2017年02月16日

No.58 敵対的TOBに対する個人投資家の誤解など2コラム

■敵対的TOBに対する個人投資家の誤解

以下、株価掲示板から抜粋です。

会社側の対応策は以下の5つ

・TOBに賛同表明して軍門に下る

・2800円以上で買い取り宣言して宣戦布告

・第三者割当で新株大量に発行してベジ氏を水攻め

・ベジ氏の持ち株を言い値で引き取る

・配当金を大幅に増額表明しベジ氏への譲渡を躊躇させる

どちらにしても、はやく会社としてのスタンスを表明してほしい。

 現在、佐々木ベジ氏が敵対的TOBを実施しているソレキアのヤフー掲示板における個人投資家さんのコメントです。個人投資家さんが佐々木ベジ氏のTOBに対して、ソレキアが取り得る対応策を示しています。正しい内容もありますが、TOB制度をきちんと理解していないが故の誤解もあります。

 まず、「TOBに賛同表明して軍門にくだる」ですが、これは対応としてあり得ます。ただし、今回のTOBは佐々木ベジ氏もおっしゃっているとおり、過半数を取得することが目的ではないので、正確には「軍門に下る」という表現は正しくないです。

次に「2,800円で買取宣言して宣戦布告」ですが、これはちょっと意味がわかりません。誰が買い取るのでしょうか?創業者がMBOを目的としてカウンターTOBをかけるということであれば、あり得ます。もしかしたら、ソレキア自身による自己株取得を想定しているのであれば、理論的にはあり得なくないですが、理屈が立たないと思います。時価以上の価格で自己株取得を行うことは、あまり理屈が立たないでしょう。

「第三者割当で新株大量に発行してベジ氏を水攻め」・・・あり得ます。しかし、まともなアドバイザーがついていれば、敵対的TOBを仕掛けられてから第三者割当増資で対抗しましょうなどというアドバイスはしません。ほぼ確実に発行差止めされます。

「ベジ氏の持ち分を言い値で引き取る」 おそらく誤解しているのでしょうが、TOBは実施した以上、基本的に取り下げることはできません。ベジ氏の持分を引き取りますよ、と言ったところでTOBを中止できません。

 「配当金を大幅に増額表明しベジ氏への譲渡を躊躇させる」 これはあり得ますし、おそらくソレキアもこの方法で対抗するのではないかと思います。あとはいくらに配当を増額させるかではないでしょうか?

 最後に「どちらにしても、はやく会社としてのスタンスを表明してほしい」とつぶやいています。残念ながら、会社としてのTOBに対する賛否のスタンスを表明するのはまだ先です。なお、本日2017年2月16日、質問権を行使しました。正確には、TOBに対する意見を留保します、という意見表明を行うと同時に、TOBに関する質問をしたということです。こちらです(http://v4.eir-parts.net/v4Contents/View.aspx?cat=tdnet&sid=1444788)。TOB制度で認められている権利です。質問に対する回答は、「対質問回答報告書」という形で公表されます。質問権が行使されてから5営業日以内に回答する義務があります。ですので、2月23日までに回答報告書が提出される予定です。その後、回答内容を精査した上で、賛成か反対かの意見を表明することになります。ですので、3月上旬くらいには賛否の意見表明や対応策が公表されるかもしれません。あまり遅くなると株主が応募してしまうかもしれないので、たぶんそのくらいの時期には表明すると思います。

 なお、今回、株式掲示板のコメントを題材にしたのは、敵対的TOBが実施されたら、このような掲示板にも目を光らせるからです。なぜかと言うと、おかしな投稿がないかどうか念のためチェックしておくという趣旨です。あり得ないとは思いますが、会社の内部情報が漏えいしていないかどうか、買収者側の関係者などが情報を漏えいしていないかどうか、などをチェックします。また、個人投資家がどういう意見を持っているのか参考のためにチェックするなどの目的もあります。

■だろう経営は危険~かもしれない経営へ~

 自動車免許を取ったのは20歳のころですので、もう20年以上前のことになります。教習所で「だろう運転はダメですよ」と習った記憶があります。

 「多分、大丈夫だろう」と考えて運転してしまい、その結果「まさかそうなるとは思わなかった」というような、思わぬ出来事が起きることがある、と書いてあります。

 「多分、うちの会社は狙われないだろう」と考えてしまい、その結果「まさか30%も株式を買われるとは思わなかった」というような、思わぬ出来事が起きることがあります。と言い換えることができます。

 本コラムで取り上げた、突然もしくはじわじわと株式を買われた会社について、おそらくその会社の経営陣は「多分、うちの会社は狙われないだろう」と考えていたのでしょう。「もう買収防衛策は廃止しよう。そもそも日本で敵対的買収なんてもう起きないだろうし、アクティビストファンドももういなくなったんだろう?うちの会社が買われることなんてないだろう」と考えてしまったのでしょう。

 だろう経営の弊害です。

 では、これが「かもしれない経営」になっていたらどうだったのでしょうか?

  • なぜこのファンドがうちの株式を買ってるんだ?買い増してくるかもしれない
  • なぜ日本で敵対的TOBが起きないんだ?これだけ持ち合い解消してるんだから、海外の会社が狙ってくるかもしれない
  • 川崎汽船はエフィッシモに狙われたんだろ?時価総額が同レベルのうちの会社も狙われるかもしれない
  • ソフトブレーンとかソレキアとか、なぜ狙われたんだ?うちの会社にも共通する課題があるかもしれない
  • なぜ△□社がうちの株式の大量保有報告書を提出したんだ?TOBを仕掛けてくるかもしれない

 どうでしょうか?「だろう経営」から「かもしれない経営」に視点を変えてみると、けっこう心配すべきことが多いのではないかと思います。少なくとも「やっぱり買収防衛策は必要だな」と僕なら考えます。正確に申し上げると、買収防衛策ではなく「買収者が現れた場合における時間と情報を確保するための対応策」が必要と考えます。

また、買収防衛策を導入しているから安心!という訳でもないです。買収防衛策を導入している会社に対して買収提案をした事例はけっこうあります。買収防衛策を導入しても、使い方がわからないと対処のしようがありません。常日頃からのメンテナンスが重要ですし、企業防衛や企業価値向上に関する議論をしていくことが重要です。

 

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