2017年10月24日

No.194 東芝半導体売却5 一蹴された「プランB」

10月21日(土)の日経2面の下の方にある記事です。記事の主な内容は以下のとおりです。

「支援の前提が崩れる。いまさら売却しないなんて選択肢はあり得ない」。東芝メモリの売却交渉が暗礁に乗り上げた8月上旬。東芝の意向も踏まえ、野村証券が献策した「プランB」が主要行を駆けめぐった。今年4月に切り出したばかりの東芝メモリを本体に戻し、投資ファンドなどに1兆円の転換型優先株を割り当てる。優先株は数年内に公募増資や銀行借り入れで買い入れ消却するか普通株に転換する案だ。まとまった資金で債務超過を解消できれば、上場廃止を避けられるうえ好況の半導体ビジネスを温存できる。膠着打開を狙ったウルトラCだ。そんな楽観論を吹き飛ばしたのが銀行団だ。「融資の返済は東芝メモリの売却金を充てる約束ではないか」。計6800億円の融資枠を設定する主要行は想定外の奇策に反発。「そもそも(大規模な増資は)株式価値の希薄化が著しく、株主総会で承認される見込みも薄い」との疑念が噴き出した。融資枠をふさがれると深刻な信用危機の引き金になりかねない。東芝に突きつけられた最後通牒(つうちょう)だった。

 このような状況に陥った東芝に対して、おそらく証券会社の出る幕はないのでしょう。野村證券が献策したプランBの詳細内容はよくわかりませんが、東芝メモリを本体に戻す案については賛成ですね。しかし、現在の東芝本体に金を出す投資家が本当にいるのかどうかは疑問です。当然、実質銀行の管理下に置かれているような状況の東芝ですから、野村證券がいくら提案しようとムダでしょう。

 現在の東芝に提案すべきことは資金調達の案なのでしょうか?私は違うのではないかと思います。現在の東芝に対して提案すべきことは、財務戦略ではなく、経営戦略ではないでしょうか?しかも経営の中核となる人事戦略ではないかと思います。以下、経営の素人が申し上げることなので、暇つぶし程度に読んでいただければと思います。なお、私の東芝に関する知識は「『もう、きみには頼まない―石坂泰三の世界』(城山三郎著)」程度ですので、何卒ご容赦ください。

 東芝はかつても苦境に陥ったことがあります。まず、以下です。ネットの情報です。

戦前の東芝は日本最大の総合電機メーカーであった。戦時中に政府や軍部からの要請を請けて膨張を続け、一時期は10万名を越す従業員を擁した。しかし戦後はGHQの財閥解体政策のために、膨張した事業が切り離されて、従業員の数は2万8千名にまで激減してしまった。しかも時代背景の変化もあって、共産党が指導する労働組合と経営側との紛争は泥沼化し、収拾するのが不可能に見えた。労働組合の力は強く、倒産は時間の問題とまで言われて、誰も再建を引き受けようとはしなかった。そんな状況であえて1949(昭和24)年4月5日、東芝に乗り込んだ泰三は社長就任にあたって、再建のための重要優先事項として以下の4項目を掲げた。

三井銀行頭取の佐藤喜一郎氏の仲介で、東京芝浦電気(東芝)を再建してほしいという話が石坂泰三氏に持ち込まれました。石坂泰三氏は、ご存じのとおり、東芝の方ではありません。もともと逓信省に入省し、その後、第一生命の社長をつとめた方ですね。

そして次に登場するのは土光さんです。以下「私の履歴書」からです。

昭和40年(1965年)5月、私は、石坂泰三氏(当時、東京芝浦電気会長)の懇請を受けて、東京芝浦電気の社長に“就かされ”た。与えられた責務は、減配続きの東芝立て直しである。日ごろ尊敬している石坂さんの頼みではあり、石川島と東芝とは昔から協力関係にあって、私も長い間、東芝の非常勤役員をしていた関係上、経営のピンチを他社ごととは思えず、お引き受けした次第である。しかし、この人事は、まだ正式に話が煮つまらない段階で新聞に発表され、多少、トラブルめいたことがあった。つまり、石坂さんが前任の岩下文雄社長と十分に話し合わない内に、新聞に書かれたのである。そのため、世間でいろいろ取り沙汰(ざた)されたが、結局は円満に運んだ。が、私にとっては、正式な要請から内定するまでに1週間の余裕しかなく、その短期間にあわてて、方策を考えた。

 なにしろ、東芝は、資本金も従業員数も石川島の3倍くらいはある。その大所帯が病気にかかっているわけだから、病根を探すにしてもたいへんだ。原因はどこにあるか、対策はどう見付けるか。種種調べてみた。その調査の結果、大きく安心することが一つあった。会社が擁している人材の優秀さである。これだけ有能な人間を抱えておれば、その活用さえはかれば、必ず再建できる、まず大丈夫とふんだ。

 労働組合との紛争の際には石坂泰三氏が再建し、減配続きの立て直しのときは土光敏夫氏が再建した。石坂泰三氏は第一生命出身、そして、土光敏夫氏は石川島播磨重工業出身です。いずれも外部の方です。

 東芝に関連する金融機関は、自社の利益を守ることに今は主眼を置いているのではないでしょうか。まあ、当たり前と言われれば当たり前です。しかしながら、東芝の10年、20年先のことを考えたら、果たして今の再建策がよいのかどうかの議論が本当になされているのでしょうか。中長期的な東芝の利益を考えたら、金融機関が提案すべきは「プランB」などという金融機関自身を利するための提案などではなく、抜本的なコーポレート・ガバナンス体制の見直しを提案し、相応しい人材を紹介することではないかと考えます。金融機関の短期的利益の確保にはそぐわないかもしれませんが、抜本的なガバナンス体制の見直しこそが東芝を立て直す道ではないか、と。

以前であれば上記のように、銀行が石坂泰三氏を引っ張ってきたりしたのでしょう。今回、銀行は東芝に対する債権の保全を考えると、自由に動けないのかもしれません。証券会社ならしがらみもないでしょうし、何より保全すべき債権もありません。「銀行にビジネスを全部取られてなるものか!」ではなく、もっと大所高所からの提案をすればよいのに・・・。

 

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