2017年07月03日

No.120 黒田電気への株主提案は賛成率58.64% 野村ホールディングスの社外取締役選任議案

■黒田電気への株主提案は賛成率58.64%

 レノなどの村上ファンドグループに38%もの株式を取得されたのですから、当然の結果でしょう。逆に会社側の役員選任議案が否決されなかっただけでもラッキーと言えます。

 黒田電気といい、川崎汽船といい、どうしてこういう状態になってしまうのでしょうか?ソレキアもそうです。3社に共通しているのは、買収防衛策がなかったという点ですね。買収防衛策があれば、20%というトリガーを超えて買われることはほとんどありません。目をつけられる前から買収防衛策を導入している場合は特に。一定程度買われてから買収防衛策を導入した場合、稀にですがトリガーを超えて買ってくることがあります。セゾン情報システムズのケースです。でもセゾン情報のケースだって、すんなりと買えた訳ではありません。

 このご時世で買収防衛策を継続・導入することは、世の中から批判されるのではないか?たぶん、批判されます。でも、日経新聞の記者から「どうして買収防衛策を継続(導入)するのですか?投資家はみんな批判していますよ」と聞かれたら、

・買収防衛策なんてダメでしょ?そりゃあ批判されるよ。だって買収を防衛するための施策を導入するなんて経営者としてあるまじき行為です。

・誤解していませんか?当社が継続(導入)するのは買収提案を吟味するための時間と情報を確保するためのルールですよ。プレスの表題に入れているのは東証の指導であって、当社は買収防衛策を導入している意識などみじんもありません。

・冷静に考えてみてください。今の世の中では、時間と情報を与えられない買収提案がたくさん起きていますよ。いまこそ事前警告型ルールをきちんと整備すべき時代なのです。

と説明してみてください。日経の記者に積極的に説明することをおすすめします。

 買収防衛策に加えて、株主構成を再度見つめなおしてみてはいかがでしょうか?黒田電気や川崎汽船に比べて、貴社の株主構成はどうなっていますか?法人株主はまだたくさんいますか?売りたいと言ってきていませんか?時価総額はどうなっていますか?外国人株主率はどうでしょうか?

 貴社の株主構成は、近い将来、川崎汽船や黒田電気の株主構成になるリスクはありませんか?そうならないようにするためにはけっこう難しいです。

■野村ホールディングスの社外取締役選任議案

 野村の監査法人出身である社外取締役候補者の園マリ氏について、ISSが反対推奨していましたが、賛成率79.5%で可決されました。     

 上位大株主は外国人と信託銀行なので掲載を割愛します。野村の株主構成の特徴は外国人株主比率と個人株主比率が高いことです。つまり、安定株主はほとんどいません。ですから、ISSが議案に反対推奨すると、本当に議案が否決されるリスクがあります。そういう意味では、黒田電気の株主構成と似ていますし、同じようなリスクを抱えていると言えます。しかし、野村の社外取締役は賛成率79.5%で可決されました。黒田電気との違いはなんでしょうか? 一つは、黒田電気は村上ファンドグループというある意味一人の株主が38%もの株式を握っていましたが、野村の場合、外国人という一塊の株主が37%いるものの、中身は分散しています。ISSの推奨に従う人もいれば、従わない人もいます。そして、野村の株主構成の最大の特徴は個人株主比率が高いことです。個人株主は議決権を行使しないか、しても白紙です。私、今年の野村の議決権を行使するのを忘れていました。もちろん、白紙で送るつもりでしたよ。※黒田電気の個人株主比率は一見高いですが、中身は村上さんのお嬢さんなどの村上グループです。

 株主総会において議案を通すという観点では、個人株主比率が高い方が有利です。一方で、敵対的TOBなどの局面では、必ずしも個人株主比率が高いことが有利になる訳ではありません。ソレキアのケースですね。個人株主は株価が高くなったら売る株主です。持ち合い解消の受け皿として個人株主が人気ですが、正確なメリット・デメリットを抑える必要があります。なぜ皆さん、持ち合い解消の受け皿として個人株主に期待しているかと言うと、たぶん「ファンになってもらえるから」ではないかと考えます。個人株主をファンとして戦い抜いたのは、有名なブルドックソースのケースです。ブルドックソースは防衛策を発動したケースとして有名ですが、実は個人株主が敵対的買収時においても売らなかったケースなのです。実はここがポイントです。

ブルドックソースの場合、個人株主がファン株主として機能し、スティールパートナーズの敵対的TOBにほとんど誰も応募しませんでした。ブルドックソースはまれに見る成功事例です。皆さん、ブルドックソースのケースをうらやましいと考えるかもしれませんが、かなり難しいとお考えください。あのとき、スティールパートナーズはメディア戦略において大失敗しました。スティールパートナーズの代表であったウォーレン・リヒテンシュタインは「日本人を教育してやる」と豪語しました。そして日本中から嫌われ、みんながブルドックソースを応援しました。そしてリヒテンシュタインは当時のブルドックソース社長に対して「私はソースが嫌いだ!」と言い放ちました。そしてまた日本中から嫌われました。ソースのことを知らない株主、ましてや嫌いな株主に経営権を取らせてよいのか?という世論になりました。

 個人株主をファンにすることは不可能ではないのですが、会社や社長のキャラクターも大いに影響しますし、国内世論の動向なども影響してきますから非常に難しいのです。

 

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