有事型で対抗したのですが、このとき東芝機械の発動議案に反対したある国内の機関投資家は発動議案に賛成しました。なんで東芝機械のときは反対したのに、富士興産のときは賛成したのでしょうか?よくわかりませんが、助言会社や海外の機関投資家の議決権行使行動を見て、部分的買収であったり、買収後の経営方針を明確にしない買収提案であったりする場合は発動に賛成したほうがよいと考え方がかわったのでしょうね。

ここでよく考えていただきたいことがあります。ではなぜ助言会社や国内の機関投資家は有事型の発動に賛成しておきながら、平時型の導入には反対するのでしょうか?有事型の仕組みは平時型がベースとなっており、それをちょこっとカスタマイズした内容に過ぎないため、仕組みに違いがあるからという理由ではないはずです。おそらくですが、有事型については、買収者が誰なのか、属性は、買収目的は、買収条件は、という詳細内容がわかっており、有事のときに限って買収防衛策を発動してよいかどうかを確認するというものだから、という理由なんでしょうね。

そして平時型に反対するのは、ずーっと買収防衛策が導入された状態が継続していること、相手がだれであっても発動する可能性があること、買収防衛策があると買収提案がされにくい可能性があること(高値で売却できる機会が失われる)、などではないでしょうかね?だとすると、おかしいんですよ。買収防衛策が普段から常備されているからと言って、なにが問題なのでしょうか?「買収防衛策を常備していると経営の緊張感がなくなる」とおっしゃる方がいますし、日経の記事でもそう指摘していますが、なぜ有事型だと緊張感がなくならないのでしょうか?

上場会社の経営者が平時型をやめたとして、何を考えるかというと「いざとなれば有事型で対抗すればいいんだろ?」ということです。これって経営の緊張感がなくならないのでしょうか?買収防衛策が経営の緊張感をなくすというのなら、これだけ有事型が発動され、SBIというストラテジック・バイヤーによる新生銀行へのまっとうなTOBですら助言会社が「発動してよし」という推奨をする状況において、経営者は「買収者がアクティビストじゃなくても発動にOKしてくれるんだろ?じゃあ平時型じゃなくて有事型を発動すりゃいいじゃん」と考えます。経営の緊張感などなくなりますよ。

平時型買収防衛策があると買収提案がされにくいってのもおかしな話です。これも一緒ですよね。買収防衛策があると買収提案されにくいのであれば買収者は「有事型を発動されるにきまっているから買収提案をするのはやめておこう」って考えるでしょ?

平時型買収防衛策の目的は買収提案を検討するための情報と時間を確保することです。そして買収防衛策を発動するに当たっても、仕組み上、独立委員会の判断をもとに発動する場合があるものの、実際には株主総会の意思を確認したうえで発動することが多いです。つまり、発動するに当たっても有事型と同じ手続きを踏みます。まったく同じ手続きですよ。

買収防衛策は有事型がよくて、平時型はダメなんてのは理屈がとおらないんですよ。そもそも、なんで平時からきちんと準備して仕組みを開示している平時型がダメで、有事になったら突如として導入される有事型のほうがいいんですか?まったく理解できません。買収提案がなされ「●●円で買ってもらえるのか?市場で買ってTOBに応募してサヤを稼ごう」という投資家もいます。こういう投資家は突如として有事型が公表されると、株価に悪影響がおよび、損をする可能性があります。突如として有事型が導入されるんですから、たまったもんじゃありませんよ。有事型は投資家にとって予見可能性がないという意味で、最悪の買収防衛策とも言えますよね?

平時型買収防衛策は平時のうちにその仕組みをプレスリリースで開示し、株主総会にはかった上で導入しています。平時のうちからです。一方、有事型は買収提案があったら突如として導入されます。どこをどう見たら平時型より有事型のほうがいいと言えるんですか?どうして平時型に反対するのに有事型に賛成するんですか?機関投資家はきちんとその理屈を説明すべきです。

私の考え方が間違っているとおっしゃる機関投資家の方や助言会社の方、マスコミの方がいらしたら、ぜひご意見をいただけると幸いです。もしご意見をいただけたら、私の考え方をきちんと説明します。もちろんお名前をあかすことはいたしません。

今後買収防衛策を導入・継続する予定の会社のみなさま、機関投資家を訪問する際においては、ぜひこれまでの有事型に対する議決権行使結果を確認してからにしてください。そして、有事型に賛成した機関投資家である場合、なぜ平時型に反対して有事型に賛成なのかをきちんとつめてください。納得がいかない場合はとことん議論してください。そして、その内容を場合によっては世間に公表してください。

 

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