2022年07月19日

No.1352 買収防衛策は経営者の保身ではない。だって買収防衛策じゃないから

買収防衛策を経営者の保身だという方がいますが、寝言は寝てから言っていただきたい。もちろん買収提案の実現を阻害することが主目的ではいけませんが、少なくとも平時型買収防衛策は買収防衛策ではありません。私は「買収防衛策を導入したら経営者仲間が称賛してくれる」と考えています。

本音ではみんな「買収防衛策を継続したい」と思っているからです。以下、買収防衛策を廃止した主な会社です。どうです?みんなエクセレントカンパニーでしょ?

昔から買収防衛策を導入したり、チェックしていたりした方はよくご存じだと思うのですが、このような会社がかつては買収防衛策を導入していたんですよ。けっこう皆さん「買収防衛策って規模の小さい会社が導入するものじゃないの?」と思いがちですが、実は違うのです。

三菱グループを代表する三菱地所と日本郵船。鉄は国家なりの日本製鉄。島忠に敵対的TOBを仕掛けたニトリ。パナソニック、信越化学、富士フイルム、アサヒビール。エーザイなんてつい先日まで導入していたんですよ。しかも取締役会決議で。三菱地所や日本製鉄だって2019年まで導入していました。つい最近まで導入していたんですよ、これらのエクセレントカンパニーは。これらの会社の経営者が保身を考える経営者だと思いますか?マスコミやアクティビストは日本の経営者を十把一絡げで「日本の経営者は!」と批判しますが、少なくとも日本の経営者は保身を考えません。買収防衛策を導入するのはあくまで会社のことを考えて、です。特に従業員のことを大切に考えているからでしょうね。

一方、以下の会社は買収防衛策を継続しています。どうです?こちらもエクセレントカンパニーばかりでしょ?有名な会社ばかりですよ。

今買収防衛策を導入している会社は減っています。でもこれらの会社はまだ継続しています。なぜでしょうか?それは「平時型買収防衛策は買収防衛策ではないから」と考えているからです。機関投資家の考え方が間違っていると考えているからです。そのような間違った考え方に迎合することはできないと誇りをもって機関投資家と戦っている会社なのです。

ただ一方でこれらの会社は非常に不安に思っています。なぜなら「味方がドンドン減っているから」です。今もし買収防衛策を導入していない会社や廃止した会社が導入した場合、これらの会社は貴社の判断を称賛するでしょう。「よくぞこの時代に決断してくれた」「見事な経営判断」と。一方廃止した会社はどう言うでしょうか?

おそらく「うらやましい」と言います。廃止した会社が好きこのんで廃止したと思いますか?みんなイヤイヤ廃止したんですよ。継続したかったんです。でも「機関投資家に反対されて議案が否決される可能性が高まった」からやむなく廃止したのです。継続できる株主構成なら間違いなく継続しています。

「そんなのオマエの想像だろ?」とおっしゃる方がいるかもしれませんが、違います。私は買収防衛策を廃止した会社とも議論をしています。導入する際のお手伝いもしています。これは私の想像ではなく、廃止した会社の発言なのです。「継続できるなら継続したい」これが本音なのですよ。

これが買収防衛策を取り巻く現実なのです。買収防衛策を批判しているのって誰ですか?マスコミとアクティビストだけですよ。よく考えてみてください。マスコミは今買収防衛策を批判することが流行っているから批判しているのです。株主利益至上主義が行き過ぎだと批判されるようになれば、きっと手のひらを返して「ステークホルダーの利益を守るための買収防衛策を改めて議論すべきではないか」という論陣を張るでしょう。アクティビストが買収防衛策に反対するのは当たり前です。短期での利ザヤ獲得を阻害されるおそれがあるのですから。

買収防衛策を取り巻く声に惑わされず、貴社の中長期的な企業価値を守るためには何をしなくてはならないかを冷静に考える必要があります。買収防衛策を導入している会社は保身など考えていません。「会社を守るため」に買収防衛策と呼ばれてしまっている事前警告型ルールを導入しているのです。

 

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