2017年05月24日

No.93 佐々木ベジ、ソレキアへのTOB成功など2コラム

■佐々木ベジ、ソレキアへのTOB成功

 本日の日経15面に「富士通、対抗TOB不成立」と初めて大きく取り扱われていましたね。内容についてはコラム以上のものはありませんが、「日本で経営陣の賛成を得た対抗TOBが不成立となるのは珍しい」と書いてあります。そもそも日本で対抗TOBが実施されたケース自体が珍しいので、記事はちょっと的外れです。

昨日5月23日で佐々木ベジ氏のTOBが終了しました。結果は以下のとおりです。

ソレキアの発行済株式総数

1,016,961株

自己株式

148,700株

単元未満株式

21,061株

完全議決権株式

847,200

富士通保有株式

23,558株

ソレキア経営陣・創業家

108,997株

富士通TOBへの応募株数

357,765株

ソレキアの安定株主

490,320

フリージアマクロス保有株式

58,600株

佐々木ベジTOBへの応募株数

285,499

佐々木ベジサイドの株主

344,099

今回の佐々木ベジ氏のTOBには上表のとおり285,499株の応募がありました。これは総議決権の約33%です。これに佐々木ベジ氏が会長をつとめるフリージアマクロスが保有する58,600株を合算すると、佐々木ベジ氏らは総議決権の約40%を保有することになります。

 さて、皆さんに質問です。佐々木ベジ氏のTOBは成功と言えるでしょうか?

 はい、大成功です。ソレキアの対策があまりに中途半端だったため、私は「ソレキアには、表に出ていない個人の安定株主がたくさんいるからこのような中途半端な対応しかしないのだろうか」と考えていました。結果から言うと、考え過ぎでした。単に、フィナンシャルアドバイザーとソレキアが素人だったということです。40%も持たれてしまったら、ソレキアは創業者の会社ではなく、もう佐々木ベジの会社でしょう。票読みすればこれくらいの応募があるだろうとソレキア側は読めたはずです。にも関わらず富士通によるカウンターTOBのみに頼ってしまいました。富士通がTOB価格を引き上げられないとなった段階で、増配の選択肢はまだ残っていました。まだ守ることができたのに・・・と思います。もちろん増配の効果がどれくらいなのかという点はありますが。。。

 さて、ここで皆さんが疑問に思うかもしれないことを書きます。「でも、富士通とソレキア経営陣・創業家、それに富士通TOBに応募した人たちの株数は490,320株だから、総議決権の約57%をしめている。佐々木ベジに人事権を握られてはいないのだから佐々木ベジの負けとも言えるのでは?」です。

 確かに佐々木ベジは過半数を取得していませんが、これは想定内でしょう。敵対的TOBで40%もの議決権を確保したのだから、議決権行使率を考えれば成功と言っても過言ではありません。今後、富士通TOBに応募した人たちの力がないと、株主総会を乗り切れません。つまり、富士通TOBに応募した人たちがきちんと毎年議決権行使をし、さらにソレキア側の議決権行使をしてくれないとダメということです。相当高い議決権行使率を確保し、さらにソレキア側の味方につける必要があります。毎年毎年、ソレキアはたくさんの株主に議決権行使をお願いしなくてはなりません。毎年です。毎年ならまだいいですが、佐々木ベジが「はい、臨時株主総会の開催を請求します」と言ったら?大変です。これから佐々木ベジはどういう株主権を行使してくるでしょうか?

 動議対応はどうするのでしょうか・・・このような様々なリスクを考えてソレキアが対応したとは到底思えません。

 また、今年の株主総会においてISSなどの議決権行使助言会社はどういう助言をするでしょうか?ソレキアの感情的な対応をみたISSは役員選任議案に反対推奨すると思います。ソレキアの株主に外国人はほとんどいませんから、実質的な悪影響はないかもしれませんが、ISSの助言内容を佐々木ベジ氏は大いに活用するでしょう。ソレキアにとっては悪材料です。

 素人では防衛戦争には勝てません。ましてや「買われる覚悟」などという訳のわからん覚悟では戦えません。

■買われる覚悟?この記事書いた方、勉強していませんね

 本日5月24日の日経16面に「買われる覚悟を買う」という記事があります。キャッチーな見出しにしたつもりなのでしょうが、内容はちゃんちゃらおかしいです。そもそも、15面でソレキアの対抗TOB失敗という記事を掲載しておきながら、買収防衛策に批判的な記事を掲載するセンスを疑います。ソレキアが失敗したのは、買収防衛策がなかったからです。買収防衛策の相次ぐ廃止理由について、「M&Aが企業の成長戦略として根付いた」ことを挙げています。「プロ経営者やトップが高齢のオーナー企業などは買収提案を受けると、真剣に検討するようになっている」 そりゃそうでしょう。プロ経営者はそれが仕事です。高齢のオーナーは真剣に検討するでしょう。だって自分の会社なんだし、後継者がいなければ誰かに売らざるを得ませんから。シンガポールのヘッジファンドは「買収防衛策をやめた中小型株、特にオーナー系は有望な仕込み先」と言っています。そうでしょうね。「なんか動くかもしれないぞ」と思うでしょう。野村のアナリストが「経営に知見を持つ社外取締役が増え、廃止を進言することもある」と言っていますが、その社外取締役、買収されそうになった経験ありますか?買収されそうになった会社の方に社外取締役になってもらってみてください。その方は「本当に廃止するんですか?絶対に廃止しない方がいいですよ。私、買収されることの怖さをよーく知っていますし、買収防衛策がないことの危険性も知っています」と答えるでしょう。あとは有事の経験を有する弁護士に聞いてみてください。私の知っている有能な弁護士の方々は「廃止しろ」などとは言いません。「最近廃止している会社が増えているが、本当に大丈夫か?と危惧しています」と言っています。そもそもアナリストに有事のことがわかるはずがありません。知っているのは机上のお勉強程度のことです。大和投信の運用企画部の人は「防衛策の有無で経営陣の規律の働く程度が違う」と指摘しています。たぶんこの人、有事を経験していないでしょう。防衛策のある会社のほうが緊張感を持っています。防衛策があると規律が働かないのでしょうか。意味わかりません。

