No.1216 (無料公開)じゃあ議決権行使助言会社と機関投資家はこういう場合にどう議決権行使をするのでしょうか?
ISSやグラスルイスなどの議決権行使助言会社は、平時型買収防衛策の導入・継続議案に対して100%と言ってよいほど反対の推奨をします。そして国内の機関投資家も最近ではほぼ反対しています。
しかし、2020年に起きた旧村上ファンドによる東芝機械への敵対的TOBに対して、東芝機械は有事型買収防衛策を発動することで対抗した結果、ISSやグラスルイスは発動議案に対して賛成を推奨しました。しかし、ある国内の機関投資家は発動議案に反対しました。
2021年に起きたアスリードによる富士興産への敵対的TOBに対して、冨士興産は有事型買収防衛策を発動することで対抗した結果、裁判所は差し止め請求を却下しました。この議案に対する議決権行使助言会社の推奨内容はわかりません。しかし東芝機械の発動議案に反対したある国内の機関投資家はこの発動議案には賛成したようです。
さて、ここで気になることがあります。ここ最近の有事型買収防衛策に対して、ISSやグラスルイスは賛成推奨することが多いのですが、冒頭で申し上げたとおり、議決権行使助言会社は平時型買収防衛策の導入・継続議案には反対推奨をします。では、自分たちが反対推奨した平時型買収防衛策導入企業に対して、東芝機械に対する買収条件と同じ条件で買収提案がなされ、当該企業が平時型買収防衛策のルールに基づき、臨時株主総会を開催したうえで買収防衛策を発動するとなった場合、議決権行使助言会社はどういう推奨をするのでしょうか?
当該企業は平時に導入された買収防衛策のルールにのっとって買収防衛策発動議案を臨時株主総会にかけるのです。そしてこの平時型の買収防衛策の導入議案に対しては、議決権行使助言会社は反対推奨しているのです。自分たちが反対推奨した平時型買収防衛策のルールにのっとって発動されようとしている議案に対して、賛成推奨するのでしょうか?でも、買収条件は、例えば部分的買収で買収後の経営方針も明示されていなかったり、TOB価格が本源的価値に比べて安い価格であったり、株主にとっては不利な内容です。東芝機械に対するTOB条件と同じ内容であった場合、東芝機械では発動議案に賛成推奨をしたのだから、当然、当該企業の発動議案に対しても賛成推奨すべきでしょう?
でも、もとになっているのは自分たちが反対推奨した平時型買収防衛策なのです。自分たちが反対した平時型買収防衛策のルールにのっとって発動されようとしているのです。導入時・継続時の株主総会で反対推奨をしておきながら、いざ有事になったら発動議案には賛成推奨をするのってヘンじゃないですか?
機関投資家も同じですよ。平時型買収防衛策には反対しておきながら、いざ当該企業に株主にとって不利な買収提案がなされた場合は発動議案には賛成するんですか?おかしいでしょう?
覚えている方もいらっしゃると思いますが、東芝機械は2019年6月総会まで平時型買収防衛策を導入していましたが、廃止しました。そして2020年1月に旧村上ファンドに敵対的TOBを打診されたら、有事型で対抗しました。これ、仮に東芝機械が平時型買収防衛策を継続していたら?現実に、平時型買収防衛策の継続に反対推奨しておきながら、発動時には発動議案には賛成推奨するという事例が起きえたということです。
これ、やっぱりヘンなんですよ。平時型買収防衛策には反対なのに、有事型買収防衛策の発動議案には賛成するのって理屈がとおらないですよ。議決権行使助言会社や国内機関投資家は、自分たちが反対した平時型買収防衛策の導入企業に対して買収提案がなされた場合、買収条件が株主にとって不利な場合、本当に発動議案に対してどう議決権行使をするつもりなのでしょうか?おおもとのルールの導入に反対しておきながら、いざとなったら発動には賛成しますってどう考えても理屈がおかしいですよ。
海外の機関投資家は今でも平時型買収防衛策の導入・継続議案に賛成してくれる場合もあるそうです。そりゃそうでしょう。だって買収提案があった場合には情報と時間をくださいというルールを定めただけのものであり、現に日本はまだまだ株主にとって不利な買収提案がなされる時代なのです。本来、株主にとって不利な買収提案であれば、TOBに応募せず成立させなければよいのですが、囚人のジレンマですね。自分はTOB価格が安いと思っているけど、ほかの人たちが応募してしまい成立してしまうと、自分が売却する機会を失ってしまうから応募してしまおうと考えてしまいます。ある意味、日本の株主は成熟していないとも言えます。だからこそ、買収防衛策と呼ばれてしまっている平時型の事前警告ルールが必要なのです。
来年の買収防衛策更新時期までに、どうか議決権行使助言会社と機関投資家の皆さんには平時型買収防衛策に対するスタンスを変えていただけないでしょうか?一部の国内機関投資家は、自分たちが有事型の発動議案に対して賛成した結果、平時型買収防衛策に対するスタンスと整合性が取れていないことに気づきましたよね?
これまでのスタンスとの矛盾はあまり気にしなくていいと思います。単に「日本も本格的な敵対的買収時代を迎える。これから、一般株主にとって不利な条件の買収も横行する可能性がある。有事において情報と時間を確保することは必要と判断し、平時型買収防衛策の導入に賛成することにした」でどうでしょうか?
そして、ちゃんと賛成するための条件をつければいいんですよ。その条件はいずれまとめます。