No.1316 次のTOB株は???
以下、2022年5月16日の日経記事です。興味深い内容なのでコラムでまとめます。さて次のTOBはどの会社なんでしょうかね?そして誰がやるのでしょうか?
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB162VG0W2A510C2000000/
株式相場の一進一退が続く中、アクティビスト対応で思い切った株主還元策に動いた企業の株価上昇が目立っている。市場では次のTOB(株式公開買い付け)株への先回りを狙い、PBR(株価純資産倍率)が低い銘柄に買いが集まる。円安で日本株がさらに割安になり、海外アクティビストの動きが加速するとの期待もある。
まず最初に答えを言いますが、次に敵対的TOBを仕掛けるのはアクティビスト・ファンドではありません。彼らはもう敵対的TOBをしないと思いますよ。もちろん、不動産業界などは別です。不動産業界にとってアクティビスト・ファンドはフィナンシャル・バイヤーではなくストラテジック・バイヤーですから。不動産投資をしているアクティビストにとっては本業です。
他の業界でアクティビストが敵対的TOBをすることはないんじゃないかと思います。それは「仕掛けたところで有事型買収防衛策を発動されるから」ですね。アクティビストの動きは加速化すると思いますが、それはアクティビストによる敵対的TOBが増えるという意味での加速化ではなく、どちらかと言うと株主提案です。
もちろん揺さぶり目的のTOB提案などはあるでしょうね。例えば以下。私は「YFOは本気でTOBを仕掛けて買収するつもりはない」と見ていますが、何かしらの目的(たぶん儲けること)を達成するために、その手段としてTOBをほのめかしたり、提案したりすることはあると思います。
建設業界ではTOBが相次ぐ。インフロニア・ホールディングスは東洋建設の子会社化を目指すとして一株770円でTOBを公表、19日まで投資家の応募を受け付けている。足元では任天堂創業家の資産運用会社が株式取得を進め、インフロニアの提示を上回る価格で買収する意向も示す。インフロニアのTOBは不成立になりそうだが、次の動きが焦点になる。株価は800円台とTOB前より4割高い。
まあ、このTOB提案も東洋建設の賛同を条件にしていますから、まず東洋建設は賛同することはないでしょうし、有事型買収防衛策の導入を決めました。ただ、それはYFOも想定していたことでしょう。ここから先、インフロニアHDにもう一度TOBをかけさせるために、YFOがどういう手段を取ってくるかは見ものです。
しかしゼネコン業界は大変です。旧村上ファンドとかシルチェスターとか。YFOも登場しましたし、あまり話題になっていませんがストラテジックキャピタルも淺沼組や世紀東急工業に投資しています。ゼネコン業界については次回まとめてみます。
M&A(合併・買収)助言のレコフによると、日本のTOB件数は21年に71件と09年以来の高水準となった。藤原氏は「政策保有株の持ち合い解消が進み、買収防衛策に機関投資家が反対するケースも多い。TOBは賛同を得やすくなっており、今年も増える」とみる。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の藤戸則弘氏は「内需系、サービス系の企業で殻にこもった企業が多く、アクティビストの次のターゲットになりうる」という。
安定株主が減り、買収防衛策導入企業も少なくなり、TOBは賛同を得やすくなったから今年も増えると言っていますが、そう単純な話ではありません。平時型買収防衛策をやめる会社は増えているものの、上場会社のマインドは「いざとなったら有事型買収防衛策で対抗じゃー!」ですから。仕掛ける側も当然わかっています。今年も敵対的TOBが増えるかどうかはまだわかりませんね。日本企業の安定株主比率は減っているものの、物言わぬ個人株主もいます。こういう個人株主は有事型買収防衛策の発動議案に白票を投じる可能性があり、安定株主比率がそこまで高くなくても発動議案は可決されます。
また、現在敵対的TOBを仕掛けられているのは割と時価総額の大きくない企業です。減ったとは言え安定株主が20~30%くらいはいるので、発動議案を可決させることができるため、仕掛ける側も二の足を踏みます。まあ、本気でTOBを成功させるつもりがあるのなら、有事型で対抗されても本当はなんてことはないんですけどね。
今年の敵対的TOBの動向はどうなるでしょうか?私はちょっと違った予想をしてみたいと思います。上記記事にあるとおり、内需系・サービス系の企業に対する敵対的なアプローチは増えるでしょうね。以下のコラムでもまとめましたが、今後の日本は人口が減っていきます。
No.1310 敵対的TOBが必ず増える理由~攻撃こそが最大の防御です~
殻にこもった企業が多いと日経は言っていますが、中にはそうではない経営者もいるでしょう。そういった経営者が、内需系・サービス系に限らず、超大型の敵対的TOBをそろそろ仕掛けてくるんじゃないかという気がしています。超大型の敵対的TOBというのは、大企業vs大企業です。大企業は安定株主比率や個人株主比率が低く、有事型買収防衛策の発動議案を可決させにくいです。
これからの時代、独立性を守った経営をしていきたいのなら、なんでもやる必要があります。買収防衛策だって必要だし、最低限の持ち合いも必要です。そして敵対的TOBのターゲットになりたくないのなら、自らが仕掛けることも考えなくてはなりません。もうそういう時代なんです。