結局、皆さん、教科書に書いてあることしか言っていないのです。

 この記事でもっとも参考になる意見は「買収防衛策は悪評な上、否決リスクが高まった。否決されたらメンツもつぶされる(東証1部上場企業の元副社長)」でしょう。そうなんです。否決されたら総務部のメンツや会社のメンツがまるつぶれになってしまうことを恐れているんです。「防衛策なしに買収を阻止しようと思えば、企業価値を高め買われにくくするしかない」とも言っていますが、そもそも日本の事前警告型ルールは買収を阻止するものではありません。時間と情報を確保するためのルールです。

 「買われる覚悟こそ、究極の防衛策かもしれない」と結んでいます。この記事書いた人、「最後のしめの文章、かっこいいだろ?」と思っているかもしれませんが、かなりとんちんかんなしめです。事前警告型ルールを導入し続けている会社こそ、常に買収リスクを検討し、企業価値を高めるには?ということを考えています(当然、それ以外の会社も考えてはいると思いますが)。買収防衛策を導入していなかったソレキアはどうだったのでしょうか?あの対応が「買われる覚悟のあった会社」の対応と言えるでしょうか?値段の安いTOBに応募してくれというのが覚悟のある対応でしょうか。買収防衛策を導入している会社のほうが落ち着いた対応をしていると思います。買収防衛策を廃止した後にファンドなどに買われた会社が「買われる覚悟」を持った対応をしているでしょうか?おそらくあわてふためいていることでしょう。「買収防衛策、廃止するんじゃなかった!」と。

 それと、買収防衛策の廃止前後の株価を比較していますが、何ら参考になりません。買収防衛策の廃止だけを公表する会社はほとんどいないでしょう。決算発表と同時に公表している会社がほとんどです。株価と買収防衛策を論じている時点で「ああ、この記者、勉強していないな」ということが丸わかりです。ちなみに記事では「テルモやインテージホールディングスは今期の純利益が減益見通しでも株価はそれぞれ7%弱と2%弱上昇した」とあります。テルモの今期は、当期純利益は減益見通しですが、営業利益と経常利益は増益見通しです。大和も目標株価を引き上げています。少なくともテルモについては、買収防衛策を廃止したことと株価は無関係だと思います。この記事を書いた人、かなりいい加減です。そもそも買収防衛策を廃止しただけで株価が7%も上がる訳がない。買収防衛策と株価上昇を繋げたいがために、ねつ造していると言っても過言ではありません。

 買収防衛策を廃止した会社については、いろんな議論があるのでしょうが、本日引用した「否決されたらメンツもつぶれる」が大きいのでしょう。買収防衛策を廃止した会社が「買われる覚悟」を持っていると思いますか?実際にはほとんどの会社が持っていないと思われます。「買われる覚悟」を持って廃止したのではなく、「否決されたらかっこ悪い」というメンツを守ることのほうが大きいように思います。

 なぜ買収防衛策の導入に投資家が反対するのか?簡単です。日本企業が信用されていないから、です。ソレキアにしても「なぜ値段の安い方のTOBに応募してくれと言うんだ?」でしょう。昨年あたりも、ファンドからの買収提案に対して値段の安い方のTOBに賛同したケースがありました。なぜ投資家が買収防衛策の導入に反対するのか?「TOBとは株主に対してなされる提案なのに、日本企業はTOB価格以外のことばかり重要視する」からではないでしょうか?「佐々木ベジはとんでもないヤツです。だからTOBには反対します。値段は安いけど富士通のTOBに応募してください」・・・とんでもない意見表明です。そりゃ信用されません。事前警告型ルールを導入し、時間と情報を確保し、真剣に買収提案に向き合った結果、腹をくくって「買収提案を受け入れよう」というのが買われる覚悟です。

 最後に、皆さん、本当に「TOBの下限は付けませんのでTOBは必ず成立します。なお、最大で発行済株式総数の48%までしか買いませんから経営権は確保しません。乗っ取りではありませんよ」という買収提案がなされたら「よし。買われる覚悟で受け入れよう」と思いますか?一昔前、スティールパートナーズが「100%買います。100%買うけど経営には関与しません」という買収提案をしましたが、本当に信用できますか?このような提案に事前警告型ルールなしで対応しろという方がムリな話です。僕はソレキアの「対応」を批判していますが、気持ちは十分わかります。そりゃそうです。反対するでしょう。

 

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