2021年06月25日

No.1099 (無料公開)物言う株主との共生時代

昨日の日経朝刊「一目均衡」に「物言う株主との共生時代」という以下の記事があります。記事を抜粋しながらコメントします。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB17E370X10C21A6000000/

当時は所有と経営の分離が盛んに言われる時代だった。株主は企業の事業をよく知らなくても、会社の所有者の立場から威嚇的に増配などを要求した。

時を経て、物言う株主の姿は随分と変わった。08年の金融危機後に大量の資金が流れ込み、運用規模が格段に膨らんだ。プレーヤー増加で洗練の度を増し、会社の中身を理解したうえで事業再編などの改革を迫るようになった。

当時というのはスティール・パートナーズや村上ファンドの活動が活発化した2003年~2007年頃のことですね。私はあの第一次アクティビスト騒動のときと現在とで物言う株主の姿勢が変わったとは思っていません。なーんにも変わっていませんよ。当時もアクティビストは会社の中身を理解した(つもり?)上で株主提案をしていましたから。スティール・パートナーズだって、経営改善要望書なんてのを投資先にけっこう送り付けていましたし、ザ・チルドレンズ・インベストメント・ファンド(TCI)だって会社の中身を分析した上で提案していましたよ。100ページを超える経営改善計画書を投資先に提示したこともあります。提案内容が増配や自社株買いだったというだけで、会社の事業構造や財務体質をきちんと分析した結果「おたくはこれくらいの配当や自社株買いなら可能だろ?」という理由を提示した上で提案しています。当時のアクティビストが会社の表面上の財務だけを見て株主還元の提案をしていた訳ではありません。表面上の財務だけ見て提案するのなら、電源開発に増配や自社株買いの提案をしないでしょ?だって事業構造上、有利子負債けっこうありますもん。

「物言う株主の目線は、大半のケースでほかの機関投資家となんら変わらない」。企業に物言う株主対策を指南するゴールドマン・サックス証券の矢野佳彦M&A統括責任者は語る。企業の公開情報の分析に基づく物言う株主の要求は、他の株主と共鳴して力を増している現実がある。

おっしゃるとおりです。物言う株主と大半の機関投資家の目線は同じです。そりゃ当たり前なんですよ。アクティビスとも機関投資家も、同じ投資家です。「Greed is good」のゴードン・ゲッコーと同じ世界の住人ですから。株価さえ上がればよいという価値観の人たちです。別に失礼なことを言っているつもりはありません。職業に貴賤はありませんから。会社のことを考えて投資したり、アドバイスしたりしているのか?自分たちだけの利益を追求するために会社を食い物にしていないか?自分たちだけでなく、すべてのステークホルダーの価値向上を目指して投資、アドバイスしているのか?貴賤があるとしたら同じ職業の中でのことでしょう(笑) 

米バリューアクト・キャピタルは大株主として、セブン&アイ・ホールディングスに中核のコンビニエンスストア事業への集中を求める。国内コンビニ事業の競争力が圧倒的なのに、PER(株価収益率)などでみてローソンなどよりも市場の評価が低いのはなぜか。祖業のイトーヨーカ堂の分離などを求めてきたのは物言う株主ばかりではない。

バリューアクトが社外取締役を送るオリンパスは低採算のデジタルカメラ事業を売却した。JSRは祖業のエラストマー(合成ゴム)事業を手放す決断をした。伝統事業ほど社内のしがらみは強い。両社の事例はむしろ物言う株主の「外圧」を活用して、経営陣が改革を断行したとの見方も成り立つ。

セブン&アイに対してヨーカ堂の分離を求めたのはバリューアクトのみならず、サードポイントもだったと思います。分離するのがよいのかどうか私は専門家ではないのでわかりませんが、現時点でセブン&アイの経営者が分離しないほうがよいと考えているのならそれが正しいのだと思います。なぜならその道のプロが判断したことであり、私はその道のプロではないからです。投資家もセブン&アイの事業の専門家ではないでしょ?四六時中セブン&アイのことを考え続けている経営者の判断を尊重すべきです。

オリンパスとJSRはバリューアクトから社外取締役を受け入れましたが、いったいどういう判断をし、誰がアドバイスしたのでしょうか?たいしてバリューアクトに株を持たれたわけでもないのに、なぜ取締役として受け入れたのか理解しくい部分があります。

