2017年06月06日

No.100 野村、米ISSに反論

2017年6月3日(土)の日経27面に「野村、米ISSに反論 社外取締役選任巡り」という小さな記事がありました。内容は以下のとおりです。

野村ホールディングス(HD)は2日、23日に開く株主総会を巡って米議決権行使助言会社インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)が出した、社外取締役選任議案の反対推奨に対する反論を公表した。ISSは野村の監査法人を務める新日本監査法人出身であるとして、園マリ氏の選任議案に反対推奨している。これに対して野村側は「園氏が新日本を退所して8月で5年になる」などとして、社外取締役としての独立性には問題がないとの見解を明らかにした。

 野村ホールディングスの社外取締役は新日本監査法人出身の方がいらしたと記憶しています。野村ホールディングスはプレスリリースで以下の反論をしています。

http://www.nomuraholdings.com/jp/news/nr/holdings/20170602/20170602.pdf

ISSは「園氏は野村の監査法人である新日本出身だから独立性に欠ける。」「日本企業における終身雇用の文化と、長期雇用された従業員がその雇用者に対して持つ強い帰属意識がある。」「野村の取締役会には「新日本監査法人出身者枠」があるとみられる。」などを理由にしています。ちなみに、私、野村證券に20年近く在籍しましたが、もう帰属意識はありません。古巣の肩を持つ訳ではないのですが、もうISSを訴えてはどうでしょうか?少なくとも「野村の取締役会には新日本監査法人出身者枠がある」などとは・・・確かに、新日本出身者の社外取締役就任が続いているように思いますが、枠があるなどとは到底考えられません。言いがかりではないでしょうか・・・野村はいち早く委員会等設置会社に移行した会社です。歴代の社外取締役を見ても、独立性の高い方が多いと思います。園氏は確かに野村の監査法人である新日本監査法人出身ですが、野村のガバナンスに対するスタンスを見れば、小細工を弄しているとは思えません。「木を見て森を見ず」な推奨内容のように思えてなりません。

 野村の反論については上記のプレスを見ていただければと思いますが、興味深い点は「議決権行使助言業務についてその業務遂行体制の適切性や十分性等の担保を可能とするため、国による規制(例えば、登録制度)の導入を検討する時期に来ていると考えます。」と言及していることです。

 買収防衛策に対する基準、大塚家具を巡るとんちんかんな推奨、大幅増配に対する経営の実態を理解していない推奨、など例を挙げればきりがありません。ほかにも、ある会社への取締役選任に関する株主提案に関して、候補者の一人が、過去、インサイダー取引で有罪判決を受けた人物でした。ISSはその方を推奨する旨の意見を出しました。信じられません。すでに執行猶予期限はむかえているのかもしれませんが、上場企業の社外取締役として過去インサイダー取引で有罪判決を受けた人物がふさわしいと判断する神経を疑います。報道などによるとISSは「上場企業の取締役になることを阻止する法令はない」と主張しているそうですが、ちんぷんかんぷんです。「じゃあ、株主総会の3週間前には招集通知を出せとお前らは言っているが、法令では3週間前ではないぞ。こんなときだけ法令を持ち出すんじゃない」です。更生した方の社会復帰に関して文句など言うつもりはありませんが、積極的に上場企業が社外取締役として採用する必要はないでしょう。インサイダー取引で有罪判決を受けた方に社外取締役に就任してもらい、会社の重要な内部情報を共有するなど、リスクが高過ぎます。

 また野村ホールディングスは「ISSの助言は機関投資家の投資行動に重大な影響を与えていると考えられ、当社の場合、過去に同社の反対推奨があった議案について、他の議案と比較して20%程度賛成率が下がるといった事例がありました。」と指摘しています。では、野村ホールディングスの株主構成を見てみましょう(2016/3期末)。

 上位大株主を見ても金融機関などは登場してきませんし、法人株主は3.93%しかいません。安定株主はほぼいないと考えてよいと思います。外国人株主比率は39%と非常に高いです。これがISSの意見に左右される株主ですから、けっこう怖いですね。場合によっては否決されるリスクがあります。大量保有報告書の提出状況などを見ると、割と口うるさいハリスアソシエイツなどが株主のようです。まあ、個人株主比率も高いですし、普通決議ですから、否決されることはまずないとは思いますが・・・

 そもそもISSが反対を推奨している園マリ氏はどういう経歴なのでしょうか?

 非常に輝かしい経歴ですね。このような方ですら「監査法人出身!」ということで反対推奨されます。いっそのこと、大手町を歩いている外国人ビジネスマンに社外取締役になってもらってはどうでしょうか?ISSは園さんよりも、どこの誰だかわからない外国人ビジネスマンには賛成推奨してくれると思います。その外国人が新入社員であっても。

 ISSは自分たちの決めた「形式基準」に触れたらアウトということですね。それ以上は検討しない、ということでしょう。仕事を増やしたくないのでしょうか。形式基準だけで検討しているのであれば、ISSの存在意義はありません。機関投資家はISSが公表しているガイドラインに沿って議決権行使をすればよいだけですから。そうではなく、最低限の形式基準を設けつつも、個別企業の議案を真剣に検討する姿勢が必要であると思われます。ISSは「個別に検討している」と主張するかもしれませんが、やっていないに等しいです。もしくは、自分たちのエキセントリックな推奨に酔っているとしか言えません。このようないい加減な仕事をしているようだと、ISSのお先はないと思った方がよいでしょう。

 ただし、企業サイドの対応もこれでよいのかどうか疑問です。監査法人出身者が反対推奨されることは、事前にISSのガイドラインを見ればわかったことではないでしょうか?であれば、ISSの推奨内容が判明する前からISSに対するネガティブキャンペーンを展開しておくべきではなかったのでしょうか。以前、大塚家具に関するISSの推奨内容に関して私は「ISSは経営に関して推奨するほどの知見・能力はない」と断言しました。ISSは経営のことがわかりませんから。招集通知を発送する時点で「ISSは園氏の選任議案に反対すると思われるが、株主の皆さん、どうかISSの推奨内容は見ないでください。所詮、彼らが独自に決めた判断基準に従って機械的に推奨しているに過ぎません。なお、他の候補者に関してISSは賛成を推奨すると思われますが、これらについても参考にしないでください。我々はISSに向けた経営をしている訳ではありません。あらかじめ決めた判断基準に沿ってしか判断できないような助言会社は相手にしていません。なお、ISSの議案に対する推奨を見ると、自分たちの仕事を増やしたくないために機械的な推奨をしているとしか思えません」くらいの主張をしておけばよかったのではないかと考えます。皆さん、コーポレートガバナンス報告書か何かで「我々の株主総会議案に対して、ISSの推奨内容を参考にしないでください」というスタンスを表明してみてはどうでしょうか?ISSが賛成推奨してくれたら何も言わず、反対推奨したときだけ文句を言うのはちょっと筋違いなような気もします。「ISSが賛成だろうが反対だろうが、うちの議案に関してISSの意見を参考にするな!」というスタンスを明確しておくのも一つの作戦ではないかと思います。

 

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