2017年03月17日

No.69 めでたし、めでたし!となるかどうか~富士通によるカウンターTOB~

佐々木ベジ氏から敵対的TOBを実施されているソレキアですが、ホワイトナイトが登場しました。2017年3月16日(木)に公表されましたが、富士通がソレキアに対して友好的なTOBを実施します。ソレキアも富士通のTOBに賛同の意見表明をしています。

 ソレキアの反対の意見表明を見たときは、びっくりして腰を抜かしました。その後も特にMBOやホワイトナイトによるTOBが公表されないので、なぜか?と不思議に思っていましたが、ようやく公表されました。さすがに「イヤだから反対!」で済ますことはなかったですね。

 富士通のTOB条件ですが、TOB価格は3,500円、期限は3月17日(金)~4月28日(金)までの30営業日です。買付株数に上限は付いておらず、成立すればソレキアは上場廃止になります。ただし、後述しますが、下限は付いています。最低限446,045株集まらないと、このTOBは成立しないという条件です。なお、あまり話題になっていませんが、同じ日に佐々木ベジ氏がTOB期間を延長しました。当初3月24日(金)まででしたが、4月7日(金)まで延長しました。たぶんですが、富士通のTOBとは関係なく延長したのだと思います。

 富士通の参戦により、非常にまともな戦いになりました。また、TOB合戦になる可能性が出てきました。

さて、これからどうなるでしょうか?佐々木ベジ氏が「お!3,500円ならうちも応募するか!」と考えてくれれば「めでたしめでたし」で終わりです。しかし、そうならないことも考えられます。まず、佐々木ベジ氏らはソレキア株式を保有しています。佐々木ベジ氏・フリージアマクロスがソレキア株式に投資したのは154,342千円で、58,500株保有しています。1株当たりの取得価格は約2,638円ですね。今回の富士通のTOB価格は3,500円ですから、佐々木ベジ氏らは応募すれば儲かります。(3,500円-2,638円)×58,500株=50,427,000円です。5,000万儲かります。「十分儲かった!」と佐々木ベジ氏らは考えてくれるでしょうか?今回、佐々木ベジ氏はTOBを実施しましたが、それにはコストがかかっています。公開買付代理人に手数料を支払わなくてはなりません。また、おそらくFAや弁護士を雇っているでしょう。彼らにも手数料を支払わなくてはなりません。5,000万以上のコストはかかっているのではないでしょうか。佐々木ベジ氏らがTOBを実施する前の株価は2,000円を割っていましたら、それを考えると十分じゃないかと捉えることもできますが・・・しかし、佐々木ベジ氏が実施したのは単なるTOBではありません。敵対的TOBです。「乗っ取り屋」「敵対的買収者」と世の中から批判されるリスクを背負って実施しましたので、そのレピュテーションリスクに見合った金額と捉えてくれるでしょうか。

佐々木ベジ氏がTOB条件を変更してくる可能性はないでしょうか?「さすがに富士通には対抗できないでしょ?」そうでしょうね。資金力ではおそらくかわないでしょう。でも、佐々木ベジ氏はどれくらいの資産家なのでしょうか?わからないですよね。TOB価格を引き上げてくる可能性はあります。「でも、結局富士通に負けるんじゃないの?」そうですね。結局は負けるかもしれませんが、3,500円で応じる気がなければ、富士通にTOB価格を引き上げさせることを目的に佐々木ベジ氏も引き上げてくるかもしれません。だって、富士通はカウンターTOBをかけた以上、佐々木ベジ氏に負けるわけにはいきませんよね。

富士通と佐々木ベジ氏の違いはなんでしょうか?上場企業と個人という違いです。富士通は上場企業ですから、自分たちの株主がいます。佐々木ベジ氏に負けられないからと言って、いくらにでもTOB価格を引き上げるという訳にはいきません。あまりに高い値段にしてしまうと富士通の株主から「なんでそんなに高い値段で買うんだ!」と怒られてしまいます。一方、佐々木ベジ氏は個人ですから、いくらでもTOB価格を引き上げられます。だって、誰に対しても説明責任ないですから。「ワシが買うと言ったら買うんじゃ!」でいいんです。理屈を超えたTOB価格でもご本人が納得していればいい訳です。ここ重要です。理屈上、富士通は出せる金額が決まっていますが、佐々木ベジ氏は決まっていません。資金力は富士通の方があるのですが、佐々木ベジ氏にある程度の資産があればいくらにでもTOB価格を設定できます・・・富士通が勝てないことだってあり得ます。

ちょっといじわるな手法を考えてしまいたくなります。現在、佐々木ベジ氏はソレキアの株式を2,800円で最大約48%まで買うと言っています(すでにフリージア・マクロスが保有している分に今回のTOBで買う予定の364,700株をあわせた分です)。それに対して富士通は3,500円で全株買います。ただし、以下、富士通のプレスの一部を貼り付けますが、下限が付いています。今回のTOBで富士通の議決権割合が2/3以上にならない場合はTOB不成立です。