ホントにバリューアクトを外圧としてうまく利用して改革したのでしょうか?ただ、改革のためにアクティビストを受け入れて利用するってのはどうなんでしょうか?まあ、その結果はこれから出るのでしょう。

いまでも極端な株主還元を主張する従来型が散見され、物言う株主も一様ではない。経営陣は一律に防御ばかりを考えると市場から痛いしっぺ返しを食らう。追求すべきは企業価値の向上策であって経営者の保身ではない。

たぶんこれは昨今買収防衛策の発動が相次いでいることを意識しての内容かと思われますが、私は昨今の買収防衛策発動事例に関しては、1社を除いて「当たり前の経営判断」と思っております。MBOをしようとして価格が安いと株を買い占められ、当初の倍の価格にTOB価格を引き上げるもカウンターTOBをかけられ大幅増配で対抗するも、買収リスクが高まり買収防衛策で対抗しようとする。そりゃ「それは保身だろ!」って突っ込まれます。こういう発動はよくありませんよ。

でも目的もよくわからない、しかも部分的買収であり全株買収ではなく、にもかかわらず取締役を送り込んで実効支配しようとするような買収提案に関しては、時間と情報を株主をはじめとしたステークホルダーのために確保する必要がありますし、ステークホルダーの利益にならないと考えればときには買収防衛策を経営者が責任をもって発動することも必要でしょう。それは許される発動だと思いますよ。

どうしてこういった買収提案に対して買収防衛策を発動することが経営者の保身と言われるのでしょうか?その根底にあるのは「会社は株主のものである」という傲慢な考え方です。株主は役員の選解任権を持っているからこういう考え方をするのかもしれませんが、役員は人間です。役員は株主の所有物ではないのです。「会社は株主のものだ」ということを声高に言う株主は「オマエの人事権はオレが持っているのだから、オレの言うことを聞け」と考えているのでしょう。間違っていますね。

会社はものではありません。仮にものだとしても、株主だけのものではありません。会社という存在は、株主、役員、従業員、取引先、地域社会といったステークホルダーの貢献によって成り立っています。一部のステークホルダーの利益を犠牲にして、特定のステークホルダーだけが得をすると言ったシチュエーションは許されませんし、経営者が許すべきではありません。たしかにTOB価格は高いけれども、後に従業員のリストラが予定されているうえでの価格設定だとしたら、そのTOBに対して経営者は反対すべきですし、場合によっては買収防衛策を発動すべきです。従業員というステークホルダーを守るためにです。逆に株主以外のステークホルダーはメリットを得ることができるけど、株主が損をするような不当に安いTOB価格の場合も反対すべきでしょう(例えば不当に安いMBOとかですね)。いろんなステークホルダーの利害関係を調整し、適切な分配をするのが経営者の役目です。買収防衛策発動事例に関しては、1つを除いて保身であった事例はないと考えます。

最後に。本当に経営者は物言う株主と向き合う必要があるのでしょうか?私は、その株主が本当に会社のことを考えて意見を言っているのなら、真剣に向き合うに足りる株主だと思いますので、ぜひ向き合って議論してみるべきだと思います(言うことを聞くかどうかはまた別の話です)。そうではなく、時価総額以上の株主還元をしろと主張したり、シナジーも発生しないような相手先との経営統合をごり押ししてきたりするような株主に真剣に向き合う必要などないでしょう。そんなモンシェアと付き合うのは時間のムダです。あ、モンシェアってのはモンスター・シェアホルダーのことです。私の造語です。

かと言って、そのような株主は無視しておけばよいということではありません。真剣に会社のことを考えてくれるファン株主を増やし、モンシェア対策を打っておく必要があります。前者については、今までのIRを見直すべき時期に来ていると言えます。なぜ当社に投資してくれているのか、当社の何が魅力なのか、当社に敵対的TOBがかかった場合応募するかどうか何を判断基準にするのか、TOB価格だけなのか、買収防衛策についてどう思うのか・・・。などなどいろいろとあります。単に決算説明や中期計画の説明だけにとどまらず、知恵を絞ったIRをやっていく必要があります。アナリストにデータをあげるためのIRなどもう終わりです。

後者=モンシェア対策としての買収防衛策については真剣に考えておく必要があります。「当社の株主構成では導入できない」と思考ストップしてはいけません。株主総会で導入しようとしたら否決されるのであれば、他の方法はないのか?を真剣に考えるべきです。買収防衛策を含めた会社の防衛策=会社の危機管理について、いかなる上場企業も向き合わなければならない時代が来たのです。

 

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