2017年12月21日

No.234 ファンドは連鎖する 物言う株主が誘う市場退出

12月20日の日経18面にあった記事です。

「買収されやすい企業に新たな条件が浮上している。「物言う株主」(アクティビスト)が大株主に存在することだ。アクティビストの攻勢をかわすためなら、投資ファンドによるM&Aで非上場化もいとわない経営者が増えているからだ。ファンド形態が多いアクティビストの活発な活動が、投資ファンドを呼び込んでいる。」

「「彼らと付き合うくらいならMBOで非上場になりたい」。今月、アクティビストが筆頭株主になったある上場企業の社長は周囲にこう漏らした。」

 彼ら=アクティビストとMBOをすすめる投資ファンドにどういう違いがあるのでしょうか?MBOをすすめる投資ファンドのほうが「言い方が優しい」でしょうか?でも、言っていることの本質はアクティビストと何ら変わらないはずです。両者とも「儲ける」ことが目的ですから。アクティビストに狙われた会社を助けることが目的ではありません。実際、アクティビストと投資ファンドが裏で手を握っていることだって想定されます。「オレたちは敵対的な行動を会社に対して起こすことはできない。あなたたちが買って会社を攻撃してくれ。そしたら、オレたちが出て行って助けるふりをしてあなたたちから株を買い取るよ」なんて会話がなされているかもしれません。ホワイトナイトなどではなく、ブラックナイトです。

 アクティビストの攻撃をかわすために重要なことは、攻撃されてからでは遅いということです。攻撃される前に迎撃態勢を整えておくことです。コラムを読んでくださっている皆さんであればおわかりでしょうが、当然、買収防衛策を導入しておくことです。記事には「最近のアクティビストは発行済み株式の2~3割を買い集めることも普通だ。川崎汽船や三信電気のように3割超というケースも出てきた。数%の株を保有して増配を求めるようなケースでは、企業が要求を無視しても弊害は少なかった。だが2~3割となると話は別だ。」とあります。つまり、時代が変わった、ということです。昔はまあ、10%に満たない水準の株式を保有し増配や自社株買いを要求していたから、ある程度安定株主がいたりすれば、無視するかお茶を濁す程度の増配をやっておけば、しのぐことができました。でも、発行済み株式の3割も持たれてしまっては、無視することなどできません。お茶を濁した程度の対応でも許してはくれないでしょう。発行済み株式の3割も持つということは、それなりにリスクをとっているということですから、多少のリターンなどでは許してくれません。

 普通の機関投資家は1社の株式を2~3割も持つなんてことはしません。社内ルール上、できないでしょう。でもアクティビストは違います。そういう投資をすることができます。そういうアクティビストが日本企業を本格的にターゲットにし始めたということですから、本当に買収防衛策という武器が必要になってきた時代なのです。

 皆さんに伺いたいことがあります。皆さんのまわりに、買収防衛策は必要ですよと言う証券会社・アドバイザー・弁護士はいますか?「株主総会決議を取れますか?今は国内の機関投資家も反対する時代ですよ?可決できる自信はありますか」という人が多くないですか?それって誰でも言えるんです。票読みが厳しいからこそ知恵と工夫が必要です。知恵と工夫を出さないアドバイザーに価値はありません。

 買収防衛策の導入をすすめない・一緒に考えてくれないアドバイザーを信用してはならない、と私は考えます。なぜでしょうか?買収防衛策のアドバイスにかかるフィーってどれくらいでしょうか?証券会社と弁護士に払うフィーは合計で数百万円程度です。では、MBOのアドバイザリーフィーはいくらでしょうか?シチュエーションにもよりけりですが、すでにアクティビストに買われている状態であれば・・・数百万円などではすまないですね。たぶん、数億円を要求されるでしょう。アドバイザーは、買収防衛策の導入をアドバイスして数百万円のフィーをかせぐこととMBOのアドバイザーになって数億円のフィーを稼ぐことのどちらを選ぶでしょうか?

 だから証券会社などのアドバイザーは買収防衛策の導入をすすめないのではないでしょうか?買収防衛策がないと、今の時代、得をするのはアクティビストや投資ファンドだけではありません。会社が困れば困るほど、証券会社などのアドバイザーも儲かります。

 ただし、今の時代、買収防衛策に対する風当たりも厳しいです。「鈴木君、そうは言っても否決されたらどうするの?」 否決されない方法、株主に納得してもらえる開示を考えることが重要です。少なくとも「当社が導入した事前警告型ルールは買収防衛策ではありません」と声を大にして主張しなくてはなりません。また、経営陣や従業員の意識改革も必要です。本当に買収を防衛するための施策ではないと認識しなくてはなりません。例えば「当社は社内で買収防衛策という言葉を使うことも禁止しています」と買収を防衛するための施策ではないことを社内でも徹底して浸透させていることをアピールすることも工夫の一つですね。株主のための買収防衛策であること、徹底的に経営陣と従業員の意識改革をやっていること、それらを適切に株主や投資家に対してプレスリリースでアピールすることが重要でしょう。

 なお、新規導入だけでなく、再導入の検討も必要な時代です。廃止した会社のほうが狙いやすいですから。買収防衛策を導入していない会社をターゲットにすれば、アクティビストが大量保有報告書を提出した時点で新たに買収防衛策を導入されるかもしれませんが、廃止した会社は再導入し難いでしょう。だから、廃止した会社の方が狙われやすいと思います。

 

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