2021年12月23日

No.1215 (無料公開)本当に買収防衛策は株価に悪影響を与えるのか?

答えその①:買収防衛策を導入したら株価が下がる。

答えその②:平時型事前警告ルールの導入が株価に与える影響はわからない。

私が何を言いたいかはみなさんもうおわかりですね?有事型買収防衛策の導入を公表したら株価は下がりますが、平時型買収防衛策の導入や継続を公表しても株価が下がるかどうかはわからないということです。

有事導入型買収防衛策を公表したら、間違いなく株価が下がります。上がる要素がありませんから。じゃあ、実例を見てみましょうか?

まず東芝機械です。東芝機械は旧村上ファンドからTOB提案があったことと有事型買収防衛策の導入を2020年1月17日に公表しました。TOB価格は3,456円でした。1月17日の終値は3,115円でしたが、翌営業日1月20日の株価は、始値3,465円、高値3,760円、安値3,400円、終値3,705円でした。うーん、これはTOB提案があったことと有事型の導入が同時だったので、いまいちわかりにくいですね。

では、富士興産を見てみましょう。アスリードのTOBが開始されたのは2021年4月28日で、TOB価格は1,250円でした。4月27日の株価終値1,111円に対して、4月28日は始値1,321円、高値1,368円、安値1,274円、終値1,290円でした。そして富士興産は5月24日に有事型買収防衛策で対抗すると公表しました。5月24日の終値1,286円に対して、5月25日は始値1,269円、高値1,269円、安値1,213円、終値1,245円です。下がってますね。

そして次は東京機械製作所です。アジアインベストメントファンドが大量保有報告書を提出したのが7月20日です。そして東京機械製作所は8月6日に有事型買収防衛策で対抗すると公表しました。8月6日の終値1,152円に対して、翌営業日の8月10日は始値1,179円、高値1,208円、安値1,142円、終値1,169円です。下がってませんね(笑) 推測ですが、東京機械製作所のMoM要件による発動が「そんなの認められないだろ?」と見なされたり、「もう30%以上買われてるんだから発動はムリだろ?」と見なされていたりしたから、株価が下がらなかったのかもしれません。それにアジアインベストメントファンドの買い増しが継続していましたので、買収者の買いによって株価が支えられていた可能性があります。

では次、新生銀行。SBIが新生銀行へのTOBを公表したのは9月9日でTOB価格は2,000円です。9月9日の終値は1,440円に対して、9月10日はストップ高、9月13日は始値2,010円、高値2,030円、安値1,946円、終値1,966円でした。そして新生銀行が買収防衛策の発動を公表したのは9月17日なのですが、日経が9月14日に買収防衛策での対抗を報道しています。9月14日の終値1,956円に対して、9月15日は始値1,936円、高値1,944円、安値1,881円、終値1,890円となっています。日経も以下のとおり報じています。

https://www.nikkei.com/article/DGXZASFL15HEN_V10C21A9000000/

東京機械製作所は市場での大量取得行為が続いていたため、有事型を公表しても株価が下がりにくかった状況と言えます(下がったらアジアインベストメントファンドが買うから下がりにくい)。でも、東京機械製作所以外は下がってますね。そりゃ、当然ですよね。投資家は有事型買収防衛策での対抗なんて予想していなかったでしょう。特に新生銀行のケースにおいては。まさか相手がSBIというストラテジック・バイヤーに対して買収防衛策を発動するなんて予想していませんでした。

一方で平時型買収防衛策が株価に与える影響はどうでしょうか?以下のコラムをご覧ください。有料コラムでしたが、無料で公開します。

https://ib-consulting.jp/column/3819/

私は「平時型買収防衛策は株価に悪影響をおよぼさない」とは言いません。というか、言えないのです。なぜなら平時型買収防衛策と株価の関係性を論じるためのデータがないからです。多くの企業は買収防衛策の導入や継続を決算発表と同じタイミングで公表しています。単独で公表するケースもありますが、数が少ないです。データがない以上、平時型を導入しても株価を心配する必要はない、とは言えません。あくまで「平時型買収防衛策と株価の関係性はわからない」としか言えないのです。

平時型買収防衛策をどうしても悪者に仕立て上げたい方々は、いろんなデータを駆使して「平時型買収防衛策を導入している企業の株価パフォーマンスはよくない」と言います。でも、誰もそんなのわからないんですよ。

それと有事型買収防衛策と株価の関係性ですが、まだ数が少ないので本当はわからないとは思います。ただ、当然、買収提案があったから株価が上がったのであり、買収提案の実現を阻止するための有事型買収防衛策の導入を公表したら株価は下がるでしょうね。

ですから、買収提案の実現を阻止するための買収防衛策=有事型買収防衛策、を導入したら株価が下がって当然であり、一方で買収提案に関する情報と時間を確保するための事前警告型ルール=平時型買収防衛策、の導入・継続が株価に与える影響はデータがないからわからないのです。

機関投資家の皆さん、そろそろ方針を変えて平時型買収防衛策についても賛成すべきだと思います。平時型買収防衛策を悪者にするのはもうやめていただきたい。有事型に賛成して平時型に反対する理屈がありません。

 

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