2016年12月13日

No.34 再び踊る買収ファンド など2コラム

■再び踊る買収ファンド

 少し前ですが、2016年12月3日(土)の日経記事です。米国の大手買収ファンドコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)による日産自動車傘下のカルソニックカンセイへのTOBについて触れています。買収総額は4983億円でファンドによる日本企業買収で最大だそうです。

 KKRというと皆さん何を思い出すでしょうか?ブラックストーンやカーライルと並ぶ、世界3大プライベートエクイティファンドです。1976年にジェローム・コールバーグ・ジュニア、ヘンリー・クラビス、ジョージ・ロバーツの3人によって設立されたそうです。「別に敵対的買収とは関係ないファンドだよね」とお考えの方も多いと思います。

もう忘れている方も多いのではないでしょうか?KKRは「野蛮な来訪者」ですね。原題は「Barbarians at the Gates」です。1989年、全米有数の大企業である食品・タバコメーカーのRJRナビスコを、LBOを用いて250億ドルで買収しました。この金額は、現在もなお、LBOを使用した案件では最大のものだそうです。これによって、KKRの名前は世界に広がることとなりました(ウィキペディアより抜粋)。ちなみにこれは敵対的買収でした。

12月3日の記事は、「日本で敵対的買収が増える」「アクティビストファンドの動きが活発化する」という内容ではありません。KKRはRJRナビスコのケース以降、敵対的買収は行っていないと思います。この記事の最後に「音楽がいつ止まるかは誰にも分からないが、ファンドがダンスを踊っているうちは日本株の割安修正が続くのだろう」とあります。ダンスを踊るファンドはこのようなPEファンドだけではありません。もっと激しいダンスを踊るファンドもいます。

いつも取り上げているエフィッシモもそうですが、バリュー系の投資家も踊りだすのではないでしょうか?日本企業に対する敵対的買収が本格化したのは、10年ほど前です。10年ほど前にスティールパートナーズが活発に投資していました。その後、日本からはほぼ撤退しました。10年経ちました。TCI(ザ・チルドレンズ・インベストメント・ファンド)という投資ファンドもいました。電源開発の株式を9.9%取得し、株主提案をしました。JTの株式を取得し、株主提案しました。JTのケースは10年前ではありません。けっこう最近の話です。

 今年の株主総会で、RMBキャピタルという米国の投資ファンドがオプトホールディングスという会社の「監査等委員会設置会社」への移行議案に反対を表明しました。指名・報酬委員会を設置していないことなどを理由に「コーポレートガバナンスの改善方策としては不十分」としています。

 会社が目指すガバナンスに対して投資家は不満を表明しているということです。自社の株主構成に見合ったガバナンスにしないと投資家は納得してくれません。自社の株主構成上、「誰が主役なのか?」と見極めないと、いろんな提案をされる時代です。

■企業の現金 成長に活用を(12月4日 日曜に考える)

 これも少し前ですが、2016年12月4日(日)に「日曜に考える 企業の現金 成長に活用を」という記事がありました。よくある内容です。「そんなことは言われなくてもわかってる!そんな簡単に成長投資案件が見つかったら苦労せんわ!」と考える経営者も多いのではないでしょうか。

 記事によると、「10月末時点で、時価総額が現金と有価証券残高の合計を下回る上場企業(金融を除く)は532社、約15%にのぼっている。」とのことです。

 これは確かに問題ですね。さすがに、現金と有価証券の合計金額よりも時価総額が下というのは異常事態です。

 ここから先の話は、自信をもって書いている訳ではありませんし、異論・反論があればぜひご指摘いただきたいです。この記事に「潤沢に資金を抱える理由として、いざというときの備えを挙げる企業が多い」とあります。もしこの理由のために現預金をためている企業がいらっしゃるとしたら、この「いざというとき」とはどんなときなのでしょうか?もしこれが「銀行が金を貸さなくなってどこにも頼れないとき」だとしたら、それはちょっと理屈にならないのではないでしょうか。

 この状況は「いざというとき」ではなく、「もうダメなとき」ではないかと思います。銀行も「いざというとき=もうダメなとき」と考えれば、当然お金を貸してはくれません。そして、もうダメなとき、はいくら現預金をたくさん持っていたとしても、そんなに長生きはできないでしょう。でも「いざというとき」をもっと違う状況として考えているのであれば、当然、銀行もお金を貸してくれるはずです。そして、そんなに現預金をため込む必要はないはずです。

 この記事では「成長投資」について触れていますが、成長投資の機会を見つけるのはけっこう厳しいです。またこの記事では自社株買いについて触れていません。ROEの議論になると、だいたい「分母を減らしてROEは上げるのはどうなんだろうか?」とおっしゃる方がいらっしゃいます。私は「おおいに結構」と思います。

 機関投資家が見ているのは、利益の絶対額ではなく、やはりEPSだと思います。EPSをいかに成長させていくか、そのために設備投資やM&Aをしていくのか、そういう機会がないのであれば自社株買いもやっていくのか。

 機関投資家は、そういう説明を求めています。日本企業は経営計画でEPS成長について触れている企業は少ないのではないでしょうか。来年度の経営計画を策定・公表するに当たって、EPS成長について触れていくことが重要ではないかと考えます。

 

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