2024年05月02日

No.1754 ローランドDGのPR合戦に何の意味があるのか?

最近、敵対的=同意なき買収の局面においてPR合戦が目立ちますね。誰に対するどういうメッセージなのか?TOBに対する意見は正式にこう買付届出書で述べたらどうか?

さて以下の日経ビジネスのローランドDGの常務に対する取材、おもしろいですねえ。

「ブラザー工業のガバナンスに疑念」 ローランドDG常務が激白

https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00611/050200007/?n_cid=nbpnb_mled_enew

ディスシナジーに力点を置いて反論していますが、大切なのは価格でしょう?ちなみに現状、当初MBO価格5,035円⇒ブラザーTOB価格5,200円⇒修正MBO価格5,370円となっており、現状はMBO側のほうが株主にとってプラスの価格を提示しています。

でも上記日経ビジネスでローランドDGの小川常務はブラザーと協業することのディスシナジーばっかり指摘しており、せっかくMBO価格を引き上げたのに、株主にとってメリットのある価格をアピールしていません。なぜでしょうか?

それはブラザーがTOB価格を引き上げてくる可能性が高いと見ているからでしょう。価格に重点を置いてブラザーを批判すると、いざブラザーにTOB価格を引き上げられると反論できないからですね。あんまりディスシナジーのことばかり指摘していると「買収後のディスシナジーをそんなに指摘しても、全株買収なのだから我々株主には響かないよ。TOBに応募してしまったら会社との関係は切れるし、重要なのは価格だよ」と言われたら終わりです。

しかも、よりによって以下はどうなんでしょうか?

買収を強行なら「善管注意義務違反」も

ーなぜブラザー工業側のガバナンスの問題になるのでしょうか。

小川氏:仮にブラザー工業がローランドDGを買収し、多額の減損を出してしまうような状況を考えてみてほしい。ブラザー工業の取締役会は、ディスシナジーの懸念が分かりきっている状況で買収を強行し、ブラザー工業に損失をもたらしたことになる。その場合、取締役は善管注意義務違反(編集部注: 故意・過失に基づく著しく不合理な行為の結果、会社が損害を被った場合などに義務違反となり、取締役は損害賠償も問われる)になるのではないか。

ブラザー工業は15年に、英国の産業用印刷機器メーカー、ドミノ・プリンティング・サイエンシズを約1900億円で買収している。だがその後、複数回にわたり同社で減損の計上を強いられた。ブラザー工業は同じ過ちを繰り返すべきではない。

一言でいうと「大きなお世話」でしょうね。ブラザーにしてみれば「それはうちの話であり、おたくに言われる筋合いはありませんよ」ってことなんですが、どうしてローランドDGはこんなことを言うのでしょうか?それは以下のブラザーの株主構成にあります。2023/3期末のデータです。

ブラザーって売上の大半が海外なんですが、株主構成を見ても外国人株主比率が高いんですよ。ローランドDGが日経ビジネスで訴えている対象は、ブラザーの株主であり、特に外国人株主なんでしょう。ブラザーの外国人株主に対して「ブラザーの株主の皆さん!ブラザーはまたM&Aで失敗しようとしていますよ!高値掴みをしようとしていますよ!株主の皆さんがブラザーの経営陣を止めてください!」と言いたいのでしょう。

伝わるかもしれませんが・・・・伝わらない前提で作戦を練ったほうがよいと思いますよ。これ、他人任せの企業防衛じゃないですか?自社の企業防衛をよりによって買収者の株主に訴えてまかせようとしているんですか?うーん、私はPR合戦を否定はしませんが、それって選挙みたいな局面で不特定多数のマス対応をするには有効かもしれませんが、相手は株主ですよね?しかも、わりとレベルの高い機関投資家ですよね?PR合戦を否定はしませんが、PR合戦で勝てると思って作戦を練らないほうがよいですよ。

最近の買収合戦やアクティビスト対応を見ていると、どーもPR合戦に主軸を置いた戦いをしているように見えます。もちろん結果的に勝てるかもしれませんが、かなり不安定な戦いですね。そこを主軸にして戦うと痛い目を見ます。もちろんMBO側が勝てる要素は十分あるのですが、それってPRは関係ないでしょ笑

それと、私が申し上げている勝てる要素はローランド・タイヨウ側もわかっていることだと思いますが、実は他にも勝てる要素・作戦があります。そういうのは、平時からちゃんと考えておかないとダメなことなのです。ローランドDGは水面下でブラザーの買収提案を随分前に受けているのですから、検討する時間は十分にあったし、何もMBOなどという危ない橋を渡る必要もなかったのです。

平時からの準備が本当に大事です。

 

 

このコラムのカテゴリ

関連する
他のコラムも読む

2023年06月13日 有料記事

No.1550 東急によるCB発行について

以下、東急がCBの発行を公表しています。これ、私はかなり気になっています。プレスは以下です。

続きを読む

2019年9月25日の日経1面と19面にあった記事です。脱株主宣言に関する記事が最近よく掲載されているものの、現実として日本の会社はアクティビストの攻勢にさらされているのです。脱株主宣言、株主至上主義から決別といった風潮によって、アクティビ ...

続きを読む

インベスコ・オフィスに敵対的TOBを仕掛けたスターウッドですが、インベスコ・グループによる防戦買いにより窮地に立たされています。でもスターウッドにもまだ勝機はあります。

続きを読む

カテゴリからコラムを探す

月別アーカイブ