2017年11月01日

No.200 ソレキアが買収防衛策を導入していたら私はもっと儲かったはずなのです

 せっかく200回目のコラムなのでもっと高尚なタイトルにしたかったのですが・・・。下品なタイトルですみません。さてコラムで何度も取り上げているソレキアですが、もう一度振り返ります。

 これを見ると、佐々木ベジによるTOBが開始される前の株価は2,000円前後でした。それが、佐々木ベジがTOBを仕掛けてから、どんどん上がっていきました。富士通が登場し、撤退、その後、佐々木ベジがTOB価格を5,450円まで引き上げました。これだけ見ると、2,000円だった株価が5,450円以上になったのだから、株主は儲かったのだからいいじゃん!と考えることもできますが、果たしてそうでしょうか?

 ソレキアの1株当たり純資産(BPS)はいくらでしょうか?BPSは6,604円なのです。「でも富士通は5,000円までしかTOB価格を引き上げなかったんだよね?だったら5,450円でも十分なんじゃないの?」 そうなんですよ。だからソレキアは買収防衛策を入れておいた方が、株主にとってもハッピーだったのです。結局、TOBには期限があります。株主はそれまでにTOBに応募するかどうかを決めなくてはいけません。「本当はBPS以上の価格に引き上げてほしいけど、でも他の株主は応募しちゃうんだろうなあ。しょうがないから応募するか・・・。」 いわゆる囚人のジレンマですね。

 ソレキアが買収防衛策を導入していたら、このような事態は避けられたはずなのです。正確に申し上げると、ソレキアの経営陣が保身目的で買収防衛策を使わず、従業員や株主のために使ったらという前提です。買収防衛策を導入していたら、まずソレキアと佐々木ベジは買収提案に関する情報提供のやり取りをします。これにはある程度の時間がかかるでしょう。そしてソレキアは佐々木ベジへの対抗策および株主に対する代替案として、富士通による完全子会社化を提示します。それを見た佐々木ベジは、予定しているTOB価格を引き上げます。富士通も予定価格を引き上げます。ここで、実際にTOBはしていないけれども、買収防衛策のルールに則った買収合戦が始まる訳です。そして富士通は5,000円で撤退し、佐々木ベジが5,450円に引き上げます。実際にはこれで勝負あった!でした。株主はこの価格のTOBに応募するかどうかを迫られた訳です。

 では買収防衛策を導入していたらどうなったでしょうか?まだTOBが実際に仕掛けられた訳ではありませんから、別の案をソレキアが提示するための時間も十分あったはずです。5,450円を提示された後でも、増配の提案をすることができました。もちろん、正確に申し上げれば、実際のTOBの局面においても増配をする余地はまだ確かにありました。ま、焦っていたのでしょうね、ソレキアの経営陣は・・・。

 そもそもの株価が低すぎるという指摘もあるとは思いますが、敵対的に買うのにBPSよりも低い価格で買えてしまうってどうなんでしょうか?冷静に考えたら、安すぎるでしょう。買収防衛策のメリットには、何よりも経営陣が落ち着いて対処するための時間を確保できる、ということもあると思います。敵対的買収を経験したことのある人は社内にいないでしょうし、証券会社を初めとしたアドバイザーだってそうです。今やかつての敵対的TOBをアドバイザーとして経験したことのある人は少なくなっているでしょう。

 200回目のテーマにソレキアを取り扱ったのは、これまでの日本企業に対するM&Aを根本から覆すケースだからです。あれほど安定株主がいるのに、いとも簡単に佐々木ベジという個人に買収されてしまいました。決して他人事ではないです。ソレキアが買われたということは、日本の上場企業のほとんどは敵対的に買収可能です。それに気付いて対処しておくか、「うちには関係ないや」と考えて放っておくかは、経営者次第です。

なお、「あの会社を買えないと思っていたが、買えるということか?」と考える会社もいらっしゃるかもしれません。おっしゃるとおりです。事業会社が敵対的に買収しに行っても、今の世の中、非難などされません。むしろ称賛されるでしょう。

 

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