2022年08月30日

No.1377 ジャフコが導入したのが有事型だろうが平時型だろうがどっちでもよい

私は東洋建設やジャフコが導入した有事型買収防衛策のことを「これ、平時型とまったくと言っていいほど同じ仕組みやんけ。これは有事型という特殊な仕組みではなく、平時型買収防衛策を特定のターゲットを対象にしただけやんけ」と言い続けています。ただ、「守れるのならどっちでもいいじゃん」とお考えになる方もいらっしゃるかもしれませんし、実際そうでしょう。私も本音ではどっちでもいいです。ただ、私が有事型に対して批判的なスタンスを取る理由は以下のとおりです。

まず「平時型は機関投資家に評判が悪く、反対票を投じられ否決されるかもしれない。有事型は買収条件によっては発動に賛成してくれる」と説明するアドバイザーがいます。確かにそうです。昨今、平時型に対する機関投資家のスタンスは厳しく、継続・導入議案には反対されることが多いです。一方、有事型については、買収条件次第では発動に賛成してくれることがあります。例えば、東芝機械が旧村上ファンドに敵対的TOBを実施された際、特に海外の機関投資家は発動に賛成しました。おそらく、旧村上ファンドが東芝機械の全株を買収するという条件ではなく、最大で旧村上ファンド既保有分とあわせて43.82%しか買わないという条件だったからでしょう。過半数も取得しないのに、旧村上ファンドの好きなように経営されることを危惧したのかもしれませんね。

一方、アスリードに敵対的TOBを実施された富士興産については、国内の機関投資家は発動に賛成した方もいますが、東芝機械の発動に賛成したブラックロックは富士興産の発動議案には反対しました。おそらく、アスリードの買収条件が全株買収だったから、かもしれません。そして東洋建設の有事型買収防衛策の導入議案も実質的に否決されました。YFOの買収条件が全株買収だったからでしょうね。

結局のところ、機関投資家が有事型の導入や発動に賛成するかどうかは、買収条件次第なんですよ。だから平時型は機関投資家の評判が悪く有事型なら賛成してくれるってのは間違いなのです。にもかかわらず、いまだに有事型のほうがいいんだと言うアドバイザーがいることが私が批判する理由の1つです。

そして私が最も許せないのは以下の2社の開示です。まず東洋建設。P35です。

https://www.toyo-const.co.jp/wp/wp-content/uploads/2022/06/convocation_notice_20220602.pdf

本対応方針は、大規模買付行為等が行われる具体的かつ切迫した懸念への対応を主たる目的として導入されるものであり、平時に導入されるいわゆる買収防衛策とは異なるものです。即ち、本対応方針は、当社の中長期的な企業価値ないし株主の皆様共同の利益を最大化するための、いわば「対等な交渉力確保目的スキーム」であって、買収防衛を目的とした一般的な「買収防衛」策ではございません。

そしてジャフコ。

https://ssl4.eir-parts.net/doc/8595/tdnet/2174167/00.pdf

本対応方針は、既に具体化している本株式買集めを含む大規模買付行為が行われる具体的な懸念への対応を主たる目的として導入されるものであり、平時に導入されるいわゆる事前警告型買収防衛策とは異なるものとなります。

これはあまりにひどい。特に東洋建設の開示はひどすぎる。平時に導入している事前警告型ルールのことをあたかも買収防衛を目的とした買収防衛策と称し、経営者の保身のように言っています。ジャフコの開示はずいぶんとトーンが抑えられましたが、それでも平時の事前警告型ルールをわざわざ「事前警告型買収防衛策」と呼んでいます。

東洋建設・ジャフコが導入した有事型買収防衛策と平時型買収防衛策の仕組みにどういう違いがあるんでしょうか?ないでしょ?買収防衛策のターゲットを特定しているかどうかの違いだけで、両者とも目的は「情報と時間を確保すること」ですよ。東芝機械や富士興産は有事型買収防衛策の導入に加えて発動を議案にかけました。あきらかに買収提案の実現を阻止することが目的であり、まさに買収防衛策です。なお、私は買収防衛策が悪いと言っているわけではありませんよ。会社を守るために、ときには買収防衛策も必要だからです。

しかし東洋建設やジャフコが導入したのは有事型ではあるものの、その目的は現時点では発動ではありません。少なくとも現時点では特定の買収者に対して情報と時間の提供を要請しているルールです。平時型とやっていることは同じですよ。

しかし私が解せないのは、どうして有事型のタイトルに(買収防衛策)と表記していなのか、という点です。この点、どうしても解せないので昨日聞いてみました。誰に何を?

それは明日のコラムで。

 

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