2019年02月07日

No.518 セイコーエプソンの買収防衛策に書いてあること

以下、セイコーエプソンの買収防衛策のプレスリリースに書いてある内容です。セイコーエプソンは「買収防衛策の導入・更新が、当社の企業価値の維持・向上に一定の友好的な役割を果たしてきたものと考えております。」とおっしゃっています。

本プランは、上記に記載した基本方針に沿って、当社株式の大量取得行為に対する一定 の枠組みを定めるものであり、当社の企業価値ひいては株主共同の利益を確保し、向上さ せることを目的とするものです。当社は、2008年の当社株式の大量取得行為に関する対応策の導入以降、現行プランの有効期間までを通じて、2015年までに当社が目指す姿を定めた前長期ビジョンSE15の実現に取り組んでまいりました。SE15で定めた方針の下、経営資源を集中し、一貫した施策に取り組んだ結果、安定的かつ継続的なキャッシュ創出力を構築するとともに、業績を大幅に回復することができました。 また、2014年の前回更新以降、厳しい事業環境の中においても、堅調な業績を達成し、株主還元の充実を図るとともに、一層の飛躍に向けた施策を確実に推進してまいりました。 さらに、当社は、監査等委員会設置会社への移行や取締役会の員数の3分の1以上を独立社外取締役とするなど、当社の企業価値の維持・向上を担保するためのコーポレートガバナンスの充実・強化にも継続的に取り組んでまいりました。これらの成果から、一連の「当社株式の大量取得行為に関する対応策(買収防衛策)」の導入・更新が、当社の企業価値の維持・向上に一定の有効的な役割を果たしてきたものと考えております。

https://www.epson.jp/IR/pdf/news_170428_2.pdf

買収防衛策を導入・更新している会社は、常に「買収防衛策を導入・更新するために賛成票を投じてもらうにはどうすればよいのか?」を考えています。常に、です。実はセイコーエプソンが買収防衛策でこのようなことを主張しているというのも、私が見つけたのではなくお客様から教えていただきました。買収防衛策を更新しているお客様です。

なぜセイコーエプソンの買収防衛策を見つけられたのでしょうか?たぶん、自社の買収防衛策を株主に認めてもらうためにどういう工夫をすればよいかを常に考えていらっしゃるからであろうと思います。株主に認めてもらうために、という点がポイントです。決して買収防衛策によって買収提案を阻害することを考えているのではなく、株主の理解を得るために考えているのです。

今回のコラムは無料で公開しています。というのも、ぜひ投資家に読んでもらい、買収防衛策を導入し続ける会社の考え方、気持ちを理解してほしいからです。私はお客様をだいたい月に1回は訪問しています。そして、今株式市場で起きていることをお伝えし、意見交換をしています。このコラムを読んでいない方や買収防衛策を導入していない会社は、たぶん、新明和工業が村上ファンドに株式を大量に買われていること、自己株TOBを公表したこと、新明和工業以外にマクセルや東芝機械も買われていること、などをご存じないでしょう。廣済堂の件もご存じないはずです。ご存じないということは、自分たちに同様のことが起きたときに適切に対処できないということではないかと思います。

あるお客様は、企業防衛について検討を開始されました。そのお客様は、10年前は買収ターゲットにはならなかった規模の会社です。なぜ検討を開始されたのかというと、10年前とは違うステージに日本企業が入ったと認識されたからです。10年前にも検討はしたけど「うちがターゲットになることはないだろう」と考えたが、今やターゲットになる時代になったと認識されたからです。

あるお客様は安定株主比率が高く買収されることはないだろうけど、買収防衛策を導入し続けています。何かあってからでは遅いと考えているからです。安定株主比率が高いことだけでは守れません。だって最近、帝国繊維に対して株主提案が実施されましたよね?帝国繊維は非常に安定株主比率が高い会社です。にもかかわらず、株主提案をされました。昨年6月総会では安定株主比率が高いTBSに対して株主提案が実施されました。安定株主比率が高くてもターゲットになるのです。何かあってから買収防衛策を導入しても、本当は遅いのです。

買収防衛策を導入・継続したり、検討したりしている会社は、決していかなる買収提案の実現をも阻害するために導入・継続・検討をしている訳ではありません。皆さん「買収防衛策で守り切ることなど不可能」と認識しています。ではなぜ導入・継続・検討するのでしょうか?それは、いざというときに株主・従業員・取引先のために、きちんと情報を収集し、検討する時間を確保するためです。また、株主に対して代替案(ホワイトナイトによるカウンター提案、株主還元の強化など)を提示するためです。

最近アクティビスト・ファンドに株式を取得されたり、事業会社に敵対的TOBを仕掛けられたりした会社の対応を見て一言申し上げるとすれば「皆さん、非常に杜撰な対応をしていますね」です。なぜ配当や自社株買いを小出しにするのか?なぜ突然自己株TOBを公表するのか?なぜ自己株取得なのにプレミアム付きの価格で実施するのか?いまにも敵対的TOBを仕掛けられそうなのになぜ買収防衛策を導入しないのか?

ちゃんと普段から企業防衛体制や株主利益、企業価値向上について真剣に検討していないからですよ。普段から適切に考え、他社事例を勉強していれば、首尾一貫した株主利益や従業員などを守るための企業防衛行動を取れたはずです。

「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」

 

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