佐々木ベジ氏がTOBで1/3集めてしまったらどうなるでしょうか?富士通のTOBは成立しません。ではどうやって?2,800円というTOB価格を引き上げなくてはなりません。いくらに?富士通と同額の3,500円にしたらどうでしょうか?佐々木ベジ氏のTOB価格を3,500円にして、買い付ける株数は変更せず最大で約48%のまま。今回のTOBで買う株数は364,700株です。3,500円で買うとなると、合計金額は12億7,600万円です。佐々木ベジ氏は出せるでしょうか?はい、出せます。なぜか?今回の公開買付届出書の添付書類を見てみましょう。残高証明書というのがあります。これは公開買付届出書には預金の残高証明書や借入契約書などの資金の存在を示すに足りる書類を添付しなくてはならないのでEDINETで見ることができます。それを見ると今回、佐々木ベジ氏は「1,717,010,407円」の普通預金の残高証明書を添付しています。

株主はどういう行動にでるでしょうか?富士通の条件は3,500円で全部買う、ただし2/3集まらなかったら不成立です。佐々木ベジ氏は3,500円で48%まで買う、です。佐々木ベジ氏のTOBのほうが終了日が早いです。株主は「佐々木ベジ氏がTOBで1/3以上集めてしまうと、富士通のTOBが成立しない!」と考えたら、佐々木ベジ氏のTOBに応募するのではないでしょうか?そうなると富士通のTOBは失敗してしまいます。

 佐々木ベジ氏がTOB価格を引き上げてきたら、富士通も対抗して引き上げざるを得ないでしょう。更なるTOB合戦になる可能性が出てきました。私が「富士通によるカウンターTOBの可能性は限りなく低い」と考えた理由はここです。TOB合戦になってしまう可能性があり、かつ、佐々木ベジ氏がどれくらいの資産家なのかがわからないからです。佐々木ベジ氏がいったいいくらの資産を持ち、いくらまでTOB価格を引き上げる余力があるのか?それがわからないので、カウンターTOBをかけるのは「怖い」と考えました。佐々木ベジ氏は理屈なしに、いくらにでもTOB価格を設定できます。ご自身に対して以外の説明責任がないからです。かたや富士通は上場企業ですから、いくらでかけてもよい、とはなりません。株主に対する説明責任があります。

 まあ、3,500円といういじわるな価格ではなく、4,000円くらいに引き上げるかもしれません。当然ですが、佐々木ベジ氏も説明責任はないと言っても、TOB価格を引き上げる以上、価格を引き上げる理由をソレキア株主に対してきちんと説明するでしょう。どうやって説明しましょうか?佐々木ベジ氏が「私はソレキアの上場継続を前提として2,800円で最大48%まで買うと説明した。ソレキアのBPSは6,340円である。富士通はソレキアの上場廃止を前提として3,500円で買うと説明しているが、上場廃止を前提とするなら3,500円は安い。私は上場継続を前提として4,000円に引き上げる。TOB終了後はソレキアにROE経営を実践させることで、PBR1倍以上を目指す。そうすれば株主の皆さんは4,000円で一部株式を応募し利益を出すことができるし、将来的に株価がPBR1倍を上回ればさらに利益を手にすることができる。」と説明したらどうでしょうか?ちなみに、佐々木ベジ氏は最大で約48%まで買うと言っていますが、上限を引き上げることもできます。ただ、それはしないと思います。なぜなら、対質問回答報告書で次のように回答しているからです。

 もう一ついじわるな方法を考えてみましょう。佐々木ベジ氏のTOB終了日は4月7日(金)で、富士通のTOB終了日は4月28日(金)です。一般的にTOBをかけられた会社の出来高は増えます。市場から買いやすくなります。佐々木ベジ氏がTOB価格を引き上げることなくTOBを終了させ、翌週の月曜日から市場でソレキア株式を取得して、1/3まで買う。そうすると、富士通のTOBはほぼ不成立になる可能性が高くなります。こっちのほうが確実に買えそうですが、いくらで買うことになるのか読めませんし、この方法がよいのかどうかは法律専門家の意見を念のため聞きたいところです。

ちなみに、今回の佐々木ベジ氏が公開買付届出書に添付している預金残高証明書では「1,717,010,407円」となっていますが、この金額を買付予定株数364,700株で割ると、約4,708円となります。買付予定株数を変えなければ、現在添付している預金残高証明だけでも十分にTOB価格を引き上げることが可能です。さて佐々木ベジ氏は次にどういう行動に出るでしょうか???上記回答を見る限り「話し合いは1年でも2年でも、場合によっては3年かけてでも行いたいと考えます。」と書いてあります。佐々木ベジ氏が長期戦を覚悟していれば、今回の富士通のカウンターTOBで終了!とはならないのではないでしょうか。

 

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