2019年10月02日

No.679 物言う株主 日本に攻勢

2019年9月25日の日経1面と19面にあった記事です。脱株主宣言に関する記事が最近よく掲載されているものの、現実として日本の会社はアクティビストの攻勢にさらされているのです。脱株主宣言、株主至上主義から決別といった風潮によって、アクティビストが攻撃の手をゆるめるでしょうか?絶対にゆるめません。いくらそういう風潮が強くなっても、一定程度の株式を取得すれば、経営に対する影響力を保持できます。

そもそも日本の会社が敵対的TOBや株主提案を経験し始めたのはいつでしょうか?はじまりは2003年頃です。スティール・パートナーズがユシロ化学とソトーに対して同時に敵対的TOBを仕掛けた頃が始まりでしょう。その頃から、村上ファンドの活動も活発化し始めました。そして村上ファンドがインサイダー取引によって崩壊し、スティール・パートナーズも日本から撤退しました。2008年にはリーマンショックが起き、アクティビストの日本企業に対する攻撃も沈静化しました。しかし2015年頃からサードポイントがソニーやファナックの株式を取得し、経営に対して物を言い始めました。2008年から2015年頃まで日本の会社はアクティビストから目立った攻撃を受けていないのです。アクティビストの攻撃が再開したのは2015年頃からであり、まだたったの4年です。米国企業なんて何年経験したんでしょうね?1980年代からずっとですよ。30年以上にわたって米国の経営者はアクティビストと対峙しているのです。

2019年になって日本の名だたる事業会社による敵対的TOBが起きました。伊藤忠商事とエイチ・アイ・エスです。伊藤忠商事は、見事という訳ではありませんが、TOBによってデサントの実質的な経営権を取りました。エイチ・アイ・エスは敗北したものの、ユニゾHDはホワイトナイトに頼らざるを得ませんでした。ユニゾHDの経営の独立性はなくなるでしょう。佐々木ベジvsソレキアのケースをアクティビストは知らないでしょう。でも伊藤忠vsデサント、エイチ・アイ・エスvsユニゾHDのケースを知っています。そして、日本企業をこれまで守っていた持ち合いは崩壊しており、日本企業に対して敵対的TOBがこれからドンドン起きる可能性がある、と見なしているかもしれません。いや、見なしていると考えたほうがよいでしょう。

日本の会社は、株式市場目線での効率性では見劣りします。これは明らかです。日本の会社の株価は割安です。これに全アクティビストが気付いてしまったのです。そして、これまでは安定株主に守られているから攻撃してもムダだったけど、これからは違うと認識されてしまったのです。外資系証券会社はこれまで日本で起きたアクティビストによる株式取得事例を紹介しているでしょう。川崎汽船はエフィッシモに市場買付けで38%も買われた、リコーも18%、村上ファンドは黒田電気の株を40%近く買い、最終的にはMBKパートナーズが買い取った、と。アクティビストは「1980年代の米国で起きていたことが今日本で起きているのか?そりゃ儲かりそうだ!」と思うのではないでしょうか?

脱株主宣言、株主至上主義との決別といくらマスコミが報道しても、アクティビストの活動が沈静化することはありません。たぶんですが、株主至上主義でよいのか?という議論はかつての米国でもあったと思いますよ。でも30年間も米国企業はアクティビストの攻勢にさらされてきたのです。米国の株式市場で起きたことは必ず日本の株式市場でも起きます。日本の株式市場は米国の後追いですから。米国企業の効率化が進み、物言える余地がなくなり儲からなくなってきた全世界のアクティビストが「次のターゲットは日本企業だ!」と狙いを定めています。

残念ながら、アクティビストの日本企業に対する攻撃が沈静化することはなく、これから激化します。これは間違いありません。そして伊藤忠とエイチ・アイ・エスが敵対的TOBを仕掛けたように、別の日本の事業会社もまた敵対的TOBを仕掛けるでしょう。これはもう止められない流れなのです。日本企業が安定株主で守られているという神話は崩れてしまい、アクティビストもそれに気づいています。

どんな会社もターゲットになります。「うちはならないだろ」と今考えた貴社がターゲットになります。と思っておかないと後で本当に痛い目を見ます。

 

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