2017年05月25日

No.94 富士通のメンツを守った記事

本日5月25日(木)日経15面にある記事です。昨日に続き、今までにない面積でソレキア・富士通・佐々木ベジの件が取り上げられています。「富士通はソレキアの要請を受け、ホワイトナイトとしてTOBに踏み切った。佐々木氏のTOBを上回る既存株主から支持を得たが、取引成立の要件を満たせなかった。」とあります。

 思わず「提灯記事か?」と言ってしまいたくなります。まず、本件において指摘されるべきは「なぜ価格の低いTOBに応募するように要請したのか?」そして「その価格の低いTOBが不成立となったことについて、応募推奨したソレキア経営陣の責任をどう考えるか?」です。「株主の目を意識」とか「富士通、合理性重視で撤退」とか書いていますが、ソレキアの経営陣はまったく株主の目も合理性も重視していません。この記事は富士通の立場でのみ論じられており、ソレキア経営陣の責任は論じられていないことが問題です。

 しかし、富士通のとった戦略は正しかったのでしょうか?富士通の株主の目を意識して「買付価格で合理的な水準を超えないように」したのでしょうが、そもそも、TOB合戦になったときの読みが甘かったということではないでしょうか?「5,000円以上にはならないだろう」と推測してTOB合戦に踏み切ったのであれば、大きな戦略ミスです。なぜか?

 ソレキアの1株当たり純資産(BPS)はいくらでしょうか?2017年3月期末のBPSは6,604円です。佐々木ベジは公開買付届出書などで、PBR1倍を下回った状態で長年にわたって株価を放置していたソレキア経営陣を批判しています。ということは、佐々木ベジの株価の目線は安くとも6,604円のはずです。ということは、少なくともTOB価格を6,600円程度まで引き上げる合理的根拠を持たないのであれば、ホワイトナイトになるべきはなかったということです。プロからすると「当然佐々木ベジはBPS付近までTOB価格を引き上げてくるだろう」との読みのもとでTOB合戦の戦略を考えます。

 ソレキアの経営陣が不憫なのでもうあまり責めたくはないのですが、あえて、一言。そのような安いTOB価格しか提示できないような人にホワイトナイトなど頼むべきではなかったのです。TOB合戦は「企業統治、TOB合戦左右」などときれいごとを並べ立てて戦えるものではありません。食うか食われるか、の世界です。ソレキアは富士通をホワイトナイトとしてTOB合戦に引きずり込んだのであれば、もっとつめるべきでした。「わが社の株主のことを考えると、TOB価格はこれ以上引き上げられません・・・・」と言われたら、「ふざけるな!だったらこっちは富士通に対するネガティブキャンペーンもやるぞ!」と。具体的な戦略は控えますが。

 記事の最後で「M&Aに詳しい牛島信弁護士は「富士通が買付価格の引き上げを踏みとどまったことこと、企業統治の充実を象徴している」と指摘する」とあります。ソレキアにとってはいい迷惑です。「いやー、富士通さん、佐々木ベジとの泥沼の価格引き上げ競争に引きずり込まれず途中で降りてご英断でしたね」 おいおい!ソレキアはどうなるんですか?

富士通は完全に敗北しました。英断などではありません。完敗です。ソレキアは中途半端なホワイトナイトを頼りにしてしまったため、佐々木ベジの軍門に下ることになりました。ホワイトナイトになるのであれば、地獄の底まで付き合う覚悟を持つべきではないかと私は思います。ソレキアの従業員の人生がかかっているのですから。このような対応しかしなかった富士通を持ち上げるような記事はどうかと思います。ソレキアの対応は決してほめられるものではないのですが、敵対的TOBに対する知見がない経営陣であれば仕方のない対応です。「富士通が助けてくれるんだったらそれがいい。助けてもらおう」という考え方になってしまうでしょう。平時のうちから、少なくとも基礎的な知識を習得しておくべきでした。しかし、最も責められるべきはアドバイザーです。アドバイザーがしっかりしていれば、このような結果にはなりませんでした。「富士通さんは5,000円までしかTOB価格を引き上げてくれませんよ。佐々木ベジはもっと上の価格を提示してくるはずです。この敵対的TOBへの対抗策は、ホワイトナイトによる救出戦略ではありませんよ!」ということをきちんと説明していれば、ソレキアの経営陣もホワイトナイト戦略の危うさに気付いたはずです。どれだけ、基礎的知識を身に着けても、それだけでは足りないんです。それを補うのが平時からのアドバイザーの役目ですから。

 

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