2017年05月10日

No.87 今さらですが、なぜ日本企業のPBRは低いの?放っておくとどうなるの?など2コラム

■今さらですが、なぜ日本企業のPBRは低いの?放っておくとどうなるの?

 PBRとは???株価純資産倍率です。株価を純資産で割って算出される指標です。「それくらい知っとるわ!」でしょう。よく言われることですが、日本企業のPBRは米国企業に比べて低いです。「PBRが1倍割れているなんて、解散した方がいいってことじゃないか!」などなど。

 http://myindex.jp/global_per.phpというサイトに比較表が掲載されています。日本企業のPBRが1.4倍に対して、米国は3.1倍だそうです。なんで日本企業のPBRは低いのでしょうか?

 ご存知の方が多いと思いますし、改めて私がコメントすることではないと思いますが、たぶん以下の式が理由でしょう。

 PBR=ROE×PER

 やっぱり、日本企業の株価がPBR1倍を割っているのはROEが低いからなのでしょう(まあ、上表を見る限りPERも日本企業は低いのですが)。ではROEとは?

 ROE=売上高利益率×総資産回転率×財務レバレッジ

 です。デュポン分解ですね。では、欧米と日本企業のROEの差はどうなっているのでしょうか?次頁に記載しています。いわゆる「伊藤レポート」からの抜粋です。

 どう考えても日本企業のROEが低すぎる、という状況ですね。分解すると、特に利益率が見劣りする、つまり収益性が低いということです。私の職業上、皆さんの会社の収益性を高めるための方策をご提案することはできません。皆さんの会社の収益性を高める方法をご存じなのは皆さんです。皆さんが一番のプロですから、私がとやかく申し上げる話ではありません。

 収益性を高めることが難しくても、ROEの分母である純資産を減らせば、ROEは向上します。それを求めてくるのがアクティビストファンドです。ROEの議論は無視できません。ROE向上策を取らない会社は、まずまっとうな機関投資家からは相手にされないでしょう。「いいよ、うちの会社のROEは。だってこれ以上収益性を上げるのはムリだもの。別に機関投資家に買ってもらわなくてもいいよ。ひっそりと目立たず株式市場で生きていくよ」 今までの議論はここで終わっていました。

機関投資家に相手にされなくてもいいからひっそりと目立たず株式市場で生きていくのは、今後はムリです。そのような会社を探し出すのがアクティビストファンドの仕事だからです。見つかったら最後です。まっとうな機関投資家が買わない会社はアクティビストファンドの餌食になります。これまでは「ROEを意識しないと機関投資家にそっぽを向かれますよ。株価を上げるためにはROEを意識しましょう」というアドバイスが多かったと思います。でも重要なのは機関投資家にそっぽを向かれることではなく「買ってほしくない投資家に買われることになりますよ。ROEを意識しないとアクティビストファンドが寄ってきます」ではないかと思います。

■フジテレビの役員人事

 今日の日経新聞に出ていました。

フジ・メディア・ホールディングス(HD)は9日、傘下のBSフジ社長の宮内正喜氏(73)が社長に就く人事を固めた。6月下旬に就任する見通し。嘉納修治社長(67)は代表権のある会長に就く。長くグループの経営を担ってきた日枝久会長(79)は代表権のない取締役相談役に退く。

 人事異動までコラムで書くの?と思われるかもしれませんが、私が関心を持ったのは「日枝久会長は代表権のない取締役相談役に退く」というところです。フジメディアHDの定款を見てみますと、

とあります。相談役を置くことができると定款に明記しています。なお、日枝会長は取締役相談役になる模様ですが、昨年のフジメディアHDの有価証券報告書を見る限り、取締役相談役という役職の方はいらっしゃいません。もしかしたら相談役はいるけれども、取締役相談役というのは初めて設置する役職なのではないでしょうか?ではなぜ取締役相談役にしたのでしょうか?相談役は珍しくありませんが、取締役相談役は割と珍しいのではないでしょうか?

 ISSの影響でしょうか?新聞報道もされ、以前のコラムでも取り上げたことがありますが、ISSの「2017年版日本向け議決権行使助言基準」によりますと、

 これは新たに定款を変更し相談役制度を新設する場合には反対するというポリシーなので、すでに相談役を定款で定めている企業に影響はないものと思われます。たぶん、フジメディアHDはISSを意識して取締役相談役にした訳ではないのでしょう。

 そもそも、フジメディアHDの株主構成や放送法を見れば、ISSなど意識する必要がないことがわかります。

2016年3月期末のフジメディアHDの株主構成です。

 法人株主比率が非常に高いです。また、放送法により外国人による名義書き換え、株主名簿への記載、記録の拒否、議決権制限などをすることができますから、あまりISSなどを意識する必要はないのかもしれません。

 ただ、放送局などではなく一般の事業会社はISSの基準を無視し続けることは難しくなるかもしれませんね。現在は新たに相談役制度を定款で設けることに反対していますが、そのうち、相談役制度を維持し続ける会社の経営トップの選任議案には反対すると言い出しかねません。東芝のケースでも問題視されていますが、顧問や相談役制度については見直すべき時期にきているのかもしれません。

 